三三三
「_____________凄いな、君。」
スキールニル王は寝室の椅子に優雅に座り、紅茶を嗜んでいた。そして、虚空へと向けそう台詞を吐く。
(...........僕が見えているのか。)
ロキはスキールニルの眼前へと姿を現す。
「刃を下ろしてくれ________」
スキールニル王は首に突き付けられた刃をとんとんと優しく叩き、下ろす様に諭す。
(僕の幻影が通じていない........?)
精神干渉は作用している。スキールニル王には眼前に自分が存在している様に見せていた筈だ。
(魔具か、それとも覚醒能力の一種か........)
スキールニル王は"視"ている。
(.......今も尚、僕への視線は外れない。危険過ぎる。)
ロキは即座に窓際へと移動し、逃走経路を確保する。
「だんまり、か。構わない。」
紅茶を下ろし、立ち上がるスキールニル王。幼い容姿とは裏腹に威厳と自信に満ち溢れた佇まい。そしてどこかジークフリートに通じる何かを感じる。
「ジークフリートを此処まで守ってくれてありがとう。」
スキールニル王はロキへと優しい笑みを浮かべ、外を指差す。
「俺は神聖国と争う気はないんだ。国が欲しいなら持って行けばいい。」
ロキは警戒しつつも、窓に掛けていた手を下ろし、スキールニル王へと口を開く。
「争う気はないとお前は言ったけれど、アルフヘイムの軍勢がニザヴェリルとヴァナヘイムへ強襲を掛けている事実はどう説明するんだい。」
「それは.......すまないとしか言いようがない。見ての通り、俺は今幽閉されている。」
スキールニル王の言う通り、王は部屋へと監禁されていた。幾重ものルーン魔術が施され、抜け出すことは一介の勇士程度では不可能だろう。
「その気になれば抜け出せる癖に。」
ロキは嫌悪感を出しながらスキールニル王へと言葉をもらす。
「そう邪険にしてくれるな。俺は皆に国を明け渡すと言ったんだ。だけど、納得はされなかった。いいや、正確には臣下の一人が大きく反対したんだ。」
スキールニルは窓から外を覗き、アルフヘイムの様子を眺める。
「七英雄の一人、【魔帝】。噂くらい聞いた事はあるだろう。」
ロキの表情から一切の余裕が消え失せる。魔帝は生きた伝説。過去に魔王を名乗り、世界征服直前のところで七英雄に封印をされたと過去の文献には記されている。
(そんな男がただの人間に従う筈がない。)
魔帝は今、アルフヘイム、正確にはスキールニル個人へ遣えている事が伺える。恐らくスキールニル王が封印を解いた張本人なのだろう。
「彼は俺への忠義が凄まじくてね........アルフヘイムを真に奪いたいなら魔帝を殺さないと止まらないよ。」
他人事の様に話をするスキールニルに違和感を感じる。
「........魔帝は今、何処にいる。」
ニザヴェリル、またはヴァナヘイムにいる十解に知らせなければならない。
「多分、ニザヴェリルじゃないかな。ドワーフの技術は最初に押さえておきたいと思うし。俺があいつならそう動く。」
ロキはスキールニルの言葉を聞き、即座に窓を破壊した。
「おっと___________まだ、話は終わっていないだろう。」
ロキは部屋から抜け出そうと動きだす。だが、スキールニルの手により拘束され、地面へと押さえつけられてしまう。
「くっ、貴様ぁ!!」
ロキは暴れるが、スキールニルの拘束から抜け出せない。
「柔道の寝技ってやつ、ジークフリートから習わなかった?」
特別製の鎖をロキの手足へと繋ぎ、身動きをとれなくする。
「安心して欲しい。君は傷付けるつもりはない。」
ロキはピクリと眉を動かし、スキールニルへと問う。
「.............君"は"傷付けるつもりはない?」
(まさか.........)
ロキはスキールニルの意図に気付き、何とか鎖の破壊を試みようと身体を動かす。だが、抜け出そうと身体を動かせば動かす程、力が抜けていく事に気づく。
(この鎖......抵抗をすれば魔力を吸い上げるのかッ!)
過去一度、此処まで危機に陥ったことはない。それも手のひらで遊ばれている。それ程までに実力さが両者の間にはあるのだ。
「まぁ、お察しの通り________十解に空席をつくりたいんだよ、俺は。」
スキールニルはロキを吊し上げ、ブランコで遊ぶように揺らす。
「__________ならば、何故お前自身が動かない。それ程の力を有しているならば、容易に十解の一人や二人、葬れるだろう。」
「そんなことしたらジークフリートに嫌われるだろ。俺はあいつに会うまでは綺麗なままでいたいの。」
スキールニルは椅子へと腰掛け、吊し上げたロキを見上げる。
「それに君に言われる筋合いはないな。ジークフリートが求めているのは【スローライフ】の実現なんだろう?ははは、君がその気になれば一日で完遂出来る。それを君は「「黙れぇ!!!!!」」
ロキは声を張り上げ、スキールニルへと殺意を向ける。
「お前は........お前を慕っている臣民や魔帝が死んでも構わないのか?」
ロキはスキールニルへと問う。
「___________廉太郎がいるのに、何を気にする必要があるんだ?」




