社交界に出席したくない
『社交界』とは、王族、貴族、上流階級の名家などの人々が集い、社会交流する場のこと。それゆえ、歴史的には、爵位や称号など勲章や地位を持たぬ者は、基本的には出席することができない集まりだったといわれている。
「父上、なぜ言ってくれなかったのですか?」
「いやだって......逃げるでしょ?」
ジークリンデもそうだが、この親子は俺をなんだと思ってるんだ。逃げるけどもさ。
「社交界は昼から始まる。既にネーデルラント城にはたくさんのご来客がお越しになっている。お前も参加しろ。これは決定事項だ。」
父上はそんなことを言うが冗談ではない。
「ちょ、待ってください。俺は既に死んだことになってるんですよ!」
「ふむ、そうだな.......だが、お前を宣伝として使わせてもらった。拒否権はない。」
ガハハと高笑いを響かせるジークムンド。その顔面に拳を叩き込みたいが押さえる。
「......宣伝」
「そうとも。お前は家を継がなくてもいい。シグルドが継ぐことになっている。もちろん、シグルドが死んだ場合はお前かジークリンデが後釜となるが、その未来は限り無く低い。シグルドは七英雄の『勇者』に選ばれ、魔剣グラム=バルムンクを継承したからな。」
ジークムンドはジークフリートの肩へと手を置き、当主としての顔を見せる。
「クリームヒルト嬢の件以降、家を出ることを許した。死の偽装も手伝ってやった。お前は晴れて自由だ。だが、その見返りをまだ受け取っていないぞ。」
貴族としての責務を放棄したことには罪悪感を感じている。本気で家出を止める気があったのなら俺は多分簡単に捕まえられていただろう。
(だけど捕まえなかった。むしろ逃げることに協力してくれたんだ。)
恩義を感じるなら恩義で返せと父は言っている。そんなことは重々承知だ。
「ネーデルラント侯爵家がグンテル公爵家に並ぶ名家で在ることは知っているな。シグルドを広告としても良いが、お前の顔形は唯一無二。ネーデルラントの繁栄にはお前のその圧倒的な容姿が必要なのだ。シグルドが領地を統治し、ネーデルリンデがそれを支える。お前は社交の場に時折参加すればいい。私がお前に求める貴族としての責務はそれだけだ。」
要するに貴族の淑女達とパイプを作り、ネーデルラント領の繁栄を促せと言うことだ。
「それ以外は好きにするがいい。だが今日の社交界から逃げ出してみろ........お前に将来はなくなるぞ。」
優しい笑みで冷酷な事を言う。「ネーデルラント領全軍を上げてお前を確保する」と父はルーンの盟約書を差し出し、恐喝してきた。
(ルーンの盟約書の内容........「社交界にて逃げ出した場合、その者に腹痛を三日三晩与える。腹痛の症状は下痢とする。」)
ふざけた盟約書内容だが、地味に陰湿な内容だ。父に手渡されたペンで署名を書き、盟約書を返す。
「____________さぁ、パーティーの時間だ。着替えて広間に行くがいい。」




