外伝の主人公は暗黒騎士【参】
最愛の人を失ったアスラウグは心に大きな穴を開けたまま十五歳を迎える事になる。
「____________ヴァルハラ学園へ旅立つのか?」
ロズブローグ伯爵は娘の旅路を塞ぐように門の前へと立ち塞がる。
「無理をして行く必要はない。ロズブローグ領で平和に暮らす選択もあるのだぞ。」
アスラウグは首を横に振り、ヴァルハラ学園へ通うことを父に伝える。
「前に進まねばジークリト様に顔向けが出来なくなると言ってくれたではありませんか。ならば、わたくしは学園で研鑽を積み、職業適正を「覚醒」させますわ。そして誰もが認める立派な戦乙女として舞い戻って来ましょう。」
目の下には隈があり、不健康な程に肌白い。そんな娘を送り出すことに抵抗を感じる。しかし、娘を励ます為に送った言葉が生きる活力となっている以上、邪魔をすることは不必要であると判断する。
「そうか...........お前がそう判断したのなら、もう止めはしないさ。自らの思うように進んでみろ、アスラウグ。」
アスラウグは父の言葉を胸に学園での生活を送る事になる。学園に通い初めてからは勉学と修行の毎日であった。アスラウグは一日も手を抜くことはなく鍛練に精を出す。
「はぁ......はぁ.........わたくしは負けない。ジークリト様に胸を張れるような、立派な戦乙女に.......必ずや、なって見せるッ!」
「b」組序列一位の立場を獲得し、クラス対抗戦でも「a」組序列一位に勝利する程までに戦果を上げた。
「_________久しぶりだね、アスラウグ嬢。ジークリトの件は本当にすまないと思っている。あいつは.........別れ際に酷い事を言ってしまったと辛い顔をしていたよ。ジークリトがアスラウグ嬢に何を言葉にしたかは私にはわからない。だがどうか、責めないでやってくれ。あいつはいい子だった。傷付ける意図がなかったことだけはどうか知っていて欲しい。」
ジークリトの兄、シグルドに話を掛けられる。二年生ながらにヴァルハラ学園生徒会長を務める最強の【勇者】だ。
「承知しております。ジークリト様がわざと、わたくしに嫌われようとしていたことも。あの方はとても優しいお方でしたから..........」
ジークリトの優しさを身近で触れてきたからこそ分かる。死期が近いことを悟り、自分を遠ざけたのである。
「アスラウグ嬢、生徒会に興味はあるか?君の強さは生徒の模範となる。もし興味があるのならば、私は君を次の役員候補に推薦しようと思うが..........」
「シグルド様.................申し訳ありません。今は己の修練に時間を費やしたいと考えております。せっかくの申し出ではありますが、謹んで辞退させていただきますわ。」
一年生の頂点にまで上り詰めたアスラウグ・ロズブローグは生徒会への加入を断った。
(わたくしは強くならねばならない。七英雄にもひけをとられないほどの実力を............)
「__________ようやく、此処まで来ましたわ。」
暗黒騎士としての基礎能力に重きを置き、封印術に置いてはわたくしの右に出るものはいないとさえ錯覚する程の精度を誇るまでに磨き上げた。覚醒能力も上々にコントロールが出来て来ている。
(後は何時も通り........日々の鍛練を怠らず、能力の向上を目指せばいい。)
二年生へと進級したアスラウグは相も変わらず、鍛練をしていた。全てはジークリトに見合う強き戦乙女になるために。
「_________昨年、序列戦で一位を取った女はあんたか?」
世界樹が見えるウルズの水辺で鍛練をしていると、褐色肌の色男が話を掛けて来た。
「............それがなにか?」
アスラウグは目を細め、その褐色肌の男を睨み付ける。
「そう警戒するな。口説こうとしてる訳じゃない。ただ俺はあんたの実力が噂通りなのか気になってな。」
その噂通りの実力とやらがどの程度の評価なのかは知らないが、こうして舐められた様子で迫られるのは気に食わない。
「噂通りの実力、ですか。」
「学園でも五本の指に入る女傑だと聞いている。」
アスラウグは黒剣を構え、褐色肌の男へと告げる。
「構えなさい。わたくしの力が知りたいのでしょう?」
褐色の男は口元をつり上げ、嬉しそうにロングソードを鞘から抜刀する。
「そう来なくては面白くない。」
褐色肌の男は一足の内に間合いをつめ、ロングソードを右方から横凪に振るう。
(________速い。それに狙いも正確だ。)
けれどその斬撃は本気で打ち込んで来たものではない。様子見で放つ、軽い一撃。
ガキンンンンッ!!!!
ロングソードと黒剣がぶつかり、火花が舞う。
(剣速に合わせて来た..............)
褐色の男は内心で喜びながらギアを上げていく。
(速さと威力を上げてきましたわね。ですが、最後まで遊んで差し上げる程、わたくしも暇ではありませんの。)
アスラウグは剣の打ち合いの最中、褐色の男の懐に飛び込み、剣先を首へと押し当てる。
「_________________面白い女だ。」
だが、褐色の男の剣、ロングソードではない、もう一つの剣が空中に浮かび、背中を貫かんと寸止めで止まっていた。
「_________________聖剣使いでしたの。」
互いに視線を離さず、睨み合いが続く。そして褐色の男は空中に浮かぶ聖剣をアスラウグの背から離し、空間から取り出した、鞘へと戻す。
「自己紹介が遅れたな。俺の名前はスヴィプダグ・グローア。元「s」級冒険者だ。」




