これが勝利の鍵だ!
『――ガァアアァアアアァアアアアアァアッ!?』
両目を潰されたニーズヘッグがさらに大暴れし、俺はとうとう空中に放り出されてしまった。まぁそれ自体は想定内だったのだが。
「……しまった。着地方法は考えてなかった」
魔法は得意じゃないが、何とか風魔法で減速。あとは身体強化で無理やり着地するしかないかと考えていると――
『――ピィイ!』
いつの間にか空を舞っていたフレズヴェルグが、足で俺をキャッチしてくれた。
なんだか獲物になった気分だが、助かったことに変わりはない。
「助かったぜ。え~っと、フレズヴェルグ? でいいのか?」
『ピィイ』
なぁに、もっと気安く呼んでもらってかまわないぜ兄弟。と、言われている。ような気がする。
「じゃあ、フレズ?」
『ピィイ』
どこか嬉しそうに鳴きながらフレズはシャルロットたちのいる場所に俺を降ろしてくれた。一安心、だが、危機が去ったわけではない。
『グガァアアアアァアア!』
両目を失ったドラゴンが滅多矢鱈に尻尾を振り回し、俺たちを薙ぎ払おうとする。
「よし! とりあえず逃げるか!」
ポンコツ四人組が腰を抜かしているので、俺とラックでそれぞれ両脇で二人ずつ抱え、退避する。
『ガァアアアァアアァアッ!』
両目を失ったというのに、ニーズヘッグが俺たちを追ってくる。ニオイでも辿っているのか?
だが、さしものドラゴンも目を潰された状態で動くのは怖いのか、速度はそれほどでもない。走りながらラックと緊急の作戦会議をする。
「さて武器を使い果たした! ラックの剣を貸してくれ!」
「それはいいが俺の剣はナマクラだぜ! ドラゴン退治は無理じゃねぇかな!」
「だ~からちゃんとした剣を買えって言っていただろうが!」
「俺は頭脳労働派なんだよ!」
「じゃあご自慢の頭脳でなんかいい感じに解決策を!」
「無茶言うな! 人間がドラゴンに勝てるか! 団長ならとにかく!」
「あれはもう人間とは別枠だろ!」
「違いない!」
喧々諤々に騒ぎながら逃げ惑う。ちなみにうちの女性陣も身体強化を使い俺たちと同じ速度で逃げている。頼りになるぜ。
だが、いつまでも逃げられるというものでもない。
「……よし、わかった。奥の手を使おう」
俺が覚悟を決めてそう発言すると、ラックもキリッとした顔になった。
「アレをやるんだな?」
「あぁ、アレをやるしかない。俺とラックだけなら逃げ切れるだろうが、今は二人ずつ抱えているし、女性陣もいるからな」
「なんて覚悟だ……。骨は拾ってやるぜ」
「頼んだぜ、親友」
ラックが頷いたのを確認してから、俺はその場で立ち止まり、ドラゴンに向き直った。俺が抱えていた女神(?)二人が絶叫するがとりあえず無視。
そして。
俺は大きく息を吸い込んでから――力一杯叫んだ。
「――うわぁ! もう無理だぁ! やっぱり師匠がいないとダメだぁ!」
ダメだぁ。
ダメだぁ……。
ダメだぁ……………。
ダンジョン内に絶叫がこだまする中。俺はついでにもう一度叫んだ。
「くそー! なんて強敵だ! こういうときシルシュがいてくれたらなー!」
なー。
なー……。
なー…………。
どういう理屈かは分からないが。
助けを求める俺の声は、ちゃんと二人に届いたらしい。
バリバリバリっと。空間を引き裂きながら現れたのは――師匠とシルシュだった。
いや正直シルシュは来てくれるかどうか分からなかったんだが、ちゃんと聞き届けてくれたらしい。やったぜ。俺たちの勝利だ。ざまぁないなニーズヘッグめ。
「……カッコ悪い」
容赦のないミラの言葉に泣きたくなる俺だった。




