ラグナロ
世界蛇の核、ヨルムンガンドは頭部に座り、ただ気ままにアースガルズの海を航海する。ヨルムンガンドは元々温厚な性格であり、戦いは好まない性格なのだ。
「____________なんの用だ、ヴェストフォルの王子?」
『美髪王』ハーラル・ホールファグレ、『血斧王』エイリーク・ハラルドソン、『燭台使い』ノルナゲストがヨルムンガンドと対面する。
「何故、アースガルズ側へ出てきた。」
ハーラルは一歩を踏み出し、世界蛇へと問い掛ける。
「はぁ.......決まっているだろう。我が愚妹が世界を繋げたからだ。俺が何処に行こうがお前達には関係ない。」
「関係はある。お前が動くだけで、生者は死に、死者達も水底へと沈んでしまう。」
世界蛇はエイリークを睨み見つける。
「それはお前達人間側の都合だ......いい加減に放って置いてくれ。俺はただ、気ままに海を感じていたいんだ。」
世界蛇は冥界にいる間、ヘルにより奴隷が如く働かされていた。その姿は滑稽で、目に余るものであったと周囲の者達は口を揃えて言う。故にストレスから解放された世界蛇は羽を伸ばしたかったのである。無論、その影響で大海は荒波を起こし、陸部を襲ってはいるのだが。
「核であるお前が顕現しているんだから、本体を動かす必要はないだろ。」
「感覚の問題だ。この身体はただの分体に過ぎない事は戦ったお前達が一番知っているだろう。」
ハーラルは覚醒能力である頭髪支配を使い、六つある剣を鞘から抜き構える。
「凄まじい殺意だ.......だが、戦うつもりはない。無駄な労力もストレスも感じたくないからな。」
「なら本体の動きを止めろ。俺はメイドさんとイチャイチャしていたいんだ。」
ノルナゲストは毒を吐く。かつて仕えていたメイドと冥界で再開し、ようやく恋仲になれたのだ。静かにしていろと目で訴える。
「............はぁ。分かったから失せろ。」
世界蛇は動きを止める。核であるヨルムンガンドはその場で身体を倒し、しっしとどっかに行くようにハーラル達を手で追い払う。
「___________ようやく行ったか。」
ハーラル達が去るのを見届けると、空へと視線を向けぼやくのだ。
「ラグナロクの頃よりも最悪な気分だ。」
「ヨルムンガンドが停止しよった!」
銀狼フェンリルは地面にルーン魔術により縫い付けられていた。
「ルーンの誓約書の効力はどちらかが死亡すれば機能しなくなる。だから拘束させて貰ったんだけど........フェンリルちゃん、冥界に逝ってから変わった?」
スコーネの女王スクルドはフェンリルをあやすように縫い付けられたフェンリルの腹をよしよしと擦る。わふわふ♪と嬉しそうな表情を見せるフェンリルを冷めた目で見るスクルドだが、その視線にフェンリルは気付いていなかった。
(以前のフェンリルちゃんはもっと利口で、考えて戦うタイプの獣だったけれど、ヘルヘイムからアースガルズへ飛び出てきた彼女は頭が弱い獣そのものだ。)
寧ろ愛玩犬のようでもある。構ってほしくて大陸を走り回り、腹が減ったらその辺に落ちている物(国)を喰らっていた。人型に無理矢理と戻し、ルーンで拘束しなければより被害が出ていたことは間違えないだろう。
「スクルド、わっちはそなたに会いたかったでありんす!」
可愛い。が、確実に冥界の女王に調教されてこのような姿になってしまったことは確かだろう。
「冥界の女王ヘルがここまで強大になるとはね。あれが領域を拡大してアースガルズ全土を支配し終えたら私は確実に殺されるなぁ。」
フェンリルへと傀儡使いの覚醒能力を発動させ、暴れないように首輪をつける。
「わっちを置いていかないでぇ?」
ルーンの拘束を解くと、身体を擦りつけてくるフェンリル。可愛い。
「大丈夫、フェンリルちゃんはこれから私と一緒だよ。」
「やったー!」
文字通り飼い犬と化したフェンリルの頭を優しく撫でる。
(________まぁ、だから保険を掛けて置いたんだけどね。こんな事もあろうかと。)
冥界の女王と入れ代わる形で冥界を代行して統治していた元ヴァルハラ学園学長がいるだろう?
「ジークフリートの物語では何の役にも立たないごみ屑だったんだから、少しくらい主神らしい事をして見せろよ。」
北欧神話でもグングニルの使い手として有名ではあるが、所詮はフェンリルに喰われ死んだだけの雑魚雑魚しい古い神様なのだ。




