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【受賞・書籍化】悪役騎士、俺。 ~悪役令嬢を助けたら、なぜか国を建てることになった件~  作者: 九條葉月


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閑話 寒村


 王女殿下の執事クルスと、Aランク冒険者でもあるレディはゴブリンに襲われたという寒村に到着した。


 かつては魔の森開拓の最前線として騎士団すら駐屯していたほどの規模の村だったのだが、往時の面影は、人が住まなくなり崩壊しつつある建物からしか読み取ることはできない。


 かつてアークたちが訪れた村。


 彼らが来たときよりも村に人影はなかった。ゴブリンの襲撃で負傷し療養しているのか、あるいは――


 ともかく、まずは村長から詳しい話を聞くことにしたレディだ。


 最初はいかにもな貴族の令嬢を訝しんでいた村長だったが、レディがAランク冒険者証を提示したことにより態度が急変した。


「いや! これはこれは! まさかAランク冒険者様がこのような寒村に! ささ、まずは我が家で長旅の疲れを――」


「いや結構。それよりもゴブリンの話を聞こうじゃないか」


「そ、それもそうですな……。しかし、我が村にはAランク冒険者様にお支払いできるほどの金銭は……」


 途端に暗い顔をする村長だった。まず先にお金が足りないことを自白するのは良い人間であるせいか。あるいは人情に訴えることにした腹黒なのか……。先に歓待をして断りにくい雰囲気にしようとしたあたり後者なのかもしれない。


「あぁ、気にすることはないよ。私は偶然、魔の森に向かう途中で立ち寄っただけだからね」


「そ、そうですか……しかし無報酬というのも……」


「そうだね、じゃあこの村で一番良い宿を紹介してもらおうかな? もちろん豪勢なおもてなし付きでね」


「そ、それでよろしければ、こちらとしては助かります。……しかし、一番いい建物はかつて騎士様の詰め所として使われていた場所なのですが……現在はゴブリンに対する防御施設と避難所として使っておりまして……何かと騒がしいですし怪我人も収容されております。ここは二番目に良い――」


「うん、ちょうどいいね。やはりゴブリンを迎え撃つなら陣地はあった方がいい。早速案内してもらおうか」





 騎士の詰め所として使われていた石造りの建物。


 その屋上で、レディはクルスと共に村全体を俯瞰していた。


「ほぉ、大きな村だねぇ」


「この村は確か、魔の森に対する最前線基地でしたから」


 王女の執事になるにあたって、国内情勢についてある程度の知識を詰め込まれているクルスだ。万が一王女から意見を求められたときに淀みなく答えられるように。


「ほぉ、なるほど。確かに防御に適した形をしているね」


「そうなのですか?」


「うん。村の周りには水路があるし、低いながらも石垣がある。魔物から身を守るにしては不十分だが、村に騎士や冒険者が常駐していたならこれで十分だったのだろうね。石垣とはそう易々と組めるものでもないし。柵しかない村もあるのだから立派なものだよ」


「はぁ……」


 それでも最前線基地だったのだからもっと豪勢にすればいいのにとクルスは思うが、我が国の懐事情を思うとそうも言っていられないだろう。先代の王も、現王も、謀略は得意だが経済に明るいわけではないのだ。


「……なるほど。ゴブリン共は魔の森方面から攻め込んできたみたいだね」


「見ただけで分かるのですか?」


「うん。そちらの方面にゴブリンの死体が放置されているし、木の枝などで水堀が埋められているからね。かなり激しい戦闘があったのだろう」


「ははぁ」


 よく考えればそうだなと感心するクルス。彼も戦闘訓練を受けているが、あくまで目的は貴人の護衛だ。群れや軍勢相手の戦い方などは素人同然と云っていい。


「生きているゴブリンがいないということは、もう襲撃は撃退できたと考えてもいいのでしょうか?」


「……いや、そうとも限らないかな」


「と、言いますと?」


「ゴブリンの群れは一度で全力を出さないんだ」


「何度も小刻みに襲撃すると?」


「うん。まずは小規模な集団で村を襲撃。人間たちに警戒をさせて、消耗するのを待つんだ」


「なんとも……」


 人間側からすれば、ゴブリンがいつ襲撃するのか分からないのだから常時見張りをしなければならないし、警戒態勢を維持していては身も心も休まらないだろう。対するゴブリンたちは自分たちで襲撃の時間を決められるので、それ以外は十分に身体を休めることができると。


「知能が低いと言いますが、ずいぶんと頭脳派ではないですか?」


「今までの経験から、それが一番だと分かっているのだろうね。でも、自分たちで考えたわけじゃないから予想外の展開が起こると対応策を練り出せないんだ。――たとえば。一度目の襲撃の時にいなかったはずの強力な戦力がいた場合、とか」


「…………」


 つまり、自分たちがその予想外(イレギュラー)なのだなとクルスは理解した。




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