原作の流れ<3>
『ニーベルンゲンの災い<恋の先にある北欧伝説>』
アニメ版二期では道化師であるロキの死が引き金として『ラグナロクの再来』が解放された場面で幕を閉じた。三期はその続きからとなる。
アニメ化された『ニーベルンゲンの災い』には明確な攻略対象のルートはない。しかし物語は原作通りのストーリーに沿って進められる。
『プロローグ』→『悪役令嬢偏』→『道化師偏』→『ラグナロクの再来偏』→『エピローグ』
と実にシンプルな三章の物語となる。
乙女ゲー原作とは言え、かなりシビアな結末を迎える最終章『ラグナロクの再来偏』。登場人物達の大半が命を散らす結末となるのだ。三体の巨人達は強大な力を有する正真正銘の化物達。立ち向かうは覇王を失った『七英雄』、そしてそれに連なる者達。
実は原作では『世界蛇ヨルムンガンド』の描写は大きく省かれている。テキストでは七英雄の一人『英雄』が命をとし、相討ちとなったと書かれているのだ。此れは一重に主人公が対峙した相手が『冥界の女王ヘル』と『大狼フェンリル』のみであるためである。
余談ではあるが、七英雄の一人『英雄』だけは素性や設定、イラストなどが一切なく、謎に包まれている存在である。
アニメ三期は『冥界の女王ヘル』が死船ナグルファルに搭乗し、冥界から地上へと侵攻を始める場面から始まる。「勇者」「聖女」「聖者」が協力し、死者の軍勢を一網打尽するが、死者達の勢いが止まらない。
『此処が儂の死に場所か。良い。若人に任せ、ヴァルハラへと旅立つとするかのぉ。』
冥界と地上への入り口を防ぐためには内側と外側から同時に閉じる必要がある。『賢者』は命を掛け、地上側から冥界の扉を閉じる。
『あぁーあ、何時だって不運だよ俺は........だけど、七英雄としての責務はきっちり果たすさ。』
死者達に無数に剣を刺されて尚も冥界側から『魔帝』は地上への扉を閉めることに成功する。だが、扉が閉じると同時に力尽き、そのまま息を引き取ってしまう。
『ヘルヘイムとの繋がりが消えた.........何をしたのですか、人間!!』
冥界との繋がりが消え、死者の供給は途絶える。そして融解しかけていた地上世界と冥界世界の均等が元の形へと戻る事で冥界の女王は大幅に弱体化した。
『_____________私を殺せばヘルヘイムの平穏は崩れ去るのですよぉ!!!』
地上にいる全ての死者たちは一斉に駆逐され、ヘル自身もブリュンヒルデ達により窮地に立たされていた。
「_____________沢山の人を殺した貴方が平穏を語るな!!!もぅ、消えてッ!!!!」
聖女の覚醒能力『生滅遷流』にてヘルの顎を撃ち抜く。簡潔に説明をするのならサマーソルトキックである。バック転をしながら蹴りを放つ技で、一撃でも喰らえば相手は「消滅」する。
『い、嫌....死に___________』
接触した相手へと聖光を直に流し込み、内側から浄化をする。邪悪な存在程、即効性は強く冥界の女王にとっては相性最悪の必殺技なのである。しかし、同時に使用をした足は機能を停止させるデメリットが存在する。どんな回復魔術を使おうとも決して治らないルーンの呪いが掛けられるのだ。故に生涯に二度しか使えない諸刃の剣である。
「あぐっ.......はやく、世界を、救わない、と..........」
右足が使用不能となるブリュンヒルデ。残る敵は『大狼フェンリル』。一噛みで大国を呑み干し、涎で津波を起こす災厄。ヴァルハラ大陸の七割は既に壊滅し、世界は混沌と恐怖に満ちていた。
「ブリュンヒルデ.....君は下がれ。後は私たちに任せるんだ。」
「これ以上、君が傷付く必要はない。」
シグルドとフロールフはブリュンヒルデに戦場から後退するように懇願する。
「_________本当にブリュンちゃんが引き下がると思ってるの君達~?」
