建国王(人類の国家とは言っていない)
迷宮王の指輪。
ダンジョンマスター。
前世でもそういう『ダンジョンマスターもの』とでも言うべきジャンルはあった。定番だとダンジョンポイント(D.P.)を消費して魔物を生み出したり拡張したりするって感じだ。
「ダンジョンポイント――いや、魔物を生み出すのには何か代償が必要なのか?」
『うむ。侵入者を倒してD.P.を貯めて、それを消費すればよい』
この世界でも『D.P.』って名前なのかよ。というツッコミはとりあえず置いておくとして。
侵入者を倒して?
それってアレだよな? ダンジョンに入ってきた冒険者の死体や装備を吸収して――ってやつ。
う~む……。
冒険者は自己責任だからな。ダンジョンで死んでもこっちが責任を感じる必要はないし、死体や装備についても同じ。死体は土に返し、装備は最初に見つけた者が獲得。それが冒険者のルールだ。
しかしまぁ、うちにはそういうのに慣れていない女性陣がいるからな。なるべく避けるべきだろう。
「他に何か手は――そうだ。あの四人組はシルシュが残した魔力を使って魔物を生み出したんだよな? それはできないか?」
『……それは、我の魔力を使うという意味かの?』
「シルシュって凄い魔力を持っているからなー。頼りになるのはシルシュだけなんだよなー」
『……うむうむ、分かっているではないか。やはり人間とは頼りべき者を見誤ってはいかんよな』
チョロい。
いや、これはシルシュがチョロいんじゃなくて、ゴブリンに対する罪悪感がそうさせたのだろう。うんうん、きっとそう。そうに違いない。
さて。
食糧問題は解決しそうだし、住む場所もダンジョンの中で準備すればいい。
あとは――
俺は確認するためにシャルロットたちの方を見た。いつの間にかラックやエリザベスもこちらに来ていたようだ。
「……これ、もしボクたちが反対したらどうなるのかな?」
「あら、シャルロット様は反対されるのですか?」
「ん。私は賛成。意思疎通のできる魔物との共存。とても興味深い事例。――それに、理解者として一歩リード」
「いやいや、いやいやいや、こんなことで抜け駆けしようとするのはどうかと思うなボクは!」
なんか騒がしいが、反対意見は出なさそうだな。
ちなみにエリザベス嬢とラックはというと。
「ゴブリンを……大丈夫でしょうか?」
「ご安心ください。何があっても、エリザベス様は私が守ります」
「ラック様……」
「エリザベス様……」
けっ。イチャイチャしやがって。
『オォオ……』
キングゴブリンも呆れ顔だった。どうやらあの二人のいちゃつきは種族すら超えるらしい。
まぁとにかく。反対意見が出る前に話を進めてしまおう。
俺は改めてキングゴブリンたちと向き合った。
人間、出来ることと出来ないことがあるが――出来そうならば全力でやるべきだ。
「よし、お前さんたちは俺が面倒見てやるよ」
――こうして。
王太子の暴政を見かねて立ち上がった英雄。
人・魔を統治した真なる王、真王。
あるいは、人類を裏切った魔王。
史上初めて人類と魔物が共存する国家を打ち立てた『建国王』アークの物語は、大きな転換点を迎えたのだった。




