めがぁあああ
さらばニーズヘッグ、いいヤツだった――いや、いいヤツかどうかは知らないが、同情するに値する悲惨な最期だったよ……。
「……さすがにこの量の鱗は持ち帰れんな。まぁダンジョンの中だし、ここに保管すればいいか」
血まみれのまま今後の算段を立てる師匠だった。
『ドラゴンの肉は一週間くらい放置すると美味くなるのじゃよ。アークにも食わせてやろう』
そんな、マグロの熟成みたいな扱いでいいの?
「おっと、そうだ」
世界樹。世界樹は無事か? なにせあのポンコツ四人組が師匠たちを強制転移させたのは世界樹を傷つけないためだったのだから。
俺がニーズヘッグの素材(もはや死体ですらない)を避けながら世界樹の元へ移動すると――世界樹は、無事だった。
いや、無事というか、なんというか。
奇跡的に傷は付かなかったようだ。
しかし、ニーズヘッグの飛び散った血やら肉片やらを全身に浴びてしまっていた。
世界樹といえば神聖とか神々しいというイメージがあるんだが……これはもうホラー映画やスプラッタ映画に登場する系のヤバさだな。
どこかから水を持ってきて汚れを落としてやるかーなどと考えていると、
「……おお!?」
世界樹が、蠢いた。
ぐんぐんと。
まるで早送りをするかのように、ぐんぐんと育っていく世界樹。
なんだ? ドラゴンの血を浴びた悪影響か? いや成長しているのだから良い影響か?
…………。
……まぁ、世界樹なんだから大っきく育っても問題はないよな。俺が自分で自分を納得させていると、
『ピィイ……』
フレズが右の翼で空を指差した。さほど時間をおかずに世界樹の先端が到達するであろう場所。どこまでも空が続いているように見えるが、ダンジョンの中だものな。もしかしたら世界樹がぶつかってしまうかもしれない。
できることなら天井に穴を開けて健やかな成長をさせてやりたいが、ダンジョンを壊すのはさすがに無理――できるな。できそうなのが二人いるな。
ここは遠距離攻撃ができるシルシュか。
「……おーい、シルシュー。ちょっと世界樹の上の天井を吹き飛ばしてくれないか?」
「ふむ。よかろう。まず我を頼るとはさすがアークよな」
ふふん、というドヤ顔を師匠に向けるシルシュ。ぐぬぬ、という顔をする師匠。ここでケンカされると今度こそ世界樹がへし折られるのでは?
俺としては心配でならなかったのだが……どうやら世界樹の成長速度からしてケンカしている暇はなさそうだと判断してくれたらしい。
「では――」
シルシュが元の姿――つまりは白いドラゴンに変身した。
『みぎゃああああ!?』
『白いドラゴン!?』
『シルシュ!? シルシュですか!?』
『なぜこんなところに!? 世界樹は美味しくないですよ!?』
意識を取り戻したっぽい四人組が絶叫していた。ちなみにあんたらその『シルシュ』を強制転移させたんだけどな? また気絶しそうだから黙っておいてやるが。
シルシュがガコンと顎門を開き、天井に狙いを定める。
「――ん。防御結界を世界樹に」
ミラを中心として、魔法が得意な女性陣が世界樹周辺に結界を張ってくれる。なんかもう慣れているな。一度吹き飛ばされたことがあるから当然か。
――ドラゴン・ブレス。
素人目線だが、ニーズヘッグのものより遥かに強力なように感じられるな。ニーズヘッグが火炎放射なら、シルシュはレーザーキャノンって感じ。
瓦礫すら消滅させながらシルシュのドラゴン・ブレスが天井に大穴を開ける。たぶんダンジョンの各階層をぶち抜いて外まで繋がったんじゃないか?
もちろん、ドラゴン・ブレスと共に閃光が発せられたのだが、すでに経験済みの俺たちは各々で瞼を覆ったりして耐閃光防御をしている――
『みぎゃあああ!?』
『眩しい!』
『目がぁあああ』
『ぁあああぁあ!?』
目を押さえながらゴロゴロと地面を転がる四人組だった。どっかで見たことのある光景だな。




