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【受賞・書籍化】悪役騎士、俺。 ~悪役令嬢を助けたら、なぜか国を建てることになった件~  作者: 九條葉月


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後味

 村長も大変だなーっと俺が同情していると、


「……あとはねぇ」


「キングゴブリンに圧勝したアーク様を敵に回すかもしれませんし」


「ん。むしろそっちを恐れている感じ」


 三人娘が小さな声でそんなことを言っていた。それじゃ俺の方がキングゴブリンより危ないみたいじゃないか。


「ツッコミ待ち?」


 なんでだよ?


 ミラに言いたいことは多々あるが……。のんびり雑談できる雰囲気でもないのでそれは一旦置いておくとして。


 まぁニレという男の気持ちも分かる。何もしてないのに村を襲われて、なんの補填もなしにハイサヨウナラなんて許せないだろう。


 しかし、ゴブリンたちが村を襲ったのは元はといえばシルシュのせいだし……。ゴブリンはゴブリンで仲間を思いやる気持ちを持っている。というか意思疎通ができてしまうからな。正直、俺としてはどっちの味方もしたいというか……。


「そうですね、ダンジョンから得られる素材をこの村に渡して補填金とする。なんてのはどうでしょう?」


 ゴブリンが食料を得るために魔物を狩り、その魔物から剥ぎ取った素材を村に。補填が終わればあとはゴブリンの儲けにできるし、いいアイディアじゃないか?


「よ、よろしいのですか!?」


「えぇ。その方が後腐れないでしょうし。あとは自分の名において、二度とこいつらが村を襲わないと誓いましょう」


「なんと、そこまで気を使っていただけるとは……」


 あとできるとしたらゴブリンたちからの謝罪とか? しかし魔物だからな。彼らはあくまで弱肉強食。弱い者が食われ、強い者が生き残る。そんな理屈を生きている彼らに謝罪させたところで心はこもらないし、村人たちの神経を逆なでするだけかもしれない。


 悪いことをしたら捕まって罰を受ける。というのはあくまで人間社会の理屈。魔物に人間社会の刑法は通用しない。まぁだからこそ即座に死刑=討伐となってしまうのだが……。


 理屈の上では、そうなる。

 でも、許せないというニレの怒りを無視するのも可哀想だ。


 だが、一度面倒を見ると決めた以上、『キングゴブリンの首を取って解決とする』というのは俺が許さない。


 うーむ……。

 どうしたものか……。


『――まどろっこしいのぉ』


 やれやれと割り込んできたのはシルシュ。ドラゴンなんて不老長寿なんだからもうちょっと我慢強くてもいいと思うんだが……。


『こういうときは、力で解決するのが一番じゃ』


 力で?


 ……あー、そういうことか。


 シルシュが出てくると酷いことになる。

 確信を抱いた俺は、(少々手遅れな感じはするが)場を丸く収めるため『悪役』になることにした。


「ニレだったか? お前さん、武器は何だ?」


「は? 武器だと?」


「おう、弓でも、剣でも、シルシュの宝物庫にある中から好きなものを貸してやる」


「な、何を言って……」


 戸惑うニレに構うことなく、俺はキングゴブリンに視線を移した。


「キング、ちょっとこっちに来てくれ」


『へい』


 ずんずんと。

 建物の二階を超えそうなほどの身長を誇るキングが近づいてくる。


 その身長。そして筋肉の厚み。それが接近するだけで村人たちは軽くパニックとなっていた。先ほどまで威勢の良かったニレも腰を抜かして地面に手を突いている。


「――よし。これより決闘を行う。作法については王国式。見届け人はこの俺、アーク・ガルフォードが務めよう」


「け、決闘だと!?」


「おう。村と村人に被害が出た以上、許せないというお前さんの気持ちも良く分かる。――だから、復讐する機会を与えよう。正々堂々、一騎打ちだ」


「ふ、ふ、ふざけるな! こんなバケモノと戦えるか!? 何が決闘だ! お前も騎士ならさっさと魔物を倒せよ! 民を守るのが仕事だろう!?」


「すまんが、俺は近衛騎士なんでな。仕事内容は国王陛下とご一族の護衛だ」


 あとは王城警備も仕事のうちだが、まぁわざわざ説明しなくてもいいだろう。


 というか、『民を守るのが仕事』だと? いったい何の話をしているんだ?


 近衛騎士は王と王族の護衛が仕事。

 第一騎士団から第三騎士団は国王のために外敵を倒すのが仕事。


 他の騎士団も治安維持やらなんやらと仕事を割り振られているが……民を守ることが仕事の騎士など、一人もいない。各地の貴族が抱える騎士団もそう。領主と領地を守るために戦うことが仕事であって、民が守られるのは結果論でしかない。


 人権なんてものは存在せず。

 王と貴族のために国はあり。

 極論すれば、民とは、権力者の所有物にすぎない。


 ここは、そういう世界だ。


 それに異を唱えるのなら、自分自身が『王』となって国を変えるしかない。


(なんでそんな勘違いをしているのやら……)


 呆れつつも、俺は腰を抜かしたままのニレに最後通牒をすることにした。


「まさか、散々文句を言っておきながら、戦うのは俺に任せるつもりだったのか? それはちょっと虫が良すぎじゃないか?」


「な、な、な……っ!」


 まだ何か言おうとしていたニレだったが、


「――騎士様。うちの若いのが大変な失礼を。お許しくだされ。そもそも村を救ってくださった感謝を忘れるなど……」


 村長が間に入り、地面に手を突いたことでうやむやになった。


 こちらとしてもニレが黙るのならこれ以上何かするつもりはないし、村長に頭まで下げさせてしまったことで罪悪感すらある。


 というわけで。

 なんだか微妙な空気になってしまったが、俺たちは魔の森へと戻ることにした。




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