本当の戦いが始まる
あぁ、そうか.....あの女魔術師、結界を張っているのか。その為か、いつまでも監視の視線が止まらない。
(恐らくヴァナヘイム外に出ても直ぐに位置が割れる。あの女魔術士は用意周到。監視の為の駒を外に設置している筈だ。)
トゥーレの聖塔に帰還する為には監視網を抜けなければならない。だが、ヴァナヘイム外はほぼ広野。隠れての移動はほぼ不可能。
(あの女魔術師.......僕をわざとヴァナヘイム内へと入れたな。)
忌々しい事をすると心の中で毒を吐く。
(道化師である僕が本当に道化のように女魔術師の手のひらで泳がされている。)
絶対に帰還し、この情報を持ち帰らなければならない。
(銀狼フェンリルの復活だけであればさほど、問題ではなかった..........)
この牢獄から抜け出す手段は一つしかない。
「___________僕にもう一度、職業適正の先を使えと言うのか、オーディン。」
今一度使えば命の灯火を使い果たす事になる。ジークフリートとの残り少ない余生は永劫となくなる。
「あんまりだ........せっかく此処まで僕は頑張ったのに.........」
ロキは涙をため、袖で拭う。
(.......................あぁ、畜生。選択肢は一つしかないことは分かっているだろう。)
此処で未知数である女魔術師並びに聖女と戦闘をし、勝利をする。それか、覚醒能力の先を再び使用し戦線離脱する。前者は博打に近い。フェンリルが目覚める迄に両者を倒さなければならない縛りもある。そして後者は確実に戦線離脱が出来るが、寿命限界に大きく近づく。
(使えば一年、いいや、数ヶ月、違う..........数日の命。)
最悪だ。本当に最悪の結末だよ。ようやく神聖国の基盤が形付いて来た。スローライフ計画完遂まで後少しだったんだ。にも関わらず、最悪なタイミングでこの女魔術師は現れた。
「ジークフリート...............」
だけど、文句は言ってられない。守らないと。彼の為に此処まで走ってきたんだろう。ならば最後まで尽くさなければ。
「.......................親愛なる友人の為に。」
「........................消えた?」
(私の張った網から消えた。存在消失?そんなバカな事があってたまるか。逃走を防ぐために転移系術式をも弾くルーン魔術を織り交ぜた高性能索敵結界術なんだぞっ。)
ヴァナヘイム外に出た報告も召喚術で用意した使い魔たちから一切とない。
「..........そうか。そう言うことか。やってくれたね、ラスボス。」
スクルドは気付いてしまった。ロキがトゥーレの聖塔で見せた職業適正の限界を再び行使した事実を。
(山田廉太郎との時間を惜しんで命は出し惜しみすると思ったけれど........)
スクルドは苦笑を見せる。
「私の敗けだよ、ロキ•ウートガルザ。」
(..........想いの強さをはかり違えた私の完全な敗北だ。その忠道に敬意を示そう。君は恐らく誰よりもジークフリートに誠実で彼の思想と思いを尊重した良い子だ。)
自分の感情は二の次。ジークフリートの願いに忠実に動く右腕として最後まで行動をする。
「個人的には君を推していたんだよ。君には生きていて欲しいと葉っぱをかけたのもその為だ。けれど、この場に来てしまった。それが君にとっての運の尽きだ。ジークフリートの側に最後までいたのなら、助けて上げてもよかったけれど........残念だよ。」くくく
スクルドの一人語りを後ろで静かに聞くブリュンヒルデ。背中には意識がないフェンリルが背負われていた。
「またやってるよ.........」
(スクルドってよく一人ごとを言いながらニタァって顔をするけど.............絶対頭がヤヴァイ人だよ。)
スクルドはブリュンヒルデへと向き直り、告げる。
「行こう__________これからが本当の十解達との戦いだ。」




