シグルドの誓い
「_______________ジークフリート」
ヴァルハラ学園生徒会長。地上世界に置いて最強と呼ばれる男。
「兄さん..........そんなところで職務放棄か?」
ジークフリートは皮肉気味にそう尋ねる。
「生徒の自由を尊重した結果さ。」
「その自由のせいで一年生の大半が死んだんだが。」
シグルドは剣を地面から抜き、鞘へと戻す。
「だが全員が死んでしまったわけではないだろう。その一握りこそが未来の英雄となる勇士達だ。己の身を守れぬ未熟者に何が守れると言うんだ?」
「それを学ぶからこその学園だろ。」
「ならば良かったじゃないか。身を持ってそれを学ぶ事が出来たのだから。」
ステンドグラスから指す淡い光がシグルドを指す。まるで絵画から飛び出て来た勇者のような姿に唾を飲み込む。
「それはあまりにも非情じゃないのか。」
「非情でなければ何も為すことは出来ない。お前が世界蛇を倒すと啖呵を切った時のように、何かを為すには対価が必要だ。ジークフリート、お前が一番に知っている筈だ。」
ジークフリートは双槍を構える。アスラウグが「やるのですわね」と相槌をうってきたので「あぁ」と答える。
「私個人としてはあまり愛する弟とは戦いたくはないのだが........戦わないという選択肢はないのだろう。」
「戦わなくてもいい____________________________」
ジークフリートはシグルドへと向かい駆ける。
「______________________ただ俺に殺されてくれ、兄さん。」
そして右の槍で突きを放ち心臓を穿とうとする。
「酷い事を言う。私達は兄弟だろ。」
槍の一撃を避け、ハグをするように抱き付き、そう言葉を耳元で口にする。
「______________下方に避けて下さいまし。」
ジークフリートは即座に屈伸し、黒剣がシグルドの胸部を切り裂こうと迫る。
「兄弟水入らずの喧嘩に他者が入り込んで欲しくはないな。」
黒剣がシグルドに接触しようとした刹那、剣は弾かれ、アスラウグは後退するように数歩下がる。ジークフリートはその隙にシグルドから距離をとった。
(一体どういうことですの...........)
相手は丸腰。剣は鞘にしまい、覚醒能力で「勇者」の能力も封じている。にも関わらず攻撃を見極められ、かつ攻撃を弾かれる。
「驚いているようだけど、ルーン魔術の基礎をしっかりとしていれば魔法障壁を常に外界に展開することが可能なのは知っているね。」
魔法障壁。強度は使用者の魔力量に左右される。そして目の前にいる「勇者」の魔力量は賢者や魔帝を除いて一番であることは周知の事実。
(化物ですわね.......魔法障壁は魔力を大きく削る。それに多大な集中力が必要とされる高等ルーン魔術。)
黒剣を縦に構え、左方にいるジークフリートへと目を向ける。
「兄さんの中の基準と俺たち一般の基準を等しく同じだと思わないで欲しいっなッ!!」
槍の一本を投擲する。普通の敵であれば槍は心臓を突き刺し、絶命をするのだが相手は一騎当千の「勇者」。シグルドは飛んできた槍を掴み身体を回転させ、そのままの威力でアスラウグへと投げ飛ばす。
「___________うぐッ!」
黒剣で槍を弾き飛ばそうとするが、予想以上に威力が高く槍の矛が左肩を掠め、切り傷を負う。その間、ジークフリートはシグルドへと猛攻を仕掛けていた。槍による連撃。しかし、シグルドは全ての攻撃を見切り、最小限の動きで避ける。
(当てられる自信がねぇ!!)
それに魔剣は必要ないと判断したのか鞘に戻したことも気に食わない。自身の兄がこれ程までの強さなのかと冷や汗が出る。
「ジークフリート........私は確かにブリュンヒルデのことに対して嫉妬はするが、殿下のようにお前が憎いわけではない。ジークリンデとお前はかけがえのない唯一の弟妹。亡くなった母様とジークリトの墓標で私は誓っている。」
「誓っている..........何を?」
シグルドはジークフリートの額に指を当て、優しく笑みを見せる。
「________________お前達を命に変えても守る。例え愛する者が同じと言えど、私の優先順位はお前が先だ。」
いいことを言っているのは分かるが、愛する者は一緒ではないと心の中で毒を吐くジークフリート。
「なら俺に証明してくれよ、兄さん。学園の秩序も守らず、生徒会の蛮行を許すその口先だけの誓いって奴を。」




