勇者!
『ごほん。本来ならもう少し荘厳な空間を準備してお出迎えしたかったのですが――』
お出迎えって。
『――よくぞ参りました勇者よ』
俺の顔をじーぃっと見つめながら、四人組の中でもリーダー格っぽい女性が断言した。
「……俺は勇者じゃないが?」
『『『『え?』』』』
「勇者はさっき強制転移でどっかに飛ばされたが?」
『『『『え゛?』』』』
その場でしゃがみ込み、密談を再開する四人組。相変わらず声はデカいが。もしかしたら他に人がいないから『声を抑える』という考えがないのかもしれないな。それならそれで密談する意味も分からないが。
ぐりん、と。四人組の一人がこちらに顔を向けた。
『あの、ダンジョンの壁すら削り取っていった破壊神が勇者であると?』
「そうなるな」
破壊神と言われるとゴジ〇をイメージしてしまうが、まぁ師匠はゴ〇ラみたいなものか。
『……ど、どうします?』
『どうしますと言われても……』
『一度飛ばした以上、もう一度呼び戻してお願いするのも……』
『無理があるのでは?』
なんか深刻そうな顔をしているな。師匠なら謝れば許してくれるんじゃないか?
「そんな甘いのはアークに対してだけだな」
ラックが即座にツッコミしてきた。あれそんな感じなの?
二人の間に認識の齟齬が生まれている間にも四人組は密談を続け、段々とヒートアップしてきたようだ。
『だからいきなり転移させるのはやり過ぎだと!』
『でもしょうがないじゃない! あんな風に暴れられたら『樹』にも被害が及ぶわよ!?』
『ただでさえ弱っていますからねぇ』
『今の樹勢だと、あんな攻撃を一撃くらうだけでもヤバそうな……』
なんというか、うちの師匠がすみません案件か? まぁいつものことだな。
しかし、『樹』ってなんだ? ダンジョンの中なら木や森があっても不思議ではないが……。
「たぶん、世界樹のことじゃないかな?」
そんな発言をしたのはシャルロット。そういえばこのダンジョンがある岩山は元々枯れた世界樹なんだっけ? 化石というかなんというか。
しかし、あの四人組の口ぶりだとまだ生きているようにも聞こえるが……。
そんなことを考えていると、四人組のリーダー格が俺の前に立った。
『――よくぞ参りました勇者よ』
またかい。
天丼展開に思わずツッコミを入れてしまう俺だった。
「だから、俺は勇者じゃないが?」
『いえ、この場所まで無傷で到達し、フレズヴェルグまで従えているのです。ならばあなたこそが真なる勇者。間違いありません。そうなのです』
最後の方は自分に言い聞かせてないか? あと別に鷲は従えてないし。勝手についてきただけだし。
しかし、この鷲ってフレズヴェルグって名前なのか? それはたしか世界樹の天辺にいるとされる鷲じゃなかったか? いやまぁここは元世界樹なのだし、フレズヴェルグがいても不思議ではないのかもしれないが。
『勇者よ、その手にした聖剣で邪竜を打ち倒すのです!』
どどーん! っと、宣言する女神(?)。そういうのはやはり師匠案件じゃないか?
「……というか、俺、聖剣なんて持ってないし」
『……マジっすか?』
見た目女神にしか思えない存在が『マジっすか』って……。あぁもういいや。
「そもそも勇者を強制転移させたのだから、聖剣ごとどっか行っちまうのは当然のことだろう?」
いやまぁ、師匠も聖剣は持っていなくて、聖剣は岩山の水源で浄水器をやっているんだけどな。忘れがちだが。
『……おーまいがー』
力なく地面に膝と両手を突く女神(?)だった。『オーマイガー』とか言わなかったか? 気のせい?




