邪竜
なんかもうぐだぐだだが、無視をして先に進むのも憚られる感じだ。しょうがないので代表者っぽい女性に語りかける。
「え~っと、勇者を求めているってことは、魔王でも出たのか?」
『……いえ、勇者様にはぜひ邪竜を退治してもらいたいのです』
「邪竜?」
そういえばそんなことを行っていた気が。その後のぐだぐだで忘れていたが。
世界樹関連で邪竜というと――
「ニーズヘッグ?」
これでも元作家だからな。物語に関する知識は豊富なのだ。
『お、おお!』
『すでにあの邪竜をご存じだったとは!』
『さすが勇者様!』
『やはりあなたが勇者様!』
縋るような目で四人組から見つめられてしまった。
『大体あいつは調子に乗りすぎなんですよ!』
『蛇のくせに『邪竜』とか呼ばれちゃって!』
『口臭いですしね!』
『そんな口で世界樹を噛むなって話ですよ! ばっちぃ!』
おいおい、調子に乗っているのはそっちじゃないか、と考えていると、
『――グガァアアアアァアアアァアアッ!』
なんともドラゴンっぽい咆吼が空気だけでなく大地すら揺らした。
『ひぃいいい!?』
『ニーズヘッグ!?』
『調子乗ってすみませんでした!』
『私たち食べても美味しくないですよ!?』
がくがくがくと震える四人組だった。食われることを恐れすぎだろうに。
「……あー、ドラゴン退治か」
正直、シルシュレベルが出てくると勝てる気がしないのだが。これはどうもニーズヘッグを倒さなきゃダンジョンから出られない系の展開だよな?
……いや、この四人をボコればダンジョンの入り口も開放されるのでは?
「うわぁ鬼畜」
「ちょっとどうかと思います」
「ん」
うちの三人娘から次々と反対されてしまった。まぁ、無理にボコろうとしても変なところに転移させられるかもしれないか。
「そうじゃないんだけどなぁ」
「そうじゃないのですけどね」
「ん」
どうやら四人組をボコるという思考自体に反対らしい。これが一番確実性の高い方法なんだがな。
「ま、いいさ。とりあえずニーズヘッグのいるところに向かってみるか」
勝てそうもなければ撤退、他の方法を考えよう。デカいだけの獲物だったらそのまま倒してしまえばいいし。
◇
世界樹。
という言葉からは天を貫きそうなほどの巨木をイメージするのだが。ここの世界樹は普通の広葉樹みたいな感じだった。たぶんまだ成長途中なのだろう。
以前シルシュが、世界樹は何本もあると話していたので、これはきっとその中の一本なのだと思う。
あるいは、枯れて倒れた世界樹の次世代か?
そんな世界樹(若)の根本付近。ガジガジと幹を噛んでいるのは漆黒のドラゴンだった。
ニーズヘッグは世界樹の根っこを噛んでいるはずなんだが、まだ世界樹が小さいからああして幹を噛んでいるのだろう。傍迷惑な。
さて。ドラゴンだ。
胴体は太いし、首は長い。背中には一対の巨大な翼が付いているし、尻尾は首よりもさらに長い。おそらく万人がイメージする『西洋のドラゴン』だ。
神話の出てくるドラゴンなら神代竜だろう。つまりはシルシュと同格か、それ以上。
師匠なら火炎放射の上を走ったりドラゴンの鱗を『すぱーん』と両断することができるだろうが、俺には無理無理。ここは一旦撤退して――
――あ、ドラゴンと目が合った。




