勇者VS元勇者
「確かに.......オラ達が弱いんじゃあ世界は救えねぇ。」
格闘家(元勇者)は籠手を装着し、勇者との距離を詰める。
(想定していた速度より大分速い。だが、許容範囲内だ。)
拳を穿つ格闘家。シグルドは魔剣を振りかぶり、拳ごと叩き斬ろうとする。
「甘ぇ!!!拳岩昇天拳ッ!!!」ブゥオン
拳に乗せた衝撃波がシグルドの顔面へと叩きつけられる。
(ぐっ........魔力障壁を破ってきた!!)
シグルドの身体は宙を飛ぶ。だが直ぐに空中にて身体を回転させ、着地する。そして視線を格闘家へと向けようとした刹那_______
「がはっ!!!??!」
__________シグルドの顔面へと膝蹴りが入る。
「勇者ってのは非情じゃねぇとやってらんねぇんだ。」
鼻の骨が折れ、前歯が宙を飛ぶ。だが、意識は失っていない。
(そうだ.......勇者は綺麗事ばかりではやってられない。)
だからこそ、勇者は倒れない。
「知っているさ___________」
誰よりも勇者の責務を重んじなければならない。
「_______________________私は勇者なのだから。」
【勇者】の覚醒能力はダメージの蓄積や窮地に立たされる程、数十倍、数百倍と底力が羽上がる。
「グラム=バルムンク」
体勢を崩した状態からの魔剣解放。
(だが......目線を追えば何処に斬撃が放たれるかは予測できる!)
格闘家は身体を傾け、魔剣の必殺の一撃を避ける。その一瞬、格闘家は目線を勇者から外してしまった。
「_____________グラム=バルムンクッ!!!」
その一瞬の間が命取りとなる。
「連続しての魔剣解放ッ!!」
勇者の二撃目が格闘家の胴体を切り裂く。だが、格闘家の肉体は辛うじて繋がっていた。
「はは!!おめぇ、本当にめちゃくちゃだなぁ!!」
(切り裂かれた胴体が塞がらねぇ........魔剣の能力ちゅうやつか。本当にとんでもねぇやつだなぁ。)
グラム=バルムンクの斬撃には切り裂く効力の他に、回復阻害の呪詛も含まれている。
(身体はもう持たねぇ........か。)
魔剣に斬り裂かれた事により、ボロボロと身体が崩れ始めている。
「............あと少しだけオラに付き合ってもらうぜ!」
格闘家は両手を宙へと上げ、魔力玉を作り上げる。そして魔力玉は格闘家以上の大きさへと膨れ上がり、一瞬にして片手サイズへと圧縮された。
(高密度の魔力をあの大きさへと留めている.......あれが破裂すれば、この都市は木っ端微塵に吹き飛ぶ。)
格闘家の表情は自信に満ちていた。
「オラの持てる最強最大の技______________」
勇者は理解する。この一撃は真正面から受け止めなければクラキ国は甚大な被害を受ける。都市一つを消すには十分な出力を持っている。
「すぅ...........はぁ」
グラム=バルムンクを水平に構えるシグルド。
(_________魔力の塊を切り上げ、私の魔力障壁で衝撃を押し止める。それ以外に被害を最小限に留める方法はない。)
格闘家は両手を後部へと引き、魔力玉を放つ構えに入る。
『_______________真•螺旋空衝•玉』
(全ての力を込めたオラの一撃。防いでみろ。さすればおめぇは本当の勇者だ______)
魔力玉を解き放った格闘家は土屑と化し、空気へと還っていく。
(___________言われなくとも私は勇者だ。)
シグルドは魔剣を振るう。それも野球の球を打つように剣を縦へと向け魔力玉を空中へと打ち上げたのだ。
「グラム=バルムンク」
空中へと打ち上げた魔力玉を視界に入れ、魔剣を解放する。
ドォオオオオンンンンッ!!!!!
空中にて魔力玉が半分へと切り裂かれ、弾ける。破壊を象徴する鮮烈な爆発曇、そしてショックウェーブが曇っていた雲を掻き消す。だが、クラキ国都市に被害はない。シグルドが都市へと被害が及ばぬように魔力障壁を展開したのである。
「月明かりが眩しいな。」
勝利を表すようにクラキ国へ月の光が差しこむ。
(数えきれない程の国民が命を失った。)
シグルドは魔剣を鞘に戻し、王城へと足を進ませる。『血斧』、そして『五人の死骸』との戦闘で町は見るも無惨な姿となってしまった。
「ジークフリート。俺はお前の味方で在りたい........だが、この惨状は前が求めていたものなのか?時間さえ掛ければ対話で大国間との亀裂を無くすことだって出来た筈だ。」
そう、時間さえ掛ければ平和な世を作り出せたかもしれない。
(侵略戦争を完了した先に何が残る。力と恐怖による統治か。そのよう例を生み出せばヴァルハラの未来は戦争と略奪の繰り返しになる。)
アングルボサの呪いではなく、人同士の争いが後をたたなくなるのだ。
「スローライフ計画などとふざけた計画をまさか実現させようとするとは..........母様やジークリト、そして父上やジークリンデが生きていればこのような蛮行には及ばなかっただろう。いいや、世界蛇の出現時に俺が前線にさえ出ていれば........」
天を仰ぎ、その場に立ち尽くす。勇者は最強ではあるが無力であることを痛感する。
「........人の希望、正義の象徴である【勇者】が後悔を口にするな。」
過去ではなく、未来を見ろ。シグルドはそう自分へと言い聞かせる。
「私は必ずジークフリートを止めるさ。そして共に罪を償なっていこう。」




