銀狼と蒼髪
神聖国兵派遣所の制度は冒険者協会と何ら変わらない。民間人が依頼を出し、依頼完遂に自信のある神聖国兵が自主的に依頼を受けるのだ。
「アングルボサの呪いも昔と比べりゃ大分弱くなったもんだぁ。」
依頼料の三割は神聖国側に徴収されるのだが、達成により報酬は出される。そして依頼を多くこなせば年に一度ボーナスが支払われると言う。
「故に依頼を受けようとする志願者は多い、と。元冒険者どもは金にがめつい奴らばかりだからなぁ。グローアの奴も考えたもんだ。」
蒼髪は新人たちに戦闘訓練を行っていた。
「つ、つぇ......」「俺達、十人がかりだぞ」「流石は蒼髪の旦那だぜ.........」
十人以上の神聖国兵を相手に安い長剣で訓練相手をし、戦えなくなるまで戦闘を続行させる。
「戦場に立つとき、敵はお前達を見逃しはしない。命が続く限り抗え。無理だと諦めるな。立ち上がり、勇士を見せてみろッ!!」
蒼髪は剣を再び構え、倒れる神聖国兵達を鼓舞する。
「_______________ならば士官であるお主がお手本を見せねばならぬな。」
神聖国兵の制服に身を包む銀髪の美少女。両手にはダガーナイフが握られる。
(誰だ........この小娘は?)
訓練を行っていた神聖国兵の中にこのような娘はいなかった。
「武器を変えねば死ぬことになるぞ、元「s」級冒険者。」
圧倒的なオーラを目の前の少女から感じとり、即座に長剣を投げ捨て、大剣二本を両手で構える。
「ほぉ、わっちと同じ二刀流。見かけ倒しでなければ良いが.........準備は良いでありんすか?」
即断即決。目の前の少女は少女ではない。人の形をした異形の何かだ。
(______________一太刀で決める。)
魔力でブーストし、跳躍する。
(殺す気で放つ絶殺の一撃。)
そして銀髪少女の上背後へと周り込み、大剣二刀をクロスに構える。
「奥義_________狂い回廊ッ!!」
狂い回廊。双大剣使いの二ある覚醒能力の一つ。斬撃が幾重にも別れ、対象者へと回帰する無双の一撃。避ける事はほぼ不可能である。
「ぐっあ、」
360度全方位からなる斬撃を諸に受け、銀髪の少女は全身血塗れになる。そして膝を地面につき、ガクンと頭を垂らす。
(ばかな..........そんな筈は。俺は全力で奥義を放った筈。なのになんで五体満足で存在してやがる?)
本来であれば肉傀と化し、ミンチになっている筈だ。例えそれが上位のアングルボサの呪いであろうと。
「ふむ、確かに人間にしては火力のある攻撃じゃの。人間体とは言え、我が体毛を破りおった。」
塵を払うように血を身体から払い、何事もなかったようの立ち上がる。そしてみるみるうちに傷は修復し、美しい少女は裸体で蒼髪の元まで近付く。
「お前は.........何者なんだ?」
蒼髪は悟る。目に前にいる化物には勝てないと。
「ふむ。勝てないと分かった上で抵抗の意思は曲がらぬその勇気。一角の戦士であることは認めてやろう。」
鋭い赤目が蒼髪を覗き込み、銀髪の少女は褒美だと自身の名前を名乗る。
「ラグナロクの再来、国喰いの大銀狼。大神オーディンを喰い殺した神話の化物フェンリルと言えば分かるでありんす?」
クスクスと妖艶に嗤う少女を目の前に蒼髪はバックステップで距離を取る。
「本物かどうかは知らんが..........お前は神聖国にとって脅威となる。命に掛けて此処で仕留めさせて貰うぞ人の形をした化物ッ。」
フェンリルは神聖国にとっての最後の標的。己を銀狼と呼ぶ目の前の怪物は此処で殺さなければならない。
「言葉とは裏腹な笑みを消せよ、戦闘狂。」
巨大な建造物であった神聖国兵派遣所がフェンリルの手により倒壊する。蒼髪は大剣を上に翳すことで瓦礫の被害を耐える。
「あははははっはは!!!漸く死に場所が出来たぜ!!!」
大剣を地面から抜き、フェンリルへと構える。
(潰された神聖国兵達には目もくれぬか。)
冷酷な事だと他人事のように思い、普段通りの衣装へと戻る。
「これではスクルドとの約束は反故なってしまうな。だが、目撃者を殺してしまえば問題なかろう。」




