戦士として死にたい
「____________大狼フェンリルを討伐する。」
ラグナロクの再来、最後の一体。大神オーディンを喰い殺した最大最強の化物。
「..........正気か?」
「正気でなければ俺達は世界を救ってない。」
世界蛇を倒した英雄の一人。それが目の前に立つ「s」級冒険者だった男。その男の眼は嘘偽りなく本気でそう口にしている。
「世界の調和と平和を本気で望むなら動き出せ。立ち止まるな。英雄の本懐は己の正義を勝ち取り世界にお前が英雄であると知らしめる事にある。だから俺達は勝ち取ったんだ。」
神聖国の存在はヴァルハラ大陸の安寧にある。闇雲に世界征服をした訳ではない。力を保有しながら、その力を世界蛇討伐に行使しなかった大国の大罪に鉄槌を下したまでのことだとグローアは語る。
「次期にフェンリルを縛るスレイプニルの鎖は破壊される。世界は世界蛇以上の混乱を招く事になる。」
「だからお前達は..........和平と言う形もあっただろう。訳を話せば四大国とて協力を惜しまなかった筈だ。」
グローアは笑い出す。
「冗談で言っているのか?蒼髪、お前には噺家の才能もあるらしい。」
「別に冗談を言ってる訳じゃねぇよ。」
「蒼髪..........世界蛇の出現で何を学んだ?まさか分からないとは言わないだろうな。」
蒼髪は岩場へと腰を下ろし、グローアへと視線を向ける。
「................各大国は己の国を守ろうと保身に回った。何か悪い事でもあるのか?クラキ国がベルセルク部隊を送って全滅したんだ。あの最強と名高い戦士団がこのざまでどう抗えよう。かのベルセルク部隊を大きく凌駕する戦士団が他国にあると思うか?否、存在しないんだ。ボスヴァル•ビャルキは天下無双の一人だった。だからこそ、結束して世界蛇に対抗する可能性もあったんだ。」
蒼髪は立ち上がり、グローアの胸へと人差し指を当てる。
「だが、お前達は手を結ぶ選択をせず、世界蛇を倒してしまった。そして当て付けのように世界に喧嘩を売り、勝手に世界を統一しやがった。別に攻めてる訳じゃねさ。俺もヴァナヘイム人だ。力ある奴が弱者を従える。自然の摂理ってもんだ。」
世界蛇の出現、そしてヴァナヘイム侵攻と言う被害で多くの者が家族や知人を失った。自分もまたその一人だった。世界蛇出現に伴い、各地に出現したアングルボサの呪いの討伐に尽力していた。残る二名の「s」級冒険者も恐らくそうだろう。
「ヴァナヘイムの矜持か。」
世界蛇討伐に参加出来なかった事が途方もなく悔しい。
「........正義なんてもんは個々に存在する。だからこそ話し合いが必要なんじゃねぇかとと俺は心のそこから思うよ。」
理想論であることは重々承知だ。だが、蒼髪は英雄譚に憧れて冒険者になった。仲間との絆で強敵を打ち倒すハッピーエンド。血生臭い物語なんてのは吐き気がする。
「話し合いで解決か.......そんな平和ボケした世界ならば大国間で冷戦などしてなかったさ。今でこそ俺は神聖国十解という強大な肩書きがあるが、統一前の俺達では大国との対話、いいや、交渉のテーブルにすら上がれなかった。」
グローアは蒼髪の手を強く握る。
「だからこそ力づくで見向きさせる必要があった...........違うな、世界を支配する必要があったんだ。蒼髪、お前や俺はこの世界に必要な歯車だ。その才能、戦闘センスを枯らす真似はするな______________俺と共に戦え。」
冥界の女王ヘル、世界蛇ヨルムンガンド、大狼フェンリル。強大過ぎる強敵達だ。二体を下した今、残る巨人はフェンリルのみとなった。
「俺は_________________」
ぎゅっと手を握り返す。
「_____________________戦士として死ねるんだな。」




