鍛治士の最後
「__________ゼクス殿は現存する七人の鍛冶士の中で歴代最高の武具職人と噂される程のお方。神聖国王より十解の冠位を賜り、己もまた機械人形で一流の戦闘力を誇る天下無双の御仁と聞き及んでおります。是非ともその恩恵を授かりたく参上致しました。」
ゼクスの工房を正面切って訪れたスクルド。わざとらしくゼクスを褒め称え、魔法袋から大量の硬貨を卓上へと出す。
「金銭ならいくらでも払いましょう!私は商家の娘。商いには天武の才があると自負しております。ゼクス殿が鎧を作って下さると言うのであれば我が商会は元ニザヴェリル領の復興資金全額負担致しましょう。」
だがゼクスはその申し出を無視し、弟子達に師事していた。
「ゼクス殿!!」
商家の娘らしく黒色のドレスを着飾ったスクルドは美しく弟子の男達の視線は彼女に釘付けであった。しかし、ゼクスは頑なにスクルドを避け続ける。
「神聖国と言えど、大陸統一で出費が激しい事は財務相の提示する会計書で確認済み。私の提案は喉から手が出る程欲しい筈です。」
ゼクスに近付き、顔を近くで覗き込む。それも超至近距離で。実にあざといムーブではあるのだが、スクルドはそれが有効打であることを理解していた。
「ち、近いっ、」
ゼクスは顔を林檎のように赤くし、後退る。だが、それを追うようにスクルドは近付いていく。
「っ、はぁ.......分かった、分かったから離れてくれ。」
そして観念したのか、指をある方向へと向けた。
「..........あのガラスに展示されている『透明の鎧』は俺の作った作品でも最高峰の出来だ。十解皆が装備している。それを提供すると言えば、ニザヴェリルへの助力は惜しまんのだろうな?」
「え、えぇ!もちろんですとも!!そんな凄いものを頂けるのなら、スコーネ商会は全霊をもってニザヴェリルの財政助力を致しましょう!」
それでは書類での契約を済ませましょうとゼクスの腕を牽いていく。
「お、おい!ここは俺の工房だぞ!!」
弟子達は引きずられていくゼクスを目に羨ましいと思うのだった。
「________________はぁ、契約書はサインしてやったんだ。今日は透明の鎧を持ってとっとと帰んな、嬢ちゃん。」
客間にて書類上の契約を終えたゼクス。それを見届けたスクルドは口元を抑える。
「嬢ちゃん、どうしたんだ?気分でも悪いのか?」
クスクスと笑い声を出し始めるスクルド。
「あぁ、だめだ.......ぷふ、我慢できない。」
「__________何がおかしい?」
それを可笑しいと思ったのか身構えるゼクス。
「っあはははっはあっはは!!!!ゼクス殿ぉ、お馬鹿過ぎませんかぁ?貴方がサインした契約書は私の奴隷となる契約書ぉ!貴方はもう私の命令に逆らう事は出来ないッ!!!」
そして我慢が出来ずに笑い声を響かせる。
「ふ、ふふふ、ふぅ..........そうですね。今日は透明の鎧を持って帰ろうと思います。ですがその前に弟子を斬殺し、自害しなさい。」
「てめぇ、何を言って__________」
ゼクス本人の意識が突如として消える。そして客間を出ていってしまった。聞こえてくるのは悲鳴と血肉が裂かれる音のみ。そして最後に聞こえて来たのは人が首吊りをする際に生じる縄の軋む音である。
「とまぁ、こうやって戦闘を行う事もなく十解を葬る事も可能なのです。鮮やかな手際だったでしょ?」
スクルドは血塗れの工房に足を踏み入れ、一礼をする。
「一々ルーンの契約書を使わずとも傀儡使いの覚醒能力で自害に持ち込めたじゃろ。」
「あまり十解以外の人は殺したくないって言ってなかったけ?」
二人は工房の外で待機していたのだが、スクルドの声掛けにより姿を現す。
「覚醒能力に頼らずとも殺せますよってところを見せたかったんだ。事実、こんなに簡単に殺す事が出来ただろう?ちなみに工房の男衆を皆殺しにしたのは私を邪な目で見たからだね。三三三以外に欲情をされても殺意しか湧かないからね。清い身体でいるのも大変だよ。」
スクルドの意見にブリュンヒルデは首を上下にかくんかくんと強く振るう。
「ちょー分かりみ!好きでもない男に見られても鬱陶しいだけだもんね!」
「そう、そうなの!分かっているじゃないか!」
きゃっきゃっと盛り上がる二人を何とも言えない表情で見るフェンリル。
「________さて、証拠を消して次の目標に移るとしよう。」




