君の心に居たいから
聖女ブリュンヒルデは大胆にもニザヴェリルに潜入し、情報を聞き出す事から始めた。彼女は【聖女】の皮を被った生粋の【ストーカー】であることはこれまでの物語に置いてお分かり頂けるだろう。故に情報収集能力に優れているのだ。
(...........十解(フィンブルの冬)、ね。)
ニザヴェリルにて負傷をしているものを治療することにより情報は容易く仕入れる事が出来る。世界蛇の影響で苦しんでいる人を救うための巡礼の旅だと言えば誰しもが気を許すのだ。今最もこの世界で必要とされているのは民を導く指導者でも戦に長けた戦士でもない。ならば誰なのだと問われれば皆は口を揃えてこう言うだろう。
「いやいやこちらこそありがてぇ___________回復術士様。」
回復術に特化した職業適正を持つ者達こそが今は重要視される。特に神聖国の侵攻を受けたニザヴェリルの民達には傷を無償で癒す人材を受け入れないと言う選択肢はなかった。
(傷を治す過程で得た情報は二つ。)
第一に神聖国は【十解】と呼ばれる10人もの英雄級の戦士達により構成されていること。そしてその上に神聖国王であるジークフリートが君臨している事実。第二にヴァナヘイム侵攻が四日後に執行されること。
(...............ずるいよ。)
最初に感じた感想。何故、自分は十解なるものに受け入れられなかった。何故、他の有象無象らが十解入りを果たしているのに勧誘を受けなかったのか。理解が出来ない。特にクリームヒルトなど同じ穴のむじななのに。
「ジークくん.......なんで...........」
ポロポロと涙を流す。アングルボサの呪いに襲われて、ジークフリートの手により命を救われた。惚れない訳がない。命の恩人であり、聖女になろうと決意をさせてくれた駆け替えのない人物。
(ジークくんの為ならブリュンヒルデは何でもできる.......できるのになんでブリュンを使ってくれないの?)
ブリュンヒルデに陰りが出来る。ジークフリートに並べるように強くなった。そう努力してきた。寧ろ、今の戦闘力で言えば彼を大きく上回る程に強くなった筈だ。自分は有用であり、彼の駒になれる自負がある。
「使ってよ.......ボロ雑巾みたいに......」じゅるり
おっとと.....欲望が出てしまったと涎を拭うブリュンヒルデ。とは言え、いくら直談判したとしてもジークフリートの性格上、ブリュンヒルデを十解入りさせる事はないだろう。何故ならば彼女こそが【スローライフ計画】を実行させるに至った要因なのだから。
「うん、ならやれることは一つしかないよね。」
ニザヴェリルの小さな診療所でブリュンヒルデは決意する。
「ブリュンの事を見てくれないなら、見させればいいんだ。」
簡単な話。ブリュンヒルデを放って置けない存在にすればいい。
(でもどうすればブリュンヒルデを見てくれるの?)
いつも通りのスキンシップを取れば見てくれるのか?答えは否。ならば裸となり無理やりと迫れば喜んでくれるだろうか?答えは否。寧ろ嫌われる。最悪の場合、道化師に意識を削られ、田舎道に裸のままポイ捨てされる未来すら見える。
(じゃあどうしろっていうのよ........)
戦闘になった場合、ブリュンヒルデはジークフリートを絶対に殺せない。寧ろその隙を狙われてこちらが殺される。
(........ジークくんに殺されるのはいいけど、その殺され方はヤだな。)
ブリュンヒルデは熟考した。どうすればブリュンヒルデだけを見てくれるのか。どうすれば彼の瞳を独占出来るのか。
「は.....はは」
乾いた笑い声が出る。ブリュンヒルデの考えが纏まった。
(ジークくんと初めて会った時を再現すればいいんだ。)
再現と行っても全てが同じと言う訳ではない。
(ジークくんを窮地に経たせ、ブリュンがジークくんを救うの。)
だけど、その程度じゃジークフリートは冷たいから何とも思わないだろう。けれど、命をとして命を救ったら?
「え、えへ、えへへ............」
ジークフリートの腕の中で死ねる事を妄想し悶える。
「完璧だ......ジークくんの心に........えへへ........ブリュンヒルデは存在し続ける.........」




