ロキはロキである
「あぁ死んでしまったのか............」
世界蛇の頭部にて黄昏るヨルムンガンド。息子達が殺され、悲しみに満ちた表情を見せていた。
「どうやらこの時代にも一角の戦士は存在するようですね。」
四聖蛇公は一流の実力を誇る。だが既に3/4が冥界へと誘われてしまった。
(この短期間で三人も命を失ったんだ。)
復活してから一月も経っていないと言うのに息子達が葬られた。
「強者は勇者だけではない、という事だ。へヴリング、どうか死なないでくれ。俺はこれ以上、我が子を失いたくない。」
「承知しております。我が身は必ずやヨルムンガンド様と共に在りますゆえ、安心してお待ちください。」
へヴリングはそうヨルムンガンドへと伝えると姿を消した。
「__________世界は滅びに近いと言うのに何故人間は抗う?」
運命を受け止め、大海に呑まれればいい。ラグナロクの際もそうだ。今は亡き悪神ロキの策略により執行された大戦。格の高い神々が次々と倒れていくと言うのに最後の刻まで神も人間も諦めなかった。
「勝てないなら勝てないでいいじゃないか。滅びや従属を何故嫌う。これは侵略的戦争ではなく、自然災害のようなもの。人間が抗っていいものではない。」
ヨルムンガンドが振り返った先には道化師の姿があった。その道化師は昔と変わらず、歪な笑みを浮かべ観察するように自分を見つめる。
「お前がどうやってラグナロクを退けたのかは分からないし、分かりたくもない。俺の視界から消えると言うのなら衝突もしない。何処かに行ってくれないか、ウートガルザ•ロキ。」
嫌な記憶だけが甦る。目の前の幻想を司る化物は異常だ。
「つれない事を言わないでおくれ、ヨルムンガンド。雷神トールの件はちょっとした戯れだっただろう。それに、最後には君がきっちりと彼を殺した。」
過去の話になるが、ラグナロク以前に巨人の王でもあったウートガルザ•ロキは雷神トールを唆し、ヨルムンガンドと一悶着あったのだ。
「ッ................その声、話し方、全てが嫌になる。」
故に世界蛇は目の前に立つ道化師の事が苦手であり、嫌悪していた。
「君に嫌われる事をした覚えがないのだけど_________ジークフリートの為に死んでくれないかい?」
圧倒的な殺意と絶望の波動が肌を伝う。冷や汗を流しつつ、身構えてしまう。世界蛇と大層な名を持つが、本体はただの木偶の坊に過ぎない。目の前の道化師ならば何らかの方法で母体の装甲を突破しダメージを与えられてしまう危険性を含んでいる。
「ひっひっひ、大丈夫、そう怯えなくても僕が君を相手取る訳じゃあない。もし仮にジークフリートを除く人間を殺してくれると言うのなら、見逃して上げてもいい。」
「随時と上からものを言う。」
「上だから言ってるんだよ、"なり損ない。"」
ウートガルザ•ロキの発する言葉一つ一つに重圧を感じられる。ヨルムンガンドは舌打ちをし、ロキの提案に首を縦に降った。
「そうか、それは良かった。君が負けない事を心から祈っているよ。」
そう言い残すとロキは世界蛇から飛び降り、姿を消すのだった。




