救ってやれない.....
「こんな形でお前を手には掛けたくはなかった.........だが、お前を救うにはもう殺してやる事しか出来ない。」
グローアの聖剣から灼熱の炎が吹き荒れる。ベルンはグローアの発言を鼻で笑い、構えを取る。
「僕を倒す気でいるのかい。次元斬りを封じたくらいで大口を叩くなよ、二流。僕は剣の頂きに立つ最強の剣士だ。誰にも負けはしない。そう師匠と.........神聖王ジークフリートへ誓ったんだ。」
鋭い殺気を放ち、グローアへと剣を振るう。
「ぐっ!!!」
(速いっ、)
グローアは原初のルーン、そして肉体向上効果があるルーン魔術を複合し、己に強化を掛けていた。そして続けて何重にも施したルーン結界術を外皮に張る。
(俺の持てる最上の状態を持ってしても剣速にギリギリ合わせる事が限界なのかっ、つくづくとお前は化物だよ。)
剣帝が振るう刃にギリギリで剣を合わせる事が限界であった。炎を撒き散らしながら聖剣を振るうが、それすらも剣で斬り伏せてしまう。
「僕を倒したいんだろ?ならば集中しろ。無駄な事を考えるな。ただ目の前に迫る刃に意識を向け、どう対処するのかギリギリで考えるんだね。」
忠告にも似た挑発の通り、目の前の男と斬り結ぶには全集注力を注がなければならない。
(接近戦でこうも差を見せつけられるとはな、くく。)
これでも世界で五番手以内には入ると自負していたが、どうやらまだまだ未熟なようだ。
「とは言え、自分の未熟さ加減を嘆いている暇はないんだがなッ!!」
今持てる全てをこの男にぶつけなければ敗北する。勝つ。それ以外の未来はあり得ない。あり得てはならない。
「へぇ」
聖剣レーヴァテインの刃が剣帝の頬をかする。それを感心したように受け入れるベルン。
「精々余裕でいることだ。」
この戦場は恐らく最初で最後の最高の舞台。ヴァルハラに現存する全ての最強の戦士達がこの場に集っている。冒険者として、一戦士として血が滾る。
(______________聖剣の完全解放は俺には無理だった。)
正確には成熟しきっていない自分では完全解放に至るに足らなかった。
(ならば俺に残された手札はもう一つしかないだろう。)
冒険王としての覚醒能力をここで選択する。
ラグナロクの再来、神話の化物、銀狼フェンリルの巨大な大口が目の前に存在する。生暖かい伊吹、腹を空かせた獣のような血生臭さが鼻をつく。
(悪神ロキの子息にして世界を単体で破滅に追い込む事が出きる最強の化物の一角。)
黒剣を握る力が強くなる。この化物を倒すことは黒騎士では恐らく不可能であろう。
(だが、倒せなくとも戦いようはある。黒騎士の能力で権能は封じている。即死攻撃である暴食も放てない。)
全ての黒剣を魔法袋から解放する。そしてその中でも特に大きな黒剣へと飛び乗り、上空へと剣群を展開しなから飛翔する。
(ここから先は全力で時間を稼がせて貰いますわッ。)
黒剣らへとルーン魔術を掛け、等身以上の巨大剣へと変えていく。それら一本一本は禍々しい障気を放ち、触れただけでも対象の生気を奪う特殊な能力が備わっている。
『かかか、小娘、やはりお前はただの凡属ではないらしい。』
黒騎士を追うようにフェンリルもルーン魔術を足場へと固定する事で空へと駆け上がって行く。
(この獣っ、空中戦にも対応出きますの........つくづくと規格外ですわねッ!!)
展開した黒剣を手動で操り、駆け上がってくるフェンリルへと攻撃を仕掛ける。
『ワオオオオオオオオオオンンンンンッ!!!!』
咆哮を上げ、全ての黒剣を吹き飛ばすフェンリル。
『_____________堕ちよ、蝙蝠』
そしてアスラウグへと接近したフェンリルはその巨大な体躯を一回転させ尾でアスラウグを空中から地上へと叩き落とした。
「がはっ........おっほ、おっほ、」
血を吐き出すアスラウグ。痛みを我慢しつつ、何とか立ち上がろうとするするが________
「______________仕舞いじゃ。」
ズドォオオオオンンと大きな音を響かせ、アスラウグが這っていた場所へと着地する。
「あっちは凄い事になっているね。」
他人事のように余裕然とした様子で倒れ伏すグローアを見下す剣帝ディートリッヒ・ベルン。
「僕の覚醒能力「次元斬り」を封じたところで、他の技が放てないとは言っていないだろう?」
剣帝の能力、基礎能力にはあらゆる剣技の模倣が備わっている。そしてそれが意味する事は覚醒能力に関わらず、剣の技を完全再現出きるという事だ。それ即ち、蒼髪の剣技やピンク髪が持ち得る三つの奥義(覚醒能力)を行使出きる事を意味する。
「もちろん、覚醒能力に値する剣技は剣帝として完成していなければ出来きはしないけど。」
倒れるグローアに剣を突き付ける。
「君を殺し、師匠を救い(殺し)に行くよ。」
剣を大振りに振り上げ、グローアの頭上へと振り下ろす。
「___________________次元斬りッ!!!!」
だが、振り下ろされた剣はグローアの頭を撥ねる事はなかった。
「ぐっ、グローアあぁああ!!!」
剣を握る腕そのものが次元の彼方へと消えたのだ。血飛沫を上げ、周囲へと血を撒き散らす。
「勝ちを確信した瞬間が最も.......隙が生まれる。」
ボロボロになった身体に鞭を打ち、何とか立ち上がる。目の前には両腕を失い、膝をつく剣帝の姿があった。剣帝は鋭い眼光と殺意を持ってグローアを睨み付ける。
「彼奴の元へとは行かせてやれない。ディートリッヒ、お前を救ってやれなくて...........すまない。」
グローアは聖剣を強く握り締め、ディートリッヒの首を断ち切る。




