スコーネの女王
最終章です!
霧深い湖の奥深くにて、鎖に繋がれた狼は目が覚める。
「__________わっちの眠りを邪魔するものは誰ぞ。」
壊れかけの鎖に繋がれた銀色狼。その身の丈は立派な貴族屋敷程の体格を誇り、鋭い眼が深くフードをした女魔術師へと刺さる。
「邪魔はしてはいないよ。ただ、君と取り引きがしたくてね。」
「人間であるそなたがわっちとかや.........くく、随分と大きく出たものよな。」
女魔術師はフードを下ろし、素顔を露にする。そして狼を見上げた。
「『ラグナロクの再来』、銀狼フェンリル。このままでは抵抗出来ないままに神聖国に殺されるよ。気づいているのでしょ?冥界の女王、そして世界蛇の末路がどうなったか。」
フェンリルは何も言わず、女魔術師へと耳を傾ける。
「今代の七英雄、並びに上位職の実力は過去の英雄達を大きく凌駕する。剣帝の力量なんて最早、大英勇の領域だもの。君が相手だって今の剣帝の実力なら単体で斬り伏せられる。」
フェンリルは怒りを見せるように喉をグルルと鳴らす。
「そう怒らないでよ。私は嘘をつかないし、裏切らない。ただ目的達成の為に君の力が必要なんだ。」
「わっちを利用し、何を成す........何を差し出す?」
女魔術師はフェンリルを指差し、自慢気に告げる。
「_____________自由、そして新たな発見。」
女魔術師の陳腐な発言にフェンリルは嗤った。
「かかッ!この忌々しい鎖が解かれればわっちは自由だ!何者にも縛られず、力で大陸を喰い滅ぼしてくれよう。さすればお主の言う新たな発見とやらも見えて来ようぞ!!」
女魔術師に圧倒的強者による圧を掛ける。
「自由を謳歌するか、今すぐに冥界に旅立つか___________選びなさい。」
女魔術師はその重圧を押し潰すようにフェンリルへと鋭い殺気を被せる。
(この人間.........真に人間か?)
ただの人間が発していい殺気ではない。フェンリルは冷や汗を見せ、警戒とした様子で女魔術師へと視線を下ろす。
「.................自由を選択した場合の利点はなんでありんすか。」
フェンリルはメリットについて問う。
「そう、それでいいの。戦いは良くないもの。仲良くしましょう。」
女魔術師は殺気を押さえ、笑みを浮かべる。
「そうだね、もう大陸では君は猛威を振るえないと思う。だからね、人の世で自由気ままに暮らせばいいと思うんだ。もちろん、今代の英雄達と戦って死んでもいい。だけど勝てないと分かっていて挑むのは愚かだと私は思うの。」
「まだわっちが負けるとは「負ける。断言するよ。この大陸に貴方を単騎で殺し得る存在は三人以上存在する。だからね、私と契約して欲しいんだ。」
ルーンによる誓約書を異空間から取り出す。
「これはお互いに攻撃が出来ないという誓約書。」
フェンリルはその誓約書へと目を通す。
(..........このルーンの誓約書に署名をすれば互いへの攻撃行動は完全に制限される、か。)
内容は至ってシンプル。互いの攻撃を禁止すると言うものだ。
(わっちの不利になる要素は見当たりんせん。この人間の言葉を鵜呑みにするわけではないのじゃが、我が弟妹がこの世から消失しているのも事実。それだけの力を持った英雄達がこの現世には存在すると言う証拠に他ならない。ならば危険要素であるこの人間と契約を結ぶのも一考ではある、か。)
フェンリルは念力を使い、契約書へとサインする。女魔術師は嬉しそうに契約書を懐へとしまうと、パチンと指を鳴らした。
「..........グレイプニルが消えた、だと」
拘束していたグレイプニルの鎖が消え失せた。
(一体何者なんだ.......この人間は?)
目の前にいる人間はただ者ではない。
「ねぇ、一ついいかな。君は雄?それとも雌?どっちなのか気になる。」
グレイプニルの拘束が解けた事に驚いていると女魔術師が変な質問を投げ掛けてきた。
「...........性別はない。わっちはわっちだ。」
性別は好きに変化出来る。そもそも、異形である自分につがいとなる者はいないのだから生殖器官が必要ないのだ。
「じゃあ女の子になって欲しいなぁ。世界蛇の心臓のように人間に擬態、又は変化出来るのでしょう?」
巨大な狼である自分に向かい、人間の雌に変身しろと言う。ルーンの契約を結んでいなければ喰い殺しているところだ。
「何故、わっちがその様な申し出に答えなければならんのじゃ。」
「だって、これから私と神聖国内を旅するのだから当然でしょ。」
「わっちがいつ、そなたと旅をすると言った?」
「ルーンの契約書の端に小さく書かれていた筈だけど...........もしかして見落としたのかな?」
フェンリルはぐっと驚いた表情を見せる。
「そなた、わっちを謀りおったな..........」
「契約書をしっかりと読まない君が悪いんだよ?さぁ、早く女の子になりなよ。なんちゃって花魁言葉を使っているのだからさぞ美人な女性に生まれ変わってくれる筈だ。」
クスクスと笑う女魔術師に溜め息を吐き出すフェンリル。
「覚えておれよ、人間.......いつの日かそなたを喰い殺してやる。」
そう言うとフェンリルの巨大な三つ目を突き破るように裸の女が姿を現す。その女は銀髪の長い髪を靡かせ、ゆっくりと地上へと降りてくる。
「そら、そなたの希望通り、女人として生誕してやったぞ。どうじゃ、美しいでありんす。」
「うん、フェンリルちゃん超可愛い。」
長身の女魔術師はフェンリル(人間体)の頭を撫でる。
「可愛い言うな。それと頭を撫でるでない。」
「照れちゃって、本当に可愛いね。」
「ッ.........あぁもぅ、鬱陶しいわぁ!!!人間、そなたの名前は何ぞ?此れより協定関係を結ぶのであろう?ならばそなたの名前を教えんす!!」
女魔術師はクスリと微笑むとフェンリルへと一礼をし、挨拶をする。
「挨拶が遅れたね。私はスコーネの女王スクルド。君の救世主だ。」




