スコーネの王女
「聖女」が持ち合わせる最強の技『生滅遷流』。簡潔に説明するならばサマーソルトキックではあるのだが、喰らえば相手は完全に消滅する。そしてその代償として使用した足は機能を完全に失う。
____________聖女は現状、この技を使えない。
魔力を極限まで使いきり、体力も残り少ない現状では技が発動しないのである。ブリュンヒルデが使える技は聖光を拳に集中させ解き放つ「鉄拳制裁」のみ。それも一度だけ。
(使えば体力が底をついて、意識を失う。)
ブリュンヒルデは膝をつき、辛そうに胸を抑えるロキへと近づいていく。拳には今持てる全ての聖光が集中する。
「ロキくぅん、とどめ、さしてあげるぅ。」
拳を振り上げ、ロキへと止めを指すために振り下ろす。
「_______________ようやく君を殺せる。」
短剣がブリュンヒルデの胸部へと向かい、投擲される。
「この程度の抵抗でっ____________」
ブリュンヒルデはすかさず拳で短剣を叩く落とす。
(____________________何処に消えた!?)
目の前にいた筈のロキは視界から姿を消していた。ブリュンヒルデは即座に索敵を開始するが、時既に遅し。
「ろっ、ぎっ!!!」
頭蓋骨を割り、眉間へと深く突き刺さる短剣。ブリュンヒルデは死の直前、悪童が意地悪く嗤うのを目にする。
「はぁ........はぁ......」
どさりと両者は地面へと倒れ伏す。
「は、はは.......ジークフリート.....僕、勝った.....勝ったよ.....」
ロキは胸を抑え、苦しそうにしつつも喜びを隠せずにいた。
「がはがはっ、」
吐血。息が出来ない。苦しい。覚醒能力の上限を越えた使用に限界が来たのだ。
(どうしよう.........このままだと、僕...........)
死。死を感じる。ロキは震える。死を恐れている訳ではない。ただ、ジークフリートの側に入れない事が何よりも怖いのだ。
「___________意外な結末。てっきり、物語の主人公であるブリュンヒルデが勝利するものだと思ったけれど、上手く物語は進んでくれないらしい。」
魔術師然とした美しい女がカーテンから姿を現すように空間から姿を現す。
(..............新手か?)
ロキはぐっと拳を握り締め、立ち上がろうとするが立ち上がれない。
(ダメだ.....もう戦う気力すら残っていない.......)
既に体力は底を尽き、命に関わる重症を負っている。無理に動けば確実に死に近づく。
「.........」
ロキは女魔術師を睨み付ける。
「そんなに睨まないでくれ。私は別に君達と敵対しようとしている訳ではないんだ。寧ろ、仲良くしたいとさえ考えている。」
ロキへと手を翳し、ルーンによる回復術を掛ける。
(この女魔術師......)
美しい黒髪に整った顔立ち。されど瞳に写るは深淵の眼。そして何処か慈愛に満ちた表情を見せる。
(..........不気味だ)
女魔術師は頬を吊り上げ、ロキへと微笑み掛ける。
「君に死んでもらったら困る。ジークフリートと幸せになりたいのだろう。ならば、幸せにしてあげなければ。私は心の底から応援するよ。」
ロキの傷を癒しきると、聖女の遺体の元へ向かう女魔術師。
「君の奮闘は素晴らしかった。物語の最終決戦に相応しい死闘ではあったよ。だけど、同情する。主人公である彼女は殺せない。どんな秘策や奥義を使おうと彼女は何度だって蘇生するんだ。戦うだけ時間の無駄だね。ゲームで言うコンティニューという奴を彼女は世界から祝福されている。」
ロキは曲剣を拾い上げ、女魔術師を警戒する。だが、女魔術師は少しの動揺も見せず、聖女を異空間へと投げ捨てたのである。そして聖女に似た違う遺体をとりだし地面へと放り投げた。
「_________聖女をどうするつもりだい?」
(目の前で堂々と偽装死体を置く理由はなんだ?)
女魔術師はニコリと笑い、ロキの間合いへと入り込む。
「どうもしない。」
そしてロキの手を取り、握手をする。
「紹介が後れたね。私は君と同じ、ラグナロク以前の人間だ。スコーネの王女スクルドと言えば分かるかな、ロキ•ウートガルザ。」
手を離し、背を見せるスクルド。ロキは即座に斬りかかろうとするが視界が揺れ、地面へと倒れる。
「あはは、私に敵対心を見せたらダメだね。」
人差し指を唇へと当て、ウィンクをするスクルド。ロキは意識が朦朧とし始め、女魔術師へと手を伸ばす。しかし届かない。
「私と会ったことは秘密だ。といっても君が次に目覚める時には私のことは覚えていないと思うけれど.......もし、私の事を覚えていたらスキールニル王に伝えてくれるかな。」
瞳が完全に閉じる瞬間、女魔術師は恋をする乙女のように好意の言葉を口にするのだ。
「_____________永久に愛している。」