「言葉を慎め、ディートリヒ。」
三期終盤にて登場したのは攻略対象でもある「宰相スノッリ」と「剣帝ディートリヒ」。スノッリは災厄から生き延びた者達を保護し、戦える戦士達の指揮をしていた。
「殿下、大狼との最終決戦_________お供致します。」
スノッリの後方に集うは百人にも満たない戦士たち。しかしこれらの戦士たちは幾度の死線を越えて生き延びた猛者たち。フロールフは心強いと強く思う。
(ボスヴァル.........僕は必ず勝って見せる。そして君の捧げた命が決して無駄ではなかった事を証明する。)
冥界の女王との戦いで、フロールフを庇い死亡したボスヴァル•ビャルキ。助けられた命を無駄にしないためにもこの戦いで勝たなければいけないのだ。
「七英雄の半数はもういない.......僕たちが戦わないと死んだ友たちに顔向けが出来ない。好きな人を守りたくてかっこつけたいのは構わないよ......でも、勝てる可能性を減らさないでくれるかな。」
聖女は立派な戦力だ。それを後退させるなど正気の沙汰ではないとディートリヒは告げる。
「僕はこれ以上、誰にも死んで欲しくないんだ。戦える力があるのなら戦え。そして七英雄であるなら、その勇気を生き残った人々に示せ。」
世界蛇ヨルムンガンドとの戦闘でディートリヒは片腕を失い、友である七英雄の一人「英雄」を失った。そして死の間際に「英雄」と約束を交わしたのだ。
『お前が世界を救え_________』
友の最期の言葉を胸にディートリヒテは剣を握る。そして対面に立つブリュンヒルデは覚悟を決めた顔でディートリヒへと宣言する。
「言われなくても...............私はこの命をとして大狼を殺して見せる。」
右足は使えない。松葉杖を使い、歩くブリュンヒルデ。前線での格闘戦は満足に出来ずとも、回復役に徹する事は出来る。
「__________行こう。」
シグルドの言葉と共に各自は覚悟を決め、フェンリルがいるであろう湖、リングヴィへと出陣する。この戦いで敗北を期した場合、人類は滅びる。それだけは決して起こしてはならない。
『グルルル』
リングヴィの湖で待ち受けるは巨大な大狼。鼻から頭蓋に掛けて三つ目が存在する。異様ではあるが白銀と美しい存在である。
「鎖で繋がれているわね.........だけど、今にも引きちぎれそう」
フェンリルによる被害は確かに大きいが、ヨルムンガンドとヘルに比べると規模は小さい。グレイプニルと呼ばれる神具がフェンリルを拘束している為である。
「最小限の被害で彼奴を倒せる機会は今を置いて他にない、行くぞ!!」
スノッリの指示で戦士たちは突撃する。そしてシグルドやディートリヒ達も前衛へと足を踏み出す。だが、近付いたと同時にディートリヒの周囲以外の戦士たちは消えてしまう。
「な、何が起きたの........」
聖女は遠目から戦闘を伺っていた。何時如何なる時でも戦士たちは癒せるようにと。しかし、突撃した戦士たちは消失した。いや、大地が抉られていることからフェンリルが何かしらの技を放った事は推測出来る。
「助かった、ディートリヒ」
ディートリヒは覚醒能力である「次元斬り」を剣帝の直感から前方に放った。その為、フェンリルの攻撃を相殺することに奇跡的にも成功していた。
『Wooooooooooooolf!!』
フェンリルは凶悪な笑みで楽しむように遠吠えを上げた。そして鎖を引きちぎり、狼爪を振るう。
「ぐっ!!グラム=バルムンク!!!」
「次元斬りッ!!」
シグルドとディートリヒは持ち前の技量から即座に狼爪を防ぐ。だが、スノッリを含めた全ての戦士たちは全滅した。いや、湖そのものが崩壊し、地形を完全に変える。それ程までにフェンリルの膂力は人外の力に達しているのだ。
(スノッリ........)
