血斧使い
「なンだ__________十解も大したことねぇンだな。この調子じゃあ死骸共を動かす必要もねぇか?」
ニザヴェリル国境近郊にて激しい戦闘の跡が広がっていた。周囲にはアルフヘイム兵の死体やアングルボサの呪いの死体が無数にも転がる。
「甘くみるな。戦いはまだ終わっていない。」
エイリークは満身創痍の状態で血斧を握る。対峙するは七英雄が一人、魔帝。
「あん?よく見るとお前さん、ヴェストフォルの英雄だな。」
数十、数百という魔方陣が魔帝の背後に出現する。魔方陣は敵を殲滅するために光弾を打ち出す。その光弾一つ一つの威力は鎧を来た人間を肉片残らず消し飛ばす程の破壊力だ。
「初めまして、とでも言えばいいか?」
魔帝へと魔斧を翳し、頬を上げる。
「合点がいく。弱い癖にしぶといもんだから腕が落ちたかと思っちまった。不死身のエイリーク。。血斧使いは「斧使い」の下位互換だというのに不相応な二つ名だ。」
魔帝は煽る様にエイリークを高台から見下す。
「お前の覚醒能力は知ってる。その不死身のギミックもな。」
エイリークは表情を変えず、ただ真剣に目の前の敵を屠る事だけを考える。
「そうか____________血肉を喰らえ、血斧」
周囲に転がる千をも越える死体が異空間へと取り込まれる様に消えていく。そして魔帝が瞬きをし、瞼を開けた時、エイリークの傷は全て癒えていた。
(だが、注目すべき点はそこじゃあねぇ。)
魔帝は血斧へと集中を向け、観察する。血斧は取り込んだ血肉の量に比例し、肥大化する。
(過去の血斧使いは鈍重な動きしか出来ねぇ木偶だった。)
七英雄の一人である自分の相手ではないと判断する。
(...........だが、不可解だ。)
エイリークが握る血斧に何の変化もない。肥大化もせず、同じ質量を保っている。
「___________逝くぞ、魔帝」
一足の跳躍で魔帝の元へと飛ぶ血斧使い。
(速いっ、だが、避けられない速度じゃ_________」
エイリークの振るった血斧は魔帝へと直撃し、その場から弾き飛ばされる。
「があああああああああッツ!!!!!」
岩盤へと身体を打ち付け、身体中の骨肉が砕ける。
『自動自己回復術式展開』
魔帝は数十にも及ぶルーン防御兵装を展開していた。にも関わらず一撃にて全てが打ち砕かれた。保険であった自動回復術式が発動する。
(あの矮小な斧に力を凝縮させたのか.......)
身体の至る部位は砕け、普通の者であれば指一本さえ動かせない程の重傷を負わされた。だが、魔帝は人に在らず。頭部や心臓を完全に破壊しない限り、簡単には死なないのである。
「________降参してくれ。貴殿を殺したくはない。」
魔帝の眼前に現れる血斧使い。だが半不老不死とて傷が癒えなければ身体は動かせない。
「ふは、ふははは!!俺も嘗められたもンだぜ.........」
想定以上にヴェストフォルの英雄は実力を隠していたらしい。噂が当てにならないとはこの事を言うのだ。
(ニザヴェリルに進軍したアルフヘイム兵団を召喚士の女と二人で蹂躙して見せた。)
そして隙を突き、召喚士をルーン魔術で遥か彼方へと転移させ、血斧使いを孤立させたまではいい。
(................魔斧である血斧は本来、担い手が殺した者の血肉しか喰らわない。)
血斧使いは一対一に置ける戦闘では余りその力を発揮出来ない。故に大国ヴェストフォルは脅威ではないと評価していた。だが大規模な戦闘では殺した数に比例して強くなっていく。
(奴は千をも越える死体を血斧に喰らわせやがった。)
何よりも召喚士が殺害したであろう死体すらも魔斧は喰らったのである。従来の血斧使いであればあり得ない事象だ。ヴェストフォルの英雄。何かが可笑しい。
「貴様..........何者だ?」
ヴェストフォルの英雄は高潔で寡黙な男と聞く。だが、目の前の男は本当にそうなのか。夕陽が差すために表情がよく見えないが、嗤っているように見えるのは気のせいか?
「.........なんだぁ、気づかれたぁカァ?」 ズブッ
「あがっ!!?」
血斧が魔帝の腹部へと深く突き刺さる。そして魔帝が展開する回復速度と同じ速度で血斧は血肉を喰らい始めた。
「まさかっ.........ぐっ」
永続的な痛みが魔帝を襲う。だがそれを分かった上で楽しむように血斧使いは頬をつり上げるのだ。
「ひゃっはははっはは!!気持ちいカァ?気持ちィダロォ!!!!」
悪魔の様に笑い、血斧をぐりぐりとかき混ぜるように動かすエイリーク。そして________
「血斧に意識を喰らわれ__________」
_____________四肢だけを残し、魔帝の肉体は喰らわれる。
「うるせぇよ。他の奴(十解)に聞かれたら面倒だろぉが。」




