見逃そう
「____________カーラ殿。」
灰へと消え行くエイリークの前に召喚士カーラは立つ。
「ハーラルの奴に伝えて置きたいことはあるか?」
エイリークは何処か困った様な表情を浮かべると、一言だけ小さく言葉にする。
「_____________最後まで生きて下さい、と。」
その言葉を最後にエイリークは満足した様子で目を閉じる。
「.............おっさん」
そして、ヴェストフォルの英雄は血斧が完全に砕け散ると共に灰へと還っていった。
「_________________カーラ。」
顔を上げ、視界に映るのはヴァルハラ学園元生徒会長。カーラは冷や汗を浮かべる。目の前にいる男の実力は重々承知だ。何せ、自身もまた生徒会に属し【勇者】の実力の一端を目に焼き付ける程に見てきたのだから。
「こんな場所で何をしているんだい?」
圧倒的緊迫感にプレッシャーが勇者から与えられる。
「そ、それは..........」
いざ対峙すれば理解出来る。目の前に立つ人間は人間に在らず。その気になれば一刀の元、自分を殺害出来るだろう。それ程までに勇者と自分の間には実力さがあるのだ。
「_________何をしていると聞いている。」
圧倒的殺気に当てられ、震えが止まらない。震えを止めようと腕を押さえる。
(ひよってんじゃねぇよ.......俺はジークフリートの女だろ)
ギリッと歯を食い縛り、一歩前へと足を進める。
「..............た」
震える声。小さい声。死への恐怖から発声出来ない。だが、此処で女を見せずに何処で見せると言うのだ。
「_______________仲間を弔いに来たって言ってんだよ!!」
殺意を敵意で塗り潰す。
「そうか。ヴェストフォルの英雄、いいや、血斧の仲間という事は君もジークフリートの側に就いたと言うことだね、カーラ。」
「..........あぁ。」
シグルドは何故か殺意を消し、魔剣グラム=バルムンクを鞘へと戻す。
「血斧をけしかけたのはジークフリートの計らいかい?」
エイリークと戦ったシグルドは何処か違和感を感じていた。ヴェストフォルの英雄は王都のど真ん中に突如として現れた。破壊を行うでも殺戮を開始するでもなくただ、その場に現れ呆然としていたのだ。
『動くな!!』『拘束しろ!!』『怪しい動きをしてみろ、直ぐに武力行使に移らせて貰う!!』
クラキ国の騎士団がエイリークを捕縛しようとしたことで戦闘が開始された。そして現在に至る訳なのだが、大国の魔術防壁を抜け転移侵入をするなど七英雄クラス以上のルーン魔導士にしか出来ない芸当だ。
(私の見立てでは神聖国にそれ程の魔術師は存在しない。)
可能なのは【賢者】か【魔帝】かの何れかである。その何れかが【血斧】をクラキ国王都へと送り込んだのだ。
「________________魔帝。彼奴との戦闘で俺達は飛ばされたんだ。」
辻褄が合う。シグルドはフッと小さく笑う。
「魔帝........そうか、君達は既にアルフヘイムとの戦争を開始しているのか。」
(私に敵を押し付け、被害を最小限に抑えるつもりだったのだろう。だが、残念だ。私はアルフヘイムの策にわざわざ乗る気はない。)
そもそもジークフリートの側についてもいいとさえ頭の隅では考えている。ネーデルラント領、敷いては今は亡き父ジークムンドの祖国愛に報いる為だけにクラキ国に従っているに過ぎないのだ。
(________とは言え、クラキ国に攻めいれられれば対応せざるを得ないのも確かだ。警戒すべきは【道化師】のマインドコントロール、そして【剣帝】の剣術。)
対策がなければ戦いの土俵に上がれぬまま、道化師に即殺される。そして剣帝は経験を得る事でいくらでもその技術を進化させる。今、剣帝がどの程度のレベルにあるのかは不明だが、最大限の警戒を持って戦わなければその圧倒的剣術に牽き殺され兼ねない。
「_________カーラ、クラキの兵達が集まる前にこの場を去ってくれ。」
反対に目の前にいる彼女は自分の敵になり得ない存在だ。そして何よりも元生徒会役員。学園を統治する為に奮闘してくれた頼もしい部下だった。恩情を掛けるに値する。
(けれど君が他の者に殺されようが、同情はしない。私から元生徒会の者へ手を掛ける事はしないと約束しよう。だが、彼女だけは別だ_____________)
__________エイル•ワルキューレ。君は恐らくジークフリートといるのだろう。ならば今この立場を利用し、盟約を果たすことが出来る。
「そして帰ったら伝えてくれ。」
次に合間見える時こそが決着の時であることを。




