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ジークフリートの元婚約者

あれから何事もなく一週間が過ぎ、漸くヴァルハラ学園が再開される。ほぼ全ての生徒達が学園へと戻り、新学園長の演壇に耳を傾ける。ロキやグローア、ディートリヒは暫くは休学するらしい。


(少し寂しいな......)


学園で過ごしていた際は常にロキといたからか、違和感と寂しさを感じる。


『皆様もご存知の通り、前学園長オーディ......ウォーデンは冥界内にて亀裂の修復を行う為に残りました。恐らく二度と地上には戻って来れないでしょう。名誉ある死、そして真の英雄となったのです。』


学園の生徒達は冥界の女王ヘルが新学園長であることを知らない。冥界に侵入し、戦った者達のみが彼女の正体を知っているのだ。


『賢者ウォーデンを讃えなさい。彼は世界を救った真の英雄なのです。』


賢者ウォーデンが冥界へと残り、地上と冥界の亀裂を修復したという辻褄合わせしたのである。


「賢者の犠牲を無駄しないためにも勉学に励みなさい。私からは以上です。」


壇上を降り、演壇を終える。そして各生徒達はクラスへと戻っていく。


(あぁ......本当に視線が痛いなぁ.....)


ジークフリートは苦悩していた。シグルドのせいで学園に正式に通うことになったため、兜をパージし、通わなければならないのだ。そのせいで必然と視線が集まってしまう。


「はわぁ....ジークフリートしゃまぁ」「今日もお美しい.....」「抱いてくれないでしょうか.....」「是非とも卒業後は私の領地へ.....」「しゅき.........」


素顔を晒して歩いている為に、視線が痛い。それに学園には知り合いが多くいる。知り合いというのは貴族時代のと言う意味でだ。


(____________会いたくない奴だっているってのに)


クリームヒルトと婚約者になる以前のお馴染み、当初の婚約を結んでいた伯爵家の娘が二年生にいるんだ。恐らく彼女は俺を恨んでいるかも知れない。


(公爵家の力は絶大だから、伯爵家との婚約は白紙になった........)


彼女に謝ることも出来ないままに別れてしまった。時間が経ちすぎている。とはいえ、貴族の地位を捨てた自分に今更何と言えと言うんだ。


「_________アスラウグ•ロズブローク」


先程から殺気にも似た眼光で自分を睨み付けている少女。後ろを振り向き、彼女の元へと歩き出す。アスラウグは一瞬驚くと赤面した表情でただ自分を睨み付けてくる。


「お久しぶりです、ロズブロークお嬢様。」

「ッ.........」


キッと睨み付けて何も話さない。それとなぜか顔が赤い。


「一度お会いして、謝り「なぜ、アスラウグと以前のようにお呼びなさらないのですの!」


アスラウグが叫ぶ。周囲の生徒は何事かと此方に視線を向ける。


(ここでは目立ちすぎるな.......)


アスラウグの手を掴み、屋上へと向かうことにする。


「な、何を.......」


無理やりと手を引かれるが、満更でもないと言った様子のアスラウグ。そして屋上へと繋ぐ扉を開け、ウルズの泉を一望できる場所へと移動する。


「........ジークフリート様はいつもそうやって無理矢理と私を連れ出す」


胸を押さえ、ジークフリートへと感情をさらけ出す。


「だけどあの時は今のように私を連れて行ってくださらなかった.....わたくしはずっとジークフリート様をお待ちしておりましたのに」

「何を言って......」


アスラウグはジークフリートの胸ぐらを掴み、無理矢理と唇を奪う。


「アングルボサの呪いで重症を負ったと言うのは嘘なのでしょう。あの盗人から逃げる為にシグルド様に助力を乞い、周知に死んだと噂を流した。」


赤面した表情で未だに睨み付けて話すアスラウグ。しかし、その口元は歪んだ笑みを浮かべていた。


「あの盗人や他の方々を騙せても......ずっと貴方様を見ていたわたくしには通用しませんことよ。ずっと......ずっと見ておりましたの」


縦ロールの髪型がゆらりと揺れる。


「ジークフリート様はわたくしの婚約者でしてよ......他の誰でもありません。わたくしのもの。」


頬へと手を当てられる。そしてゆっくりと抱きつき「わたくしのもの」と呟き続けるアスラウグ。


「アスラウグ嬢.......私はもう、貴族の立場を捨てた一冒険者。婚約者としての役目は果たせません。」


両肩へ手を当て、自分から引き剥がす。アスラウグはただ嗤っていた。クスクスと心のこもっていない笑みで。


「ジークフリート様はご冗談がきついのですわね。嗤えませんことよ。」ばん


その場にて押し倒される。そして自分へと馬乗りになり、首を締めて来た。


「わたくしがこの世界に生誕した理由は貴方様と出会うため!!幼少の頃よりたくさんの淡く色褪せない特別な思い出を貴方様と育んで来ましたの!!」

「く、苦しッ」

「それなのに貴方様は立場を盾にわたくしをまた捨てると言うのですか!許せない!貴族などと言う立場がなくともわたくしが貴方様を娶りますわ!!」


息が出来ない.......殺される........


(______________舐めるなよッ!!!)


足蹴で彼女の後頭部を強打する。


「あぐっ!!?」


そして、即座に彼女の顎を拳で穿ち、意識を刈り取った。


「こいつもこいつでヤバかったんだよなぁ......婚約者時代のクリームヒルトよりは幾分かマシだったけどさ。」

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