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【受賞・書籍化】悪役騎士、俺。 ~悪役令嬢を助けたら、なぜか国を建てることになった件~  作者: 九條葉月


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やはりバケモノ枠

 ダンジョン攻略中。

 出口がふさがれた以上、前に進むしかない。


 というわけで俺たちは『オブジェクト』である水晶を使い、次の階層を目指すことになった。


 なぜか代表に選ばれた俺が、恐る恐る水晶に触れる。


 途端、視界がぐわん(・・・)と渦巻いた。


 転移魔法、とは少し感覚が違うが、おそらくは似たような魔法なのだろう。


 一旦目をつぶった俺が再び瞼を開くと――草原が広がっていた。先ほどまでは洞窟にいたはずなんだが……。


 ダンジョン内とは信じられないほどに高く澄んだ空。白い雲に、太陽らしき光源まで存在する。


 鼻腔をくすぐるのは新緑の香り。踏みしめた地面の感触は本物としか思えない。


「……ダンジョンなのか?」


 思わず疑問を口にすると、探知魔法を使ったらしきミラが答えてくれた。


「ん。間違いなくダンジョン」


「間違いないのかぁ~」


 改めて空を見上げるが、本物にしか見えないな。


「幻覚なのか、地下をそういう風に見せているだけなのか……ん?」


 何かいるな?


 鳥?


 外見としてはニワトリっぽいが、ニワトリが空を飛んでいるのがもう異常だな。なんか(きら)めいているし、ほぼ確実に魔物だろう。


「メイス。あの魔物に心当たりはあるか?」


「……すみません、ちょっと分からないですね。『魔物総覧』は暗記しているのですが」


「暗記しているのですか……」


 魔物総覧ってアレだろ? 冒険者ギルドが作った全15巻の分厚い本。この大陸にいる魔物はその生息域別に姿絵から倒し方まで載っているという……。


 え? あれ全部暗記したの? なんかそういう暗記系のスキルを持っているとか? 申し訳なさそうな顔しているが、凄いことですからね? 衝撃のあまり敬語になってしまう俺だった。


「魔物総覧にも載っていない魔物か……。シルシュの魔力で生み出したから不自然じゃないのか?」


「いえ、ブラッディベアなどは既存の魔物と同一でしたし、もしかしたら魔物総覧に載っていない、未知の魔物かもしれません」


「その可能性もあるか」


 メイスの意見に頷く俺だった。


 しかし空を飛ぶニワトリってのは奇妙だな。と、そんなことを考えていると、魔物がこちらに気づいたようだ。


『ケケーッ!』


 空を引き裂くような咆吼。


「……さすがに鳴き声は『コケコッコー』じゃないか」


「え? ニワトリの鳴き声は『クックアドゥールドゥ』ではないですか?」


「いや『クィクィレクィ』だろ」


「ん。『キッキレキ』だと思う」


 この世界にはニワトリの鳴き声のテンプレ(?)はないらしい。


『ケケーッ!』


 ニワトリっぽい魔物がニワトリらしからぬ鳴き声を上げながら火を噴いた。――火を噴いたぁ!?


「ん」


 怪奇、火を噴くニワトリを目の当たりにしてもミラは冷静であり、俺たちを結界で守ってくれた。


「……ふ~む」


 クチバシか足で攻撃してくるなら、そのタイミングで切り伏せられるんだが。空を飛んでいる状態での遠距離攻撃となるとなぁ。剣は届かないんだよなぁ。


 いや師匠なら吐かれた火の上を走って切り伏せるとかやりそうだが、俺は残念ながらバケモノ枠じゃないからな。さすがに火の上は走れないのだ。


「ん。ツッコミ必要?」


「ははは、師匠の規格外さにいちいちツッコミを入れていたら身が持たないぞ?」


「そうじゃない」


 そうじゃないらしい。じゃあどういうことだよ?


 さて。遠距離攻撃をしてくる敵なら、こちらも攻撃魔法の遠距離攻撃で対抗したいところ。


 でもなぁ。ここは少しでも魔力を節約したいところ。


 そんなことを考えていると、ニワトリが二度目の火炎放射を。先ほどと変わらない、右旋回してからの攻撃だ。


「――よし」


 ニワトリの動きは見切った。


 剣を引き抜いた俺は、三度の目の攻撃をするために右旋回を始めたニワトリ目掛けて――剣をぶん投げた。


 さすがに自由自在に飛び回る鳥に当てるのは難しいが、同じ攻撃態勢を取るなら話は別だ。未来位置を予測して剣を命中させるのはさほど難しいことではない。


『ケケーッ!?』


 旋回中の体勢では回避行動も取れなかったのか、俺の投げた剣は『すこーん』とニワトリの頭に突き刺さった。絶命したのかそのまま落下。ぐしゃりという音を立てて地面に叩きつけられるニワトリだった。


「よし。思ったより簡単だったな」


 満足した俺が腕を組むと、


「騎士が剣を投げるな」


 変なところで生真面目なラックがツッコミを入れ、


「ん。やっぱりバケモノ枠」


 解せぬ評価をするミラだった。







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