出来ることと出来ないこと
『……ほぉ、そんなことが……』
キングたちから事情を聞き終わったのか、そんな呟きを発するシルシュだった。
なんだろう?
なんだか『やっちまった!』という雰囲気が漂っている気がする。なぜか双方から。
キングたちは冷や汗だくだくで『言っちゃったよ……どうなるんだ俺たち……』みたいな顔をしているし、シルシュはシルシュで失敗を誤魔化すように視線をあちこちに漂わせている。
……ははーん?
「やっぱりシルシュが何かしたんじゃねぇか」
『は、はぁあ!? 何もしとらんし!? 不幸な事故じゃし!?』
なんか素直に自供し始めたシルシュだった。ドラゴンなんだからこういうときの誤魔化しも上手そうなものなんだが……いや、ドラゴンを詰めるような存在なんていなかっただろうし、逆に経験が浅いのか?
まぁ四六時中のらりくらりとやられるよりは付き合いやすくていいんだが……。
「で? なにをやらかしたんだ?」
「や、やらかしたというかー? 我が力を示しすぎたというかー?」
かくかくしかじか。
シルシュの口から語られた事実に頭を抱えてしまう俺だった。なるほどすべてシルシュが悪い。
「解せぬ」
シルシュが寝言をほざいていたが、お前さんと師匠で十割悪いじゃねぇか。あのままだったらゴブリンたちも魔の森で暮らし、人間の村を襲うこともなかったのに……。
なぁんか、ゴブリンたちの肩を持っている俺だった。
いやでもしょうがないよな。うちの師匠とシルシュが悪いんだし。キングゴブリンは配下を守るために首を差し出そうとするし。ゴブリンたちはそんなキングを守ろうとするし……。
俺はこういう武人というか義理人情に厚い人間に弱いのだ。ゴブリンだけどな。
何とかしてやりたい。
でもなぁ、人間、出来ることとできないことがあるんだよなぁ。
…………。
……いや、何とかなるか?
食料は魔の森で魔物を狩ればいいのだし、シルシュのドラゴン・ブレスで魔の森には大きな平地ができたので農業だってできるはずだ。もちろん地質などの問題があるが、その辺はメイスに鑑定してもらえばいい。
「お、そうだ」
ダンジョンに入る冒険者はダンジョンの中で倒した魔物を食べるという。そうすれば持参する食料を少なくすることができるからな。
「シルシュ。あのダンジョンに普通の魔物って出るのか? 食べられるヤツ」
『む? どういうこと――なるほど、そういうことか。何とも奇特な……』
ちょっと呆れ顔をしつつも、止める様子はないシルシュだった。彼女にも罪悪感があるらしい。
『ふーむ、アークの持っている迷宮王の指輪はダンジョンマスターの証。ダンジョンの中であれば好きな場所に魔物を出現させられるし、ダンジョンの拡張や内部の組み替えも可能じゃ』
「持っているというか、無理やり嵌められたというか……」
そういえばまだあの結婚指輪(?)は嵌めたままだったな。あのあとすぐレディから助けを求められたから。
しかし、なるほど。あのポンコツ四人組が迷宮王の指輪を持っていたからこそダンジョンの入り口を消したり師匠たちを強制転移させることができたってところか。
これ、もしかしてすごく強力な指輪なのでは?




