暴食狼
「いいや、もう一人........協力者はいるよ。そら、隠れてないで出てきたらどうなんだい、フェンリルちゃん?」
部屋の扉がゆっくりと開く。そこにいたのは銀髪の少女。
(な、に.............この子......)
反射的に女魔術師を庇うように構えるが、ブリュンヒルデは圧倒的な『死』を目の前の少女から感じとる。
(人の皮を被った化物。今の状態のブリュンヒルデじゃあ絶対に勝てない。)
後ろに控える女魔術師の手が自分の肩の上に乗る。
「そう身構えなくてもいいよ。殺そうと思えばいつでも殺せた君を殺していないのがいい証拠だろう?」
女魔術師は自信然とした銀髪少女の横に並び立ち、ブリュンヒルデへと向き直る。
「私はスコーネの女王スクルド。大昔に存在した小さな国の王族さ。今は滅びてこの通りただの美少女女魔術師だけどね。」
ウィンクをする女魔術師改めスクルド。
「少女って歳でもなかろうに...........まぁよい。こうも畏怖されては名を名乗らぬ訳にはいかんな。わっちはお主らがラグナロクの再来と恐れる終末の化物が一柱『フェンリル』じゃ。今は人の形を得て現界しておるが、本来の姿形は噂通り、大口の銀狼でありんす。」
意外と社交的そうなフェンリルの挨拶にブリュンヒルデは思考を停止する。
「...........ふぇ、フェンリルッ!?」
ラグナロクの再来が既に解放されている事に驚きの声を上げる。
(ジークくんの掲げるスローライフ計画、最後の標的だ........)
フェンリルとスクルドはクスクスと笑いながら部屋にある椅子へと腰を下ろす。
「さて、話の続きをしよう。私とフェンリルちゃんは十解を殺す為に動いてる。そしてその手伝いをブリュンヒルデちゃんにも手伝って貰いたいんだ。報酬は神聖国王ジークフリートの身柄。もちろん、十解という邪魔者達を消さない限り、手にする事は叶わない。だから一緒に戦って欲しいなぁって。」
「.........言うのは自由だけど、簡単じゃないよ。」
ブリュンヒルデは神聖国の戦力を把握している。故に二人へと計画の成就が難しいことを語る。
「うん、そうだね。正面切って戦えば私達に勝ち目はない。だから個々に撃破していこうと考えているんだ。」
「っ、勇者と聖者を使っても勝てなかった!個別の撃破?はは、今の剣帝には誰も勝てない.......あの道化師や、貴方の思い人である英雄王も十解に席を置いてる。強すぎるんだよ、十解は。」
弱気なブリュンヒルデに対し、スクルドは頬をつり上げる。
「だから言っただろう。君に手伝って欲しいと。大丈夫、私は最強のプラナーだ。計画達成への道筋は既に頭の中で完成している。計画に綻びは出ないよ。」
「そう言うのってジークくん的にはフラグって言うんだよ?」
ブリュンヒルデの発言にスクルドの眉がピクリと動く。その反応を見たフェンリルは噴き出す。
「......フラグかどうか試してみようじゃないか。私は自信家なんだ。計画に歪みがないよう調整もした。万全の状態で各個撃破を狙える。断言しよう。私たちに敗北はない。だって恋する乙女は無敵なんだもん。」
スクルドの最後の言葉に彼女の計画の全貌が凝縮されている。
(..........恋する乙女は無敵。理屈じゃない。思いが大切なんだ。だってブリュンのジークくんへの思いは誰にも負けない。負けてない。)
ブリュンヒルデは即座にスクルドの手を取り、声を荒げる。
「うん!うんっ!!そう!そうだよ!!恋する乙女は最強だもん!!!最後にハッピーエンドを掴むのはヒロインのブリュンヒルデだよね!!!」
「おおともさ!幼馴染は絶対にヒロインゲームに勝たないと行けんのさ!もう二度と負けヒロインなんて言わせない!」
ブリュンヒルデとスクルドは肩を組み宿屋の一室で陽気に踊る。
(この聖女、スクルドの言葉に乗せられておるな...........とはいえ、スクルドもまた嘘をついていないのも事実。似た者同士、良い結末を辿ればいいのじゃがの。)
その様子を笑いを堪えるようにフェンリルは見守るのであった。




