虚血(ミスト)
世界に蔓延る毒虫。それを駆除できればと日々考える。僕は傲慢な貴族達を毒虫と比喩する。
「こんな糞溜めのような世界は滅んで仕舞えばいいのに。」
常にこんな事を考えている僕の心は汚いのだろう。ラグナロクの再来はいつ訪れるのだろう。世界蛇はいつになったら大陸を壊滅に追い込んでくれるのだろうと考えながら教室の窓からぼんやりと空を見上げる。
(ジークフリート......なんで死んじゃったんだよ。)
グンテル公爵令嬢に耐えられず、ネーデルラント領を出家した。けれど、その逃避行の末にアングルボサの呪いに食い殺されたと聞く。その話を聞いた時、僕はクリームヒルトをぶち殺してやりたいと心の底から感じた。
「ジークフリートを追い詰めたのはお前だ!!」
たかが男爵家の二女が公爵家令嬢へと暴言を吐く。ある社交界での出来事だ。僕は我慢が出来ず、クリームヒルトへと叫んだんだ。
「................知っている。」
彼奴は悲しみに満ちた表情でそう微笑んだ。
「知っているならなんでっ!!」
「私が未熟者だからだ。」
会場がざわつく。父と兄は僕が叫んだことに気づき、凄い形相で迫ってくる。
「なら責任をとれよぉ!!お前公爵家なんだろ!!ジークフリートを返してよぉ!!」
「............責任は取る。必ず彼奴を探し出して見せる。この命をとしてでもな。」
父と兄に引き摺られながらも僕は叫んだ。周囲の令嬢達も口には出さないが、同じ気持ちであることは知っていたから。恐らく殆どの令嬢達の初恋はジークフリートだろう。
「頭を冷やせ、愚か者が。」
父は僕を牢へと入れた。学園に入るまでの二年間、牢屋で時間を過ごすことになる。自由はなく、窮屈な檻の中。考える時間はたっぷりあった。
(クリームヒルトをどうやって殺そうか...........って考えたかったんだけどな)
彼女が見せたあの表情が脳裏に焼き付いて離れない。
「..........あいつはジークフリートが生きていると信じてる。」
死んだと侯爵家から正式に公表されたにも関わらず、クリームヒルトは資産を投じてジークフリートを探していると噂になっていた。
(殺したい気持ちは変わらないけれど.........好きって気持ちは彼奴と変わらないんだ。)
もやもやとした気持ちになる。
『__________最近は随分と会ってなかったな。』
学園の入学式にて、一年上のカーラに話を掛けられる。
「父さんに牢にぶちこまれてたんだよ。」
幼馴染みであり、恋敵でもあるカーラへとそう告げる。
「もしかして、二年前のあれからか?」
「そうだよ。囚人のような気分から解放されてちょーはっぴー。ハッピー過ぎて悪役令嬢を刺し殺してしまいそうなんだ。」
「真顔で怖いこと言うな、お前。」
男爵家と言う貴族最下級層の二女に生まれ、爵位も継げない。そして問題を起こす令嬢など貰い手はいないのだ。学園で力を付け、卒業後に手柄を上げなければ僕に未来はない。
「まぁ、でもお前とまた会えて嬉しいよ。」
「うん」
カーラとハグをする。彼女は恋敵ではあるが、僕はエイルも含めた三人ならジークフリートを共有してもいいと考えている。恐らく彼女達もそう考えてる筈だ。
「クリームヒルトは見つけたの?」
「全財産をつぎ込んで収穫はなしだってよ。」
「s」級冒険者を数人雇ったとも言っていたが痕跡も何も見つからなかったらしい。
「ねぇカーラ........ジークフリートは本当に死んだのかな?」
カーラから見て、僕の顔は情けない表情をしているのだろう。そんな僕を見て、カーラは苦笑をすると空を見上げ、小さく言葉を漏らした。
「_______________生きていてくれるといいよな。」




