四人組
この階層にいる魔物はあのニワトリとこの鷲だけだったらしく、しばらく進んでいるとまた水晶型のオブジェクトを発見した。
「んじゃ、次の階層に行くか。なにか忘れ物とかやり残したものはないか?」
「ないね」
『ピィイ』
俺もないぜ、とばかりに鳴き声を上げる鷲だった。いやついてくるの? さも当然とばかりに一緒にいるが……。お前さん、魔物じゃないのか?
…………。
ま、いいか。
万が一襲われても、飛んでない鳥なんて即座に鳥刺しにできるものな。
「ん。そういうところ」
いやいやどういうところだよ?
ミラに確認しようとしたが、とても呆れ果てた目を向けられて心が折れた。ということで水晶に触れ、次の階層へ。
一応理屈としては同じパーティーメンバーが一緒に移動できるということになっているはずだが……なぜだか鷲も転移できたようだった。
◇
もはや慣れてしまった感覚のあと。俺たちは次の階層に到着した。場所自体は先ほどとあまり変わらない草原だ。が、
『……ヤバいって、攻略速度が速すぎだって』
『まだ準備できてないんだけど』
『さっきみたいに転移魔法で飛ばす?』
『いや無理でしょ。そしたら誰がアレを倒すのよ?』
なぁんか、少し離れた場所で内緒話をしている女性が四人。いや『内緒話』とはとても言えないほど大きな声だったのだが、顔をつきあわせての会話は内緒話と表現するのがぴったりだと思う。
女四人。
全員金髪。
白い布を直接身体に巻き付けて衣装としている。女神風とでも言うのだろうか? ああいや、ギリシアの彫刻風と表現した方がいいのか? とにかく、前世・今世を見渡しても実際に身につけているのは初めて見る衣装だ。
怪しい。
怪しすぎる。
そもそもここはできたばかりのダンジョンの中。しかも存在する場所は魔物が跋扈する魔の森のど真ん中。こんなところにいるのだから、どう考えても人間じゃないだろう。
「……とりあえず、斬っとくか?」
「いやいやいや」
「いえいえいえ」
「ん」
ダメダメとばかりに首を横に振る三人だった。やはり人型だと倒すのに躊躇する感じか。
『ピィイ』
俺に任せろ、とばかりに鷲が一歩前に出た。そのままのっしのっしと四人の女性に近づいていく。
『ひぃい!?』
『ヴェルグ!? なんでここに!?』
『ここの空は狭いですよ!?』
『私たち食べても美味しくないですよ!?』
お互いを抱きしめ合ってガタガタと震える四人の女性だった。もしかしてあの鷲って強い魔物なのか?
『――ピィイ!』
鷲が鳴くと、四人の女性は腰を抜かし、奥歯を鳴らしながら祈りを捧げたり這って逃げようとしたりしていた。う~ん阿鼻叫喚。
どうするんだこれ、と他人事ながら不安になっていると、鷲が左の羽を広げ、俺たちを指差した。いや指はないけどな。
『『『『…………』』』』
やっと俺たちの存在に気づいたのか、俺たちを凝視しながら固まる四人組。なんだろう? うちのポンコツ組と似たような雰囲気が漂っているな?
四人組はしばらくお互いを見つめ合ったあと、代表者らしき女性が立ち上がり、
『――ここまでたどり着くとは、やはり『予言』は確かなようですね』
厳かな雰囲気でそんなことを口にした。え? さっきまでのアレはなかったことにして話を進めるのか? それはちょっと無理があるのでは?
『ピィイ……』
鷲もさすがに呆れた様子だった。




