ジークフリートの怒り
「あーあ、せっかくへヴリングのじじいが強いから戦うなっーから期待してみたが、期待外れだぜ。」
ネーデルラント城にいた全ての人間を殺し終えたヒミングレーヴァは屍達の上に座り、黄昏る。
(ラグナロクから随分と経っちまった故の弊害か........近代の英雄や勇者と呼ばれる奴らもたかが知れるな。)
夕焼け色に染まる空、そしてそれに追随するように城内は血に満ちていた。
「.................く、そ、」
咳き込む声が聞こえる。ヒミングレーヴァは声のする方へと顔を傾けると、最初に挑んできた槍使いの女が足を引き摺らせ、敵意と殺意の籠った目で睨み付けていた。
「生きていたのか。しぶとい女だ。」
立ち上がり、ジークリンデの元まで歩く。そして、しゃがみこみ、死にかけの彼女と視線を合わせ、問う。
「_________勇者シグルドは何処だ?」
満身創痍かつ、意識が飛びそうになるジークリンデは頬を上げ、爽やかに笑みを浮かべる。
「教えるかよ..........バーカ............」
ヒミングレーヴァは「そうか」と冷めた目で止めを指そうと腕を上げる。
「...........おにぃ................ごめん.........」
ジークリンデは涙を流し、迫り来る手突を待ち受ける。例え、この攻撃が奇跡的に当たらずとも死の運命は覆らないのだから。ヒミングレーヴァにより切断された両足の出血が止まらないのだ。ルーン魔術で回復をかけようとも、焼こうとも傷口は塞がらなかった。だからこそ、ジークリンデは自分の死を受け入れる。
「________________あぁあ?」
だが、ヒミングレーヴァが放った手突はジークリンデに止めを刺すことはなかった。
「................おにぃ」
閉じていた目を開くと、兄であるジークフリートが手突を手首を掴むことで防いでいたのだ。
「もう大丈夫だ、ジークリンデ__________」
優しい微笑み。いつも自分へと語り掛けてくれる甘い声。小さい頃を思い出す。
「_______________________俺がついてる。」
庭園でかくれんぼをしていた。おにぃに見つからないように、木に登ったんだ。だけど、ドジをして木の上から滑り落ちてしまった。足をひねり、沢山の切り傷が出来た。そんな泣きじゃくる自分へと駆けより、兄は言ってくれた。
『俺がついてる________』
その光景が重なる。兄は常にジークリンデの危機に駆けつけるくれる。例え助からない命であろうと、最後に兄の姿を目にすることが出来て幸運だ。思い残すことはもうない。主神オーディンの采配に感謝を。世界が平和であらんことを願う。
「おにぃ.........ありが」
ジークリンデの首が空を舞う。掴まれていない腕を使い、手刀を繰り出したのだ。ヒミングレーヴァはにぃと頬を上げ、嗤う。
「......................ジークリンデ」
ジークフリートは掴んでいた手首を離し、転がったジークリンデの頭部の元へと移動する。
「なんだ、しけた反応しやがって。てめぇの家族なんだろ?怒り狂えよ、英雄願望ッ!!」
ぎゃははと笑うヒミングレーヴァへと向き直る。
「安心しろ、お前は楽には殺さない。再生能力があるのは好都合だ。殺さない程度にお前をいたぶれる。」
凄まじい殺気がジークフリートから発せられる。言葉は怒りのあまり震えていた。そして異空間からエギルの兜を取り出し、装着すると二双の槍をヒミングレーヴァへと向け構える。
「____________絶望がお望みなんだろう?ならば俺がお望み通り絶望と恐怖をお前にくれてやる。精々足掻くことだ。」
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