魔王?
なんかよく分からんが、俺には『自動翻訳』のスキルがあるらしい。まぁシルシュが言うのだからそうなのだろう。きっと。
となると……。
俺は改めてキングゴブリンたちに向き直った。
「……お前さんたちにも俺の言葉が理解できているのか?」
『オォオ……』
なんだか『はい、理解できます』と言われている。ような気がする。なるほど意思疎通はできそうだ。
しかし、これはあくまで「気がする」だけだからな。もしかしたら意思疎通が不完全で、後々とんでもないことになる可能性だってある。ここは無理にスキルを使わず、シルシュに間に入ってもらって会話をするべきか?
『まどろっこしいのぉ』
と、そんな面倒くさそうな声を上げたシルシュが――俺の脳天に手刀を叩き込んできやがった。
痛ぇえええぇえ!? 超痛ぇええぇえええ!? 頭割れたんじゃないか文字通り!?
あまりの激痛に地面をゴロゴロと転がってしまう俺。それこそシャルロットのように。
『なんじゃ大げさな』
ドラゴンの手刀は全然『大げさ』じゃないからな? いやしかし肉片にならなかったのだから手加減はしてくれたのか? ……ただ単に俺の肉体がシルシュの血で強化されただけの可能性もあるか。
『――だ、大丈夫ですか我が王!』
そう叫びながら駆け寄ってきてくれたのはキングゴブリン。彼は自分の群れがシルシュのせいで酷い目に遭ったというからな、他人事じゃないのだろう。
……お?
キングゴブリンの喋っていることが分かるな? 今までの「なんかそんな気がする」じゃなくて、明瞭に。
これは、あれか? シルシュの力で俺のスキルが調整されたとか、秘めたる能力が解放されたとか、なんかそういう創作物でよくある展開か?
『我の力を「よくある」扱いされるのも……もっとこう、恐れ敬い感謝せよ』
「へへー、さすがはシルシュ様でございますー」
『うむうむ、素直なのはいいことじゃ』
嬉しそうに尻尾を振るシルシュだった。比喩ではなく、人間形態なのにドラゴンっぽい尻尾を出して、ブンブンと振っているのだ。
チョロい。
そんなチョロいシルシュ様のおかげでダンジョンが使えるので、キングゴブリンたちの食料や生活場所に問題はない。
「というわけでだ。お前さんたちは俺の管理するダンジョンで生活してもらうが……構わないか?」
俺が確認を取ると、なぜかキングたちはワナワナと震え始めた。
『ダンジョンを、管理……? それはまさしく魔王の御業――さすがは我が王でございます』
『マジっすか!』
『すげぇっす!』
魔王?
なんで人間の俺が魔王になるんだよ?
『そりゃおぬし、ゴブリンの王たるキングゴブリンを従え、ダンジョンを維持管理するなど、魔王以外の何者でもあるまい?』
「…………」
そう言われてみるとメッチャ魔王っぽいな、俺? いやしかし人間なのに魔王って――あるか。そういう系の物語、前世では結構あったか。
「悪役を通り越して」
「魔王ですか……」
「ん」
なぁんか、三人娘から「まぁアークだしなぁ……」みたいな反応をされている気がする。なんでだよ?




