惚れた男との約束
「_____________起きろ、女。」
バシャッと顔に水魔方を掛けられ、目を覚ますカーラ。
「............てめぇは」
(_____________魔帝。俺を転移陣で飛ばしやがった糞野郎ッ)
目を覚ますと、魔帝が目の前に立つ。そしてその背後には先程の色物集団が機能を停止したように虚ろな目でただ虚空を見つめていた。
「まぁ、言わずもがな__________お前さんの敵だな。」ザシュ
短剣をカーラの太ももへと突き刺さす。
「ぐうううっ!!!」キッ
カーラは叫び声をこらえ、魔帝を睨み付けた。
「苦痛を感じたくないだろう。質問に答えろ。」
拷問をするつもりであることは目に見えて分かる。カーラはため息を吐き、小さく笑った。
「はっ、誰がてめぇなんかの質問に答えるかよ。殺したきゃ勝手に殺せ。」
カーラはそのたわわな巨乳、もとい胸を堂々と張り、殺せと告げる。
「___________俺がなンも分かってねぇ三下ルーン魔術士にでも見えるかい?言葉通りにお前さんを殺した暁にゃあ、自身の身体を媒介に上位のアングルボサの呪いが数体溢れちまうだろうが。召喚士は殺しちゃいけねぇーってのが昔からの鉄則だ。だから今は殺さねぇ。」
短剣を太ももから引き抜き、血を払う。
「ぐっ、ならば......どうする.......俺を凌辱でもするか?」
「それもいいが、生憎好みじゃねぇンだ。」
魔帝は扉を開ける。目映い日の光が部屋へと差し込み、カーラを照らしつける。
「ッ___________________クラキ国」
見える景色はクラキ国王都であった。だが、様子が少し可笑しい。外から聞こえるのは激しい戦闘音。既に何者かがクラキ国で戦闘を行っている事が窺える。
「ンぁ?気になるか?ありゃあ勇者や聖者が「血斧」と戦闘をしているだけだ。直ぐに勇者が壊してくれるさ。」
殺す、ではなく壊すと比喩をするように説明する魔帝に違和感を感じる。
「血斧........てめぇ、エイリークのおっさんを転移陣で王都に放り込みやがったなぁ!」ギリ
カーラは椅子に縛り付けられ、身動きが取れない状態にある。
「あぁ、だったらなンだ?助けにでもいくかぁ、あの化物を?やめとけやめとけ。あの化物を助ける価値なんてねぇーよ。あれは七英雄が滅するべき対象の一つだ。アングルボサの呪い然り、ラグナロクの再来然り、魔具の暴走も討伐対象に数えられる。」
「魔具の暴走.......何を言って.....」
「ヴェストフォルの英雄は既に死んでる。肉体的にじゃねぇ。精神面での話だ。既に呑まれちまったのさ、血斧に。あの強さは「勇者」でもなければ対応出来ねぇ。だから丸投げしたって訳だ。」
悪びれる様子も見せず、壁際に背を預け外の様子を伺う。
「夜になったらお前さんを殺す。それは確定事項だ。それまでに拷問でもして神聖国の情報を聞き出そうと思ったンだが、その必要もねぇナ。この様子だと他の連中の程度も知れてる。」
魔帝は欠伸をしながら扉を締め、出ていった。
(...........俺をクラキ国で殺してアングルボサの呪いを溢れさせる心胆か。)
魔帝はアルフヘイムでの被害を抑える為に敢えてライバル国でもあるクラキ国に神聖国を押し付けようとしている。そして疲弊したクラキ国を神聖国共々滅ぼそうとも画策しているのだろう。
「___________甘い考えだな。」
神聖国のブレインはロキだ。魔帝如きの知恵ではどんな策も愚策となる。
(十解会議には参加していなかったけど........あいつの事だ、既に何かしらの行動に出ているのは間違いない。)
カーラは目を瞑る。
(ロキの吉報を待つ事しか現状の俺には出来ない。)
希望を持てと己を鼓舞する。
「俺はこんなところで死なねぇ........死んじゃいけねぇんだよぉ.......」
ジークフリートに全てが終わったら田舎で静かに暮らそうと唯一誘われた。
「一緒にいるんだ.........ずっと........」
約束がある。
「..................ジークフリート」
_______________惚れた男との約束事が。




