第2章 エピローグ つまりすべてライラが悪い
――神聖アルベニア帝国。
「おのれぇい!」
この国の皇帝、ガイラークは怒りが収まらなかった。せっかくあと少しでレイナイン連合王国を滅ぼせるところまで行ったのに、突如として会戦に乱入してきた『勇者』ライラのせいでその野望も大きく後退してしまったためだ。
損耗した兵を回復するまで、まだ時間が掛かるだろう。
その間にレイナインの連中は他国との同盟を纏めてしまうかもしれない。というよりも、同盟が結ばれる前に各個撃破しようとしたのが先の戦だったのだ。レイナインさえ打ち倒せば、あとは兵を動かさずとも屈服させることができたというのに……。
「許さん……許さんぞライラ……。勇者でありながら人間の邪魔をするなど……」
勇者とは魔王を倒すために存在する、人類の味方。それを逸脱した行動を取ったライラは、人類にとって許せぬ存在だとガイラークは考える。
自らを自然と人類代表に据えているガイラークだが、そのくらいの自尊心がなければ皇帝などやっていられないのだろう。きっと。
「ライラを送り込んできたリーフアルト王国もだ! 必ずや滅ぼしてくれる! たとえレイナイン征服を後回しにしてでも!」
気炎を吐くガイラークに対し、宰相は顔を青くしてしまう。
ただでさえこちらは先の戦で兵を消耗したというのに、この上リーフアルト王国とも戦端を開くなど……。今の我が国の兵力ではリーフアルト王国をすぐに屈服させることは難しいし、そんなことをしていてはレイナイン連合王国は兵力を回復させてしまうだろう。
ここはレイナインとの決着を優先するべき。
なんとしてでもこの短気な皇帝を止めなければと宰相は頭を捻る。なにか、皇帝の気を引くことができるものは……。
「――――」
天啓。とでも言うべきひらめきが宰相に舞い降りる。
「陛下。今リーフアルト王国と事を構えるのは得策ではありません」
「何!? ではどうしろというのだ!? まさかあれだけ舐めた真似をされたのに許せとでも!?」
「いえいえ、おそらくはあの腹黒が暗躍しているのでしょうが……ここはやはり、どちらが『上』であるか教えてやるべきかと」
宰相の顔から「面白い意見が聞けそうだ」とでも思ったのだろう。先ほどまでの激高が嘘のように上機嫌となったガイラークが話の続きを求める。
「ほぉ? 具体的には?」
「はい。――同盟の深化のため、あの国の王女ソフィーをこちらに嫁がせるのはいかがでしょう? あの女性は聡明であり、年もまだ若く、何より美人と聞きますから……」
「……ほぉ。たしかにリーフアルトのソフィーは美しく育ったと聞くな……」
「はい。あの愚かな王太子が実権を握っているうちに話を纏めてしまえば……」
「あの腹黒が舞い戻ったあとでも、同盟国同士の決めごとであればひっくり返すことできんか」
「約束の反故を理由として攻め込むならば、大義名分も立ちます」
宰相としては、正直どうなろうともいい。交渉をしているうちはガイラークの感心がソフィーに注がれるので、その間は兵力の回復に努められるからだ。
「どちらに転んでも悪くはないか……」
ソフィーを手に入れる未来を想像したのだろう。ガイラークは何とも満足そうに笑うのだった。
※お読みいただきありがとうございます
申し訳ありませんが、更新一週間ほどお休みします
(一旦最初から読み直すのと、別作品の発売前でゴタゴタしているため)
よろしければ書籍二巻が発売される『信長の嫁、はじめました~ポンコツ魔女の戦国内政日記~』もどうぞ。ノリはこんな感じです
https://book1.adouzi.eu.org/n4738hv/