ぐっと宝剣エッケザックスを血が流れる程に強く握り締め、駆け出すディートリヒ。剣帝として完全覚醒をしているディートリヒは七英雄と同等か、それすらも越える可能性を秘めていた。
「何て速度なの......目で追えない」
フェンリルと斬り結ぶディートリヒ。地形を変えながらも切り傷を与えて行く。同時にディートリヒは魂の輝きさえも糧に限界以上の出力を出していた。シグルドは戦闘の後を追い、隙を伺う。
「僕は......お前を倒す.....倒さないと.....死んでいった皆に......祖国にッ!!うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
一人間がラグナロクの再来の一体、フェンリルと同等の勝負をしているのだ。
「フロールフ殿下、私に加護を掛けてくれないか.......」
シグルドと共にディートリヒの後を追っていたフロールフは「聖者」の加護をシグルドへと施す。
(ディートリヒ......お前はこの戦いで死ぬつもりなのだな.......だが、倒しきるのには一歩足りない。)
止めを刺す前にディートリヒは恐らく力尽きるだろう。だからこそ、シグルドは魔剣の真の力を解放することを決める。グラム=バルムンクは最強の魔剣だ。どのようなものであろうと切り裂くことが出来る。そして真の能力として「主人に絶対的な勝利をもたらす代償としてその分の因果を主人へと返す」と言う能力が備わっている。
「あぐっ、..........ごめん、みんな.......僕はベルン国....お母......様.....お.父...約そ」
フェンリルの両足を次元斬りで斬り飛ばしたがその巨大な顎で胴から下を完全に食い千切られてしまう。そして赤い涙を静かに流しながらディートリヒは息を引き取った。
『グルルル』
フェンリルも深手を負い、立ち上がれない。再生はしているがシグルドはその隙を見逃す程、甘くはなかった。
「終幕だよ、大狼フェンリル_____________」
グラム=バルムンクは三つ目へと深く突き刺さりそのままフェンリルを一刀両断した。縦に半分へと咲けた大狼。その中心部にはフェンリルの血を浴びたシグルドが立ち尽くす。
「シグルド先輩!!私達勝ったんですよ...........」
シグルドは死んでいた。「フェンリルに確実に勝利する」と言う魔剣の代償は因果として還ってくる。そしてフェンリルはヨルムンガンドと同じくその血には神をも殺す毒が流れていたのだ。
「シ、シグルド、先輩!う、嘘だ、そんなの嘘だぁ!!」
取り乱すブリュンヒルデ。その姿を瓦礫の影から何者かが狙う。
「_____________ふひひひ」
その影は小枝を鋭くルーン魔術で削り、魔術でその枝をブリュンヒルデへと放つ。
「ッ!」
フロールフは駆け出す。間に合うかは分からないが、全力で走った。そして手を伸ばし、ブリュンヒルデを庇うように抱き締める。
「フロールフ、先輩?」
小枝は心臓部へと到達し、胸部を貫通していた。ブリュンヒルデは訳が分からないと言った様子でフロールフを見上げる。だが、フロールフはただブリュンヒルデへ愛おしそうに優しい笑みを見せるだけ。そこに言葉はない。
「う、嘘でしょ.....なんで、なんでなんでなんで!!!」
________フロールフは死んだ。ブリュンヒルデはフロールフの亡骸を優しく寝かせ、周囲を索敵する。そしてある影を発見すると何の躊躇をすることなく『生滅遷流』を打ち込んだ。これで左足も完全に機能を失い二度と立つことは叶わなくなる。
「こ、こんな終わり方なんていやですわ、な、なんで、わ、わたくしの野望はこれから______」
正体は冥界の女王ヘルの軍勢に紛れていた死者の一人『スコーネの王女スクルド』だった。最強の魔術師と名高いラグナロク以前の女傑である。人間側が勝利した場合、彼女は疲弊した英雄達を殺害し、世界を支配しようと目論んでいたのだ。だが、ブリュンヒルデの慈悲なき一撃はスクルドの目論みを彼女の命ごと粉砕してしまう。
「...............それはこっちの台詞よ、」
涙を流し、天を仰ぐ。世界は平和が訪れることになる。けれど、ブリュンヒルデは全てを失ってしまった。
__________十年後、車椅子に乗った女性は「ヴァルハラ学園」で教鞭を執る。




