これぞ吸血鬼の醍醐味
「ごめんごめん。言い間違えた。普通にシロの血が吸いたいなって」
「言い間違え? 吸血をしたい、と言う意味なら、吸血んぐ、と言う方があっておるのではないか? いやまあ、日本語と英語をくっつける時点でめちゃくちゃじゃし、正解があるのか知らんが」
意味通じてなかった。よし。セーフ。でもシロもだいぶネットに馴染んできてるから、その内知られてもおかしくないな。これはストレートに言うべきか……いや、今は待ちの時だ。
不審そうなシロはちょっとだけ色艶の引いた顔色だけど、まだまだその肌は赤らんでいる。いける。まだいい雰囲気は継続している。
「シロの血、飲みたいな」
「う、ううむ。さては汝、狙っておったな? 前にも言ったが、基本的に吸血鬼は血をのませんからな? 先日の練習が例外じゃからな?」
膝の上のシロを横抱きにしてコントローラーをとりあげて机の上に置いて、シロを軽く抱きしめて顔を寄せながらお願いすると、シロはむぅと眉を寄せてそう気のりしないようなことを口にする。だけどその顔はどこか物欲しそうにさっきより頬を赤くしていて、本気じゃないのは丸わかりだ。
もうひと押し、私はシロのおでこにキスをしてから猫耳に口元を埋めるようにして囁く。
「私の血も飲んでいいから。ていうか飲んでほしい。かわりばんこに飲もうよ。お願い」
「むむ……まあ、負けは負けじゃ。仕方ないの」
「っし。じゃあ、行くね」
右手の肘をシロの膝の裏に入れて手の平で太ももに触れ、左腕をシロの肩に回してぎゅっとして、ちょっとだけ抱き上げるようにしながらそっとシロの首元に顔を寄せる。
「ちょ、ちょっと茜? 何をしておる」
「んぐ」
ぐい、と口に手を当てられた。手のひらをぺろぺろ舐めてどけさせる。シロはまるで私が悪者かのように自分の手を抱きしめて睨み付けてきた。
「くすぐったい、やめんか。変態」
「シロが勝手に私の口に押し当ててきたから、そうしてほしいのかと思ってしただけなのに」
「そんな言い訳があるか。そもそも、どこから吸おうとしてるんじゃ。腕でいいじゃろ、腕で」
ほれほれ、とでもいいたげにシロは私の口元に右腕を押し付けてくる。首をのばしてちゅっとキスしてから、もう一回シロのおでこにキスをする。
「折角だし首筋がいい。別に汚くないし、普段からキスしたりしてるのに駄目なの?」
「汚いとかではなく……首じゃと、吸われているのも自分で見えんし、やめさせるのもやりにくいじゃろ」
「ふーん? つまり、恐いんだ?」
「は? 何を言っておるんじゃ。それで挑発しておるつもりか?」
つーんと顎をちょっとあげた強気な態度でスルーしてきた。普通にビビってるのが真実だと思うけど、まるで私が言いがかりつけてシロがのってくるようにしてるみたいに言うじゃん。そう言われると本当なのにこれ以上追及できない。
本当にシロ賢いな。むー、よし。
「じゃあね、首筋に同時に噛みつくのはどう? それなら。私が吸い過ぎても、シロがさらに吸えば問題ないでしょ?」
「む……」
「はい、決まりね」
「待て」
唇を尖らせながらも一瞬反論が出なかったみたいなので強引にしようとしたところ、また口をおさえられシロは私の腕を振り切って起き上がる。
そして膝立ちになってから私の両足をまたいだ。少し私より上からの視線になって、私の頬を両手で挟んだ。
「ん」
そして軽く触れるキスをしてから、私の首に手を回した。思わずその腰に手を回す。細いその腰を撫でまわし、ちょっとだけ尻尾にも触れると、すぐに逃げて手の甲を叩かれる。でもふわふわで叩かれるのも気持ちいい。
お尻を撫でると、普段と違う手触りに理性が削られてしまう。いつもは先に下着もぬぐから、こんな風にぴったりくっついている上から触るのはあんまりないから仕方ない。
「……」
シロは無遠慮に触る私に何も言わず、そっと首筋に唇を触れ合わせた。私もそっと合わせる。ちょっとべたついてる。汗をかいてしまってる。歯を立てる前にちょっと舐める。しょっぱくて、普通に汗だ。吸血鬼も、汗の味は同じなんだ。
そうぼんやり考えながら舐めていると、くすぐったいのかシロは少し体を震わせてから、カプリとかみついた。
「っ」
血を吸われている。感触ではわからないのに、すぐにそうわかって、私は力が抜けていく快感に身を任せながら歯をたてた。
口の中にあふれる、シロの血。見なくても赤くて綺麗なんだろうなって思わせる、舌触りも喉越しも最高な血。
飲み込むと体から力が沸いてくるような気になるけど、同時にシロに飲まれていくのが、実感される。
求めることが許される気持ちと、求められることへの感情、どうしようもなく私の中で気持ちよくなってしまって、もっともっとって、ぐっと強く吸い付いてしまう。
「ー!」
そんな私に応えるように、シロもまた強く私から吸い上げる。ぐんぐんと飲まれていく私の血。私が吸って、吸って私の物になった力そのものである血を、シロが吸い上げる。まるで私とシロで世界が完結して、ここで世界が循環しているような、全能感にも似た全てが満たされるような快感。
気持ちいい! だけどそれ以上に、もっともっと、気持ちよくなりたい!
