強すぎる主人公
「へぇ.......武器に高圧水流を纏わせる技かぁ。切れ味と破壊力が乗ってるね。さっきのわざと合わせて戦えばかなり強いんじゃない?」
ヴァリはごくりと唾を呑み込み、息を整える。そして拳を突きだし、本気の構えを取る。
「強いかどうかは今から分かる。」
(.............覚醒能力の技でようやくこの出力を出せんの。普通の戦士はお前みたいに普通の打撃で地形を変える程の破壊力はない。)
聖女はその本質に気付いていない。
「ふーん。精々頑張ってブリュンヒルデを殺しに来てね。」
腰を曲げ、誘うように上目遣いで挑発をする。
「ッ、」
ヴァリは怒りを抑え、走り出す。
(冷静さを欠いて勝てる相手じゃない。考えて戦え。相手は格上の七英雄。それも勇者に比類し得る聖女。此処が正念場だ。)
ヴァリはブリュンヒルデへと走りながら空衝拳舞を連打する。しかし、どの攻撃も聖女の聖光に阻まれ、肉体へと攻撃は届かない。
(魔力を込めた空衝拳舞でさえ、あの光の壁を突破出来ねぇってのかよ........ならッ!!)
跳躍し、水刃拳舞による攻撃を仕掛ける。
「うん、それは避けないと死んじゃうね♪」
水刃拳舞による鞭のような高圧水流の攻撃を全て最小限の動きで避ける。ブリュンヒルデは欠伸をしながら石を拾い、ヴァリへと投げた。
「こんなものッ!!」
投げてきた石を叩き落とし、聖女へと向け落下しようとするが、姿が見当たらない。
「この程度で十解名乗ってるとか___________舐めてんの?」
耳元をつく冷たい声。そして脇腹に突き刺さる鋭い拳。
「うぐっ、このぉ「さっきのお返し♪このまま一緒に落ちちゃおうか♪」
拳を抉りこまれたまま、そのまま地上へと落ちていく。
「離せっ、このくそあまッ____________」
そして空中から全身を強く打ち付ける。ヴァリは血を吐き出し、意識を失いそうになる。
「あーだめだめ!そんな終わりかたは許さないよぉ!ほら、起きて!拳刃士って全部で三つ、覚醒能力による奥義があるんでしょ?」
聖女はヴァリに対し、軽い医療術を掛け、怪我を治療する。
「がはがは、くそ、」
(こいつ、私の覚醒能力見たさに回復させやがったのか..........この私が遊ばれている。ヴァナヘイム最強の私がっ!!)
ヴァリは立ち上がり、己の拳と拳を合わせる。
「..............私は十解最強の女なんだ。こんな場所でくたばっていい人間じゃねぇ。」
そうだ。この身は何れ覇王の立ち位置につき、大陸全土をこの手で支配する女帝となる。そして後々に神聖国王と夫婦となりより強固な絶対国家を創り上げるのだ。
「誰にも覇道は邪魔させない......それが例え癒しの聖女様であろうとなぁ!!!!!」
空衝拳舞は遠距離による攻撃術。水刃拳舞はミッドレンジによる攻撃術。
「________________切裂拳舞。」
そして最後の奥義は近距離による攻撃術。この一撃を受ければ打撃は肉体の内部で炸裂し爆散する。
「............ヤバそうだね、それ。」
メリケンサック状の短剣は水流と共に強風を生み出し、電撃がバチバチとなっていた。
「その状態の君は確かに強そう。スクルドのレポートにも本気を出した君の戦闘力は十解でも五本の指に入るって記載されてたし、納得かも。」
聖女は初めてこの戦闘で構えのポーズをとる。ヴァリは冷や汗を見せながらニィと頬をつり上げ聖女へと拳を穿つ。
「まぁでも、いくら強く見せようともブリュンヒルデより格下であることは違いないよね。」
神速の拳を紙一重で避け、ヴァリの顔面へとブリュンヒルデの拳が当てられる。そして_______
「_________________鉄拳制裁☆」
顔面へと拳は抉り込み、そのままヴァリをヴァナヘイム街へと吹き飛ばす。ヴァリはいくつもの建物を突き破り、中央公園にあるフレイヤ/フレイ像へと身体をぶつけ、地面へと倒れる。
「あぐ.......ぶふ.........あぁ」
顔だけでなく、身体中の骨は折れ、内蔵の幾つかは潰れた。呼吸をすることも難しい。
(あぁ.......ヤバい..........死ぬ.........)
ヴァリは助からない事を悟る。全力による一撃を当てる事も出来なかった。自分一人では聖女には勝てない。それ程までに実力さが両者にはあったのだ。
「うわ、ひっどい顔。流石に女の子の死に顔がこれだと可哀想だし、顔だけは治して上げるよ。」
頭の痛みがなくなっていく。視界もクリアとなり、此方を同情とした目で見る聖女の姿が目に写る。
「なんで.......こんなことを.........世界は平和になった.......なのに、何故、また混沌を生み出す事をする........貴女は聖女だろ.........」
聖女は倒れるヴァリの前で座り、語り始める。
「十解を殺せばジークフリートは自由になる。神聖国王なんて肩書きはジークくんには似合わないよ。スクルドのくれたレポートを見た。彼の願いは始めから変わってない。田舎で静かに暮らすことなんだって。それも別嬪なお嫁さんを貰ってね。笑えるよね。ブリュンヒルデが学園に行かず、ジークくんとバルドル領で暮らす未来もあったんだ。」
渇いた笑みを見せるブリュンヒルデ。
「でもいいんだ。またリセットすればいい。邪魔な十解を消して、代わりの王を立てるの。そうすればジークくんは晴れて自由になる。」
「狂ってる.......それは神聖国王以外はどうでもいいと言う考え方だ..........」
「上昇志向が高い君にだけは言われたくないな。あぁ、どうやらブリュンヒルデの愉快な仲間達が来たようだ。」
ブリュンヒルデは立ち上がり、後ろを振り向くとフェンリルとスクルドの姿がそこにはあった。
「あれ、止めはまださしていないのかい?」
「うん、止めはフェンリルに上げようかなって。スクルドのプランだとそう言う振り分けだったし。」
ブリュンヒルデはフェンリルの頬についた血を拭って上げる。フェンリルはよさぬかと照れた様子でブリュンヒルデの手を振りほどく。
「フェンリルって人間を食べる際、上質な戦士の肉しか食べないでしょ。この子、めっちゃいい肉だと思うよ。強かったもん。あ、それと技は盗めた?」
フェンリルは鼻で笑うとヴァリへと近づく。
「無論じゃ。わっちも人間体では二刀流の短剣を使うからな。大剣使いの技よりは幾分と吸収はしやすかったでありんす。」
ヴァリは目を閉じる。最早、万事休すであることは嫌でも分かる。助かりはしない。無駄な抵抗も出来ない程に身体はもうぐしゃぐしゃだ。何も出来ない。死ぬこと以外は。




