静逸なエイル•ワルキューレ
『鑑定士などと言う三流職業を引きおって......』
10歳の頃、私は天啓を授かりました。しかし、私が授かった職業「鑑定士」は世間でいうハズレ職業だったのです。
『恥知らずめ。お前の役目は伯爵家を継ぐことではなくなった。母胎としての役目を果たし、ワルキューレ家へと貢献しろ。』
私はワルキューレ伯爵家が令嬢として生をうけました。家督を継ぎ、ワルキューレ家の次期当主となる予定だったのですが、その予定は撤回される。私が得た職種は父と母を失望させてしまった。この日を境に父と母は私に対して愛情を向けなくなってしまう。
「____________お嬢様、馬車の用意が完了致しました。」
母胎としての役目を果たせ。それが意味するのは何処ぞの大貴族に嫁ぎ、パイプを作れと単純明快なものだ。自由も剥奪され、無理矢理と顔も知らない者に嫁ぎ、純潔を捧げなければならない。
『お前が母に似て美人に育ってくれた事が唯一の救いだな。』
父は既に私を娘として扱っていなかった。ただ、領地の、ワルキューレ家の損得だけで物事を考えている。母も父に追従するだけで、手はさし伸べてはくれない。
「ネーデルラント侯爵家とのコネは今のうちに作っておいた方がいい。長男は勇者に選ばれた七英雄の一角だ。私の見立てでは将来的にグンテル公爵家以上の大家となり、大きな派閥となる。何がなんでも気にいられろ、いいな。」
父が狙いを定めたのはネーデルラント侯爵家が長子シグルドだ。父は馬車の中でその者を恋に落とせと命じる。
(恋愛などしたことがないことぐらい、ご存知でしょうに........)
難題過ぎる要求に頭痛がする。10歳の私に色香を使えと言うその豪胆さが政治面でも活かされればいいものをと心の中で毒をはく。
『ようこそ参られた、ワルキューレ伯爵。長旅で疲れた事だろう。紅茶でも入れよう。』
ネーデルラント侯爵に導かれ、父と共に客間室へと案内される。そこにいたのはネーデルラントの刺繍を模した貴族服に身を包んだ若い美少年だった。
「君が僕の許嫁になる、エイル嬢だね。私はシグルド。次期、ネーデルラント侯爵になる男だよ。そして今代の勇者に選ばれた七英雄の一人だ。」
自信に満ち溢れた少年は私の手に口付けをすると、客席まで手を引きエスコートをする。
「随分と慣れているのですね。」
「貴族故の常識ですよ、エイル嬢。」
父やネーデルラント侯爵に聞かれないようにボソり声を掛けると、余裕を持ってそう言い返された。自分が上手であるというその隠しきれない表情が煩わしいと感じた。
「_______申し訳ない、父上。エイルお嬢を庭園に案内しても宜しいでしょうか。父上もワルキューレ伯爵と積もる話もあるでしょう。」
暫くの間、他愛いもない話で雑談をしていると、シグルドがそう提案する。ネーデルラント侯爵と父は目を合わせると、一度頷き、私たちへと許可を出した。
「エイル、ご無礼のないようにするのだぞ。」
「承知致しました、お父様。」
心を無にして、ただ父の言う通りにすればいい。幸い、ネーデルラントの長子は顔は悪くない。寧ろ、淑女達が尻尾を振るだろう程の美形だ。ただ、私の好みではないが。
「それでは案内を宜しくお願いしましょう、シグルド様。」
シグルドは微笑を見せると私を紳士的に庭園までエスコートする。
「美しい花々ね。とても綺麗です。」
美しい庭園。白い薔薇が一面を覆い、感嘆とする。
「エイル様の方がとてもお綺麗ですよ。」
常套句。世辞を言うシグルド。私は一度目を瞑り、空を見上げる。
(私は証明しなければ........)
このままでは私は私でいられなくなる。縛られた人生を歩かされる。そんな絶望が胸に突き刺さる。変えなければならない。強くならなければならない。
(..........父が私に逆らえない程の力を)
そんな邪な野望を考えていると、庭園で花々に水を上げている人影が見える。
「あぁ、あれは私の愛する弟だよ。変わった子でね。時折、使用人の真似事をするんだ。可愛いだろう。」
心底嬉しそうに自分の弟について語るシグルド。先程までの嘘にまみれた表情や仕草よりは人間味があっていい。
「あっていくかい?」
「紹介してくださるのなら。」
正直に言うとどうでも良かった。けれど、話の種になればと私は承諾してしまう。
「ジークフリート!」
大きな帽子をかぶり、水撒きをしている少年のもとへと向かう。そして弟へと声を掛けるシグルド。
「____________兄さん.....と、お美しいお嬢様。」
振り向いた少年は絶世の美人だった。これ程まで整いすぎた顔形を生まれてこのかた一度も見たことがない。私はこの少年から目が離せなかった。
「私の弟は可愛いだろう。自慢の弟なんだ。」
「ちょ、兄さん!」
弟のジークフリート様に抱きつくシグルド。
「..........羨ましい」
しまったっと口を抑える。自然に声が外界へと出てしまった。
「弟は上げないよ、エイル嬢」
「兄さんのものでもないけどね」
キッと私を睨み付けるシグルド。そんな兄の姿を呆れ顔で見るジークフリート様。
「........ぷっ、あは、はははははははははっは」
緊張していた糸が切れた様に笑みが出る。そして私は心の中で決めた。
「___________シグルド様、ジークフリート様との婚約をお許しお願い出来ませんでしょうか?」
婚約を結ぼうと言う相手がその弟を婚約者にしたいと言う。頭が可笑しい言われようが、構わない。此処が私の分岐点だ。
「ふっ、ふふ......漸く感情がこもったね。」
シグルドはジークフリートを離し、私の対面へと移動をする。
「ジークフリートは既にロズブローク伯爵令嬢と婚約を結んでいる。残念だけど、弟には先約がいるんだ...........だけど、チャンスを与えてもいい。」
シグルドは私へと提案をする。
「君は不本意に私との婚約を結ばれた。選択権はなかったのだろう。可愛そうだと悲観はしよう。けれど、それは貴族社会に置いては日常茶飯事な出来事だ。だからこそ君は勝ち続けなければならない。強さも、賢さも。研鑽するんだ。そして強さを世間に証明し、好きな男を手に入れて見せろ。一度の敗北もなく。そして最後に私を一騎打ちで倒せたのならば、弟を好きにするがいい。無理だと嘆くなら、それは君がそれまでの人間だったと言うことだ。」
私はすかさずシグルドの胸ぐらを掴み、宣誓する。
「_____________その言葉に二言はありませんね。ならば私が最強であると、世界に示しましょう。そして、ジークフリート様をお迎え致します。」




