魔帝の過去
古の遺跡の最奥地にて封じられた魔帝は数世紀を得て封印から解き放たれる。
「___________てめぇは」
永き眠りから目を覚ますと、端整な容姿をした少年が微笑を浮かべながら自分を見ていた。
「君を解放したただのか弱き美少年と言っておくよ。」
鎖に繋がれていた筈の肉体は自由が効くことから嘘は言っていない。だが、ただの少年がこの遺跡の深部まで辿り着ける訳がない。
「_________俺を攻撃しない方がいい。せっかく永い眠りから覚めたのに冥界へとは堕ちたくないだろう。」
攻撃をするために動き出そうとした刹那、少年に忠告を受ける。首回りに違和感を感じ、触れると細い糸が巻き付いていた。
「ッチ........糸使いか。」
「あはは、正確には違うけど、攻撃方法の一つとしては糸は好んで使うかな。強キャラ感あるし。」
独特な雰囲気を持つ。俺は諦めたようにその場へと腰を下ろした。
「俺を解放した目的はなんだ?力が欲しいか?それとも魔術の真髄を知りたいか?」
古の【魔帝】だ。この力を支配下に置きたい奴などごまんといる。目の前の少年もその一人だろうと推測する。
「んーとくにないかな。」
少年はあっけらかんとした様子で立ち上がると糸による拘束を解き、背中を向けた。
「てめぇ......俺が誰か分かってンのか?」
「文献によると大昔に封じられた魔王でしょ?そして七人の英雄の一人、【魔帝】。」
俺の素性を分かっていながら少年はこの身に何も求めないと言うのか。
「好きにすればいい。俺は遺跡で偶然君を見つけただけに過ぎないのだから。」
少年は優しく笑った。嘘偽りのない優しい微笑。
「は、はは........悪逆を尽くしてきた俺に願いも恐怖も見せず、自由を謳歌しろというのか。」
愉快な事だ。この若き勇者はなんの見返りも求めないらしい。
「_________ならば、俺は俺の好きにさせて貰う。」
少年の隣へと並び立ち、歩を共にする。
「お前の目指す先を見定める。」
「えーめんどくさいからいいよー。テンプレ美少女魔王とかなら分かるけど、黒衣纏った中二マックスのマスクメンとかだれとくって話だし。」
これが俺と彼奴の出会いだった。
(..........テンプレ?中二?)
彼奴の言葉は時々理解が出来ない事もあったが、共に時を過ごしていく上でスキールニルが誰よりも王に相応しい男だと俺は感じた。
「_____________スキールニル、お前は上に立つべき男だ。俺や誰よりもその頂きに君臨すべきな。」
誰にも優しく後に衰退していた国家を隣国と並び立つ程の大国へと立ち直し、導いた希代の勇士。七英雄の一人ではないことだけが悔やまれる。
「よそ見してんなよ......」
血を吐き出しながらも、召喚術を行使し、二体のハティが姿を現す。
「.......己の寿命を削る程にジークフリートと言う男は価値がある男なのか?」
目の前の女は寿命を代償にして召喚術を行使した。それも上位の呪いである【ハティ】を二体もである。正気の沙汰とは思えない。
「寿命を削りに削っててめぇに勝てんなら安い代償だろーが」
立っていることすらキツい筈だ。にも関わらず、召喚術士の瞳には未来しか見えていない。
(勝つ以外の思考を持ち合わせてねぇーて面だな。)
その真っ直ぐな思いを貫いた先にお前は命の輝きを失う。
「バカな女だ.........」
(....................それ程の代償を払ってまだ帰れると錯覚してやがる。)
この戦いが終われば勝敗に限らずこの女は死ぬ。この女はそれを理解しているが理解していない。奇跡が起きると、誰かが救ってくれると本気で信じている。
「______________お前の勝ちだよ」ボソッ
杭を捨てる。
(てめぇを見てると昔の自分を思い出して嫌になる。)
だが諦めた訳ではない。ただでは死なない。死ねないのだ。召喚術士が死ねば召喚した呪いはコントロールを失い暴走する。
「スキールニル..........すまねぇ」
七英雄の矜持を今こそ見せなければならない。死にもの狂いで二体の化物と相討たなければならない。
(国を、平和を目指したてめぇの覇道を最後まで見届けてやることが出来ねぇ........)
魔力で浮遊。そして数重にも魔力障壁を展開し、防御力を高める。両手には圧縮した魔力玉が握られる。
「勇者______________てめぇの技を借りるぜ。」




