クリームヒルトの狂愛
「あぁ、あの丘の上にそんな場所が.....教えてくれてありがとう。」
「い、いぇ!ジークフリート様に是非とも見て頂きたくて!」
侯爵家のメイドと仲睦まじく話をするジークフリート。虫酸が走る。何故あのような下級民が私の夫と楽しく会話を弾ませる。それは私の特権であり、何者にも害せない聖域だろう。
「________おはよう、ジークフリート。」
ジークフリートと婚約してからと言うもの私は常に彼の隣にいるように心掛けていた。今現在も私はネーデルラント領に滞在している。これも『花嫁修行』の一環だ。
「随分と仲が宜しいようだな、女狐。失せろ。」
父上に大きく反対はされたが、私は私の務めを果たす。妻は夫の側に常に在べきなのだから。
「ジークフリート、私をもっと構え。兎は寂しいと死んでしまうのだぞ」ぎゅ
「はは、クリームヒルト嬢は甘え上手なんだね。」
ジークフリートへと抱きつくと、優しい笑みを浮かべ、頭をよしよしとされる。まさにヴァルハラ。もしかしたら私はこの時の為に生まれて来たのかも知れない。
(だが、私の怒りはおさまっていないぞ.........あのメイドは殺す。)
確定事項だ。ジークフリートの寵愛を受けられる者はただ一人。私を除いていない。
「お、お許し下さいませ、クリームヒルトお嬢さッ_______」
メイドを呼び出し、殺害する。その際に血が跳ね、クリームヒルトへとついてしまう。
「貴様の汚い血が我がドレスへとついたではないか、汚らわしい。じぃ、片付けて置け。決してジークフリートには悟られるな。」
メイドの遺体を蹴り上げ、後始末を私兵の一人であるじぃに任せる。
(このメイドだけではないな.......ジークフリートに群がるハエ達は)
一切残らず駆逐しなければジークフリートが可哀想だ。私の夫に媚びへつらう娼婦は必要ない。
「_________平民を殺すことは良くないよ、レディ。彼らは大切な領民だ。」
と様々なごみ達を撤去していたら流石にジークフリートに露見してしまい、怒られてしまう。
「クリームヒルト、君が本当は良い子だということは分かっている。」
頭へと手を置き、優しく子を諭すように説教をするジークフリート。私は嬉しくて彼の手を自分の頬へと持っていき頬擦りをした。
「もっと私を叱れ。私は悪い子だ。お前の怒りをぶつけろ。首を絞めるか。それとも臀部をこの手で叩くか。好きに罰を与えろ。お前にはその資格がある。」
私は『ジークフリート』という男に夢中だった。何をしても私はジークフリートを肯定し受け入れるだろう。
「君が殺した最初のメイドを覚えているかい。彼女は私と君を想って綺麗な花畑を一望できる丘の場所を紹介してくれた。庭師の彼だって新しい作品を私たちに見て貰いたかっただけだ。貴族の令嬢方だって最後は身を引いて、私たちを祝福してくれたんだ。だけど君は全てを壊した。壊してしまった。」
あぁ、ジークフリートが怒っている。私に対して怒っている。その眼で私をもっと睨み付けろ。私だけを見ろ。
「君の堂々とした姿に惹かれたんだ。だけど今の君を好きにはなれない。」
そう言い残し、ジークフリートはその場を去っていく。何故だ。私はただ二人の世界を作るために頑張っただけなのに。要らないだろう、私とお前以外には従順な下僕がいれば事足りる。
「ジークフリート、行くなッ!」
最後に言われた言葉が胸に刺さる。私はショックのあまり腰を抜かしてしまった。立ち上がれない。胸が痛い。手を伸ばしても届かない。まるでジークフリートが私の前から消えてしまうような、そんなジークフリートの表情に涙を流す。
「_____________ジークフリートは失踪した。私兵を使い後を追わせたけど、アングルボザの呪いに襲われた痕跡が見つかったんだ。ルーン魔術で血痕を調べた結果......ジークフリートだったよ。」
侯爵家が長男「シグルド」は悲痛に満ちた表情で私へと告げる。
(私のせいだ.........私がジークフリートを怒らせてしまったから)
それから暫くの間、私は公爵家で憂鬱とした日々を送る。何も考えられず、ただ日々が過ぎていく。
「___________クリームヒルト、大丈夫かい?」
フロールヴとの婚約は解消された筈なのに......何故ここにいる。
「もしかしたら死んでないかも知れないのに、なんで落ち込んでいるんだい。探しはしたの、彼のこと?」
毛布にくるまっていた私は立ち上がる。そうだ、ジークフリートが死ぬ訳がない。私を置いていく筈がない。おかしな話だ。あの男と私は運命で結ばれているではないか。
「探しだそう。私の全てを使って______________」
クリームヒルトが寝室から去っていく。その後ろ姿を嬉しそうに見つめながらボソリとフロールヴは呟く。
「僕たちの婚約が再開されたって言いに来たんだけど、妬けるな........ふふ、だけど彼女が元気になってよかったよ。」




