エイル•ワルキューレの渇望
三年校舎、屋上にて_______
「脇が甘い!」
蹴りを入れられ、地面へと身体を倒す。そしてすかさず立ち上がり、槍を横薙ぎに振り払う。
「立ち上がり、立ち向かう勇気は良し。」
しかし槍による斬撃は肘と膝で挟まれ、防がれてしまう。
「嘘......だろ?」
驚異的な反射神経がなければ出来ない芸当にジークフリートは唖然とする。
「嘘ではありません。男児たるもの、如何様な状況に置いても冷静であるべし、です。」
そして蹴りを入れられ、後方へと飛ばされる。身体は地面で転がり、仰向けで倒れる。
(___________赤いなぁ。)
空が視界に映る。
「_________今日はここまでにしましょう。」
夕暮れ時の空。ユグドラシルの大樹。そしてエイルが近付いて来て、にこりとした表情で自分を起き上がらせる。
「........やっぱり強いんだな。」
手合わせをお願いして見たが、敵わない。彼女の戦闘技術は卓越している。手数の多さには自信があったが、出鼻を挫かれてしまった。
「強くあらなければ、負けてしまいますから。」
(約束、か........)
エイル•ワルキューレはシグルド•ネーデルラントの許嫁である。学園卒業まで一度の敗北もなく、卒業後にシグルド兄さんにタイマンで勝てばジークフリート(自分)との婚約権を得ると言う約束を交わしている。
(負けないと言う意志が尋常じゃない。)
勝つ。絶対に勝たなければならないといった強迫観念に縛られている。生徒会の暴動の際に見た彼女の鬼気迫る表情が今でも忘れられない。
「明日は特別な日となります。今日は休息をとり、来るべく聖戦に備えましょう。貴方様は我らが王となるお方だ。」
夕暮れの日へと手を翳し、握り潰す。そして目を閉じ、再び微笑をこちらへと向ける。
「『十解(フィンブルの冬)』が第六解、エイル•ワルキューレ。汝の前に立ちはだかりし敵を薙ぎ払い、幸なる旅路を約束しましょう。」
膝をつき、手の甲へとキスをする。ジークフリートはエイルを見づ、ユグドラシルの大樹を見つめる。
(ラグナロクの再来が始まる。ふ、鴉羽...........スローライフ計画は杜撰とした計画となったよ。田舎でひっそり嫁さん捕まえて静かに暮らす予定が、王様になれだとよ。笑えるだろう?俺は明日、世界を壊滅に導くんだぜ。冷酷な手段を用いて大量虐殺するんだ。そんでもって、英雄面で世界が破滅寸前の場面で世界を救うんだ。)
役者になった方がいいのではないのかと心の中で皮肉る。
「__________エイル嬢、一つだけ約束してくれ。」
「はい、我が王よ。如何様な用件でも命に変えて成し遂げましょう。」
彼女の手を掴み上げ、強く抱き締める。そして彼女の顔を覗き込み、告げる。
「絶対に死ぬな。俺を庇うな。自分の命を大切にしてくれ。あんたが死ぬと俺は悲しい。」
エイルは頬を赤くし、視線をずらし、小さい声で「.....はぃ」と答える。
(よし、これでエイル•ワルキューレは俺を死んでも守ろうとするだろう。)
気持ちを利用する。彼女だけじゃない。十解の全てを。ロキはああ見えて嫉妬深い奴だ。俺を縛るために王位につかせようとしていることは明白。ならば逆手に利用させて貰うよ。
(_____________最後に計画を完遂させるのは俺だ。)




