フロールフ•クラキの幽欝
ヴァルハラ学園生徒会、会計を勤める攻略対象が一人「フロールフ•クラキ」。
二年生であり、「a」組に所属する。序列は五位と戦闘面では特質して強い訳ではない。されど、フロールフは七英雄が一人「聖者」に選定された選ばれし勇者である。聖女の力が回復や再生力、浄化の力などに適した職業であるならば聖者は状態異常の解除、呪いの解呪、味方の強化に適した職業である。
「で、殿下、一年生の校舎が.......」
庶務のアムレートが心配とした様子で窓を覗き込んでいた。生徒会室は校棟から少し離れた場所に位置する。生徒会長シグルドはこの生徒会棟の最上階に執務室を構え、その他は広間である会議室で執務作業を行う。そして現在、この会議室にいるのは一年生「c」組序列五位のアムレートと二年生のフロールフだけだ。
「カーラが覚醒能力を使ったんだね。そして相手は僕のブリュンヒルデ。」
あれ程戦うなと忠告したと言うのに聞き分けのない人達だと心の中で毒を吐くフロールフ。
「一年生の生徒達には申し訳ない......けれどこれは必要な戦いだ。」
ブリュンヒルデの従者がネーデルラント家の三男と判明してから、生徒会の女性三人組は様子が可笑しくなった。それもその筈だ。クリームヒルトと彼が婚約をする前は彼女達三人が彼の取り巻きをしていた。そして公爵家の圧力を掛けられ、切り離されたのだ。
(ロズブローク伯爵家の息女に並び、クリームヒルトへの憎悪は計り知れない。)
クリームヒルトが爵位を失った今こそが鬱憤を晴らす機会なのだろう。けれど、ブリュンヒルデに手を出したのは頂けない。
「アムレート、行こう。」
席を立ち上がる。ブリュンヒルデの元へと向かい、助太刀をしなければ。もしも彼女に何かあれば、僕は平常ではいられない。
「___________________何処に行こうというんですか、フロールフ先輩」
忌々しい声。鼻につく話し方。憎き顔形。全ての要素が僕を苛つかせる。
「..........ジークフリート」
殺意を込めた視線で睨み付ける。ブリュンヒルデの注目を一身に集める男。あまり個人では話した事はないが、もっとも苦手で嫌いな男だ。醜いだろう。男の嫉妬なんてそんなものだ。
「ジ、ジークフリートくん、どうしてここに?」
アムレートがジークフリートの元へと駆け寄る。確か同じクラスだったか。
「どうしたもこうしたも生徒会が仕事をしないから、あんな状態になってるんだが.......弁明があるなら聞くが、ないだろう。」
生徒会や学園側が沈静化させず、傍観を決め込んでいる事に腹を立てているのだろう。
「............だったらどうするんだい」
長剣の剣把を掴み、構える。
「それだけの殺気を放って戦闘体勢になるんだ_______________分かるだろう。」
「そうだね。ブリュンヒルデや君を掛けて戦う彼女達には悪いが、此処で退場してもらう事にするよ。」
そもそもの原因は全て君の存在に帰属する。三人組の暴走も、クリームヒルトの追放も、ブリュンヒルデの独占欲も。
「アムレート、君は生徒会の役員だろう。どちらの側に就くかは分かる筈だ。事の原因はこの男にあるのだからね。」
アムレートはアワアワとした様子でジークフリートと自分を交互に見る。
「それに報復を恐れずともシグルドがいる。」
生徒会長の名前を出すとアムレートは即座にジークフリートへと小さく「ごめん」と謝り、フロールフ側へと就く。そして主武装の鎖鎌をジークフリートへと翳す。
「アムレートくん.........そっかぁ、そっちについちゃうかぁ。」
ジークフリートは残念とした様子でアムレートへと視線を送っていた。
「僕達二人の力はサポートが本懐だ。けれど冒険家程度の「c」級職業に負ける程、七英雄の一角は落ちぶれていない。」
ジークフリートは背にある槍へと手を掛け、鉄の構えを取る。鉄の構えとは槍を斜め前に傾けた防御の構えである。
(アムレートの能力でジークフリートを弱体化させ、その分の力を僕が貰う。そして僕の覚醒能力でアムレートを最大限に強化する。)
アムレートの職業適性は『復讐者』。そして覚醒能力は敵対者の弱体化、そして弱体化させた分の力を味方へと上乗せさせるというもの。
(聖者の強化を一身に受けるアムレートは英雄級の力を持つことになる。そして弱体化した状態では、君に勝ちの目はない。)
油断はない。始めから全力で行く。
「............ッ」
アムレートへ強化を施そうと、覚醒能力を発動させようとするが何も起きない。アムレートも同様にジークフリートの弱体化を図るために「復讐者」の覚醒能力を掛けようとするが、発動しない。
「あはははは..............一人目だ」
「ジ、ジークフリートくんまっあがっ______________」
会議室にある机へと跳躍し、間髪いれずアムレートの首を槍で穿つ。刃は首を貫通し、ジークフリートはそのまま右方へと槍を引き抜くように腕を振るう。もちろんアムレートの首は半分に裂け、絶命する。
「このような理不尽を許容しているのがアンタ達、生徒会だ。」
「するとも。少なくともあの三人組は君を手に入れるまで止まらない。それに言いたくはないがブリュンヒルデもまた君へ近づく為に外敵を排除しようとしている。かつての婚約者達もそうだろう。君はいつだって争いの中心にいる。」
元を辿れば全ては「ジークフリート」という男を手にするために彼女達は争いを起こしている。
「そんなこと、鴉羽の身体をもらった時から分かってんだよ。」
槍を縦に振るい、フロールフの胴を切り裂く。しかし、傷は浅い。フロールフは反射的に一歩下がり、斬撃の威力を軽減させたのである。
「からす、何を言って.......ッ!!」
フロールフは「くっ」と剣をジークフリートへと振るう。ジークフリートは槍で攻撃を弾く。
「終わりにしよう、フロールフ先輩。」
ジークフリートの鬼気迫る表情にフロールフは身震いをする。そして、フロールフは剣を捨て、会議室を逃げるように飛び出した。
「___________僕はここで死んでいい人間じゃない!」
(最上階にはシグルドがいる。そこまで辿り着けば!)
螺旋階段を駆け上がり、シグルドがいるであろう執務室が見えてくる。
「残念ですわね。あと一歩でしたのに。」
扉を開け執務室へと入ろうとした矢先、突如として黒剣が胸部から飛び出る。
「き、君は..........そ、うか、能力が発動しない、わけ、だ......」
その場へと倒れ、息を引き取るフロールフ。そして倒れたフロールフから黒剣を引き抜き、血を払うアスラウグ。
「ありがとう。まさか兄さんのところへ逃げ出すとは思わなかったからな。」
開かれた執務室へと足を踏み入れる。執務室は聖堂のように美しく、天井に向かって細長く伸びたステンドグラスの光が幾重にも連なる色彩の帯のようになっていた。神聖かつ尊く美しい。そして執務室の奥には剣を地面に突き刺し、にこやかに笑みを浮かべる兄の姿があった。
「__________________ジークフリート」