浅ましいほど貪欲な私の欲求のまま、私はシロをつぶしちゃいそうなほどただ抱きしめていた手を動かして、もう一度お尻を指先でなぞる。
まさぐって、もう片方の手で背中を撫で上げ、そっと真ん中にある金具を外す。
「んんっ」
シロが呻いて、口を離した。それでもやめない私に、シロはおでこを押すようにして私の口を離させた。その強引さに、ちょっと口から血が漏れた。
もったいない、と文句を言う前に、シロの顔が目に入って言葉が出なくなる。
「……」
顔を真っ赤にして、青い瞳は燃えているようにらんらんとしている。眉は少しよっているけど、快感で目元は緩んでいる。もちろんそんなところも魅力的だけど、それだけじゃない。
少し開いて息を荒げる口元は私の血で濡れて、擦れたように右端から顎まで赤い筋が走っている。隙間から見える鋭い犬歯はいつも以上にするどくて、真っ赤な血が滴っている。
私の血をくらっている。それを感覚以上に、脳みそに突き抜ける様に自覚させられて、どうしようもなく胸が苦しくなる。もっと、もっと飲んで。もっともっと、私を求めて。血を、そしてそれだけじゃなくて、血肉の全てを。
「シロっ」
「がっ」
シロを抱きしめて、お尻をあげてシロをソファに押し付けるようにして乗り掛かる。重力に従って何もなくなったシロの胸元に口づけ、強引に歯を立てる。
「こ、の、阿呆が!」
シロはそのまま下着も脱がそうとする私に、シロはそう怒鳴って頭を叩いた。
「いたっ」
思わず口を離す。もちろんシロの肌はふさがるけど、私の口から血が落ちる。二滴したたった真っ赤な血が、シロの肌に描かれる。まるで芸術品のような美しさに、私は舐めとろうと舌をのばす。
「馬鹿者! 考えなしが!」
「ご、ごめん。そんな嫌だった?」
だけど届く前に肩を強くつかまれて、さすがに理性に溶けてた頭がちょっとだけ固まってきて謝る。ゆっくり姿勢をもどしてシロの顔を正面から伺うと、シロはぷいと視線をそらす。
そ、そんなに怒ってる?
「……今の姿勢で、わらわがどこに噛みつけるか、少し考えたらわかるじゃろうが。阿呆っ」
「え!?」
わからない! シロの言葉の意味が全然わからないまま混乱する私に、シロはぐっと私の肩をひきよせキスをする。
「!?」
そうかと思えばすぐにシロは舌をのばし、反射的に応えようとする私の舌を無視して上唇に噛みついた。自分の血の味が口に広がり、自分の血だけは普通に感じるんだ、と思うのもつかの間、シロが肩から手を離して私の胸に触れたことで、ようやく意図が分かった。
さっきみたいに胸にかみついたら、シロからしたら頭にしか噛みつけない。頭蓋骨があるし、それはさすがに無茶だ。だから怒ったんだ。
そう気づいて、私はシロが私の思い全部に応えてくれることがわかって、私のことをシロも同じように求めてくれていることがわかって、シロの下唇に噛みつきながらぎゅっと抱きしめた。
シロとめちゃくちゃ吸血ックスした。
○
「んあーーーー……」
「……うるさいぞ、茜」
気絶するように、と言うか本当に最後の記憶がないし多分気絶した。めちゃくちゃ疲れて、体がだるい。吸血鬼ってこんなに疲れることあるんだ。
途中で何とかベッドに移動したのは間違いないけど、
カーテンをきっちり閉めるのを忘れていた。ベッドまで届かないようにはしてるけど、入り込んでくる日差しが眩しくて目を覚ました。なので朝なのは間違いない。
お腹にシロが乗っかってるのも間違いないけど、眼球しか動かせない。めちゃくちゃ疲れてる。
「……」
でも、めちゃくちゃ気持ちよかった! 夢中になってお互いずっと吸ってたし、こんな気持ちいいことあるとか、吸血鬼凄すぎる。
感覚的に、お互い多少血をこぼしたりはあったけどコップ一杯分もないくらいで吸血鬼パワー自体は減ってない。ただ急速に血を失いながら血を吸ってそれを自分の力にするのをずっとしていたので、吸血鬼的にめちゃくちゃ疲れてるだけだ。
意識は数時間で戻ったし、もう半日くらいじっとしてると普通に体を動かせるようになると思う。
「あのさ、シロ……また、やろうね」
「…………阿呆。当分嫌じゃ」
「そっかー」
絶対嫌、と言われなかっただけ、今は良しとしよう。さすがに私も、明日しようと言われたら遠慮したいくらい、めちゃくちゃ疲れたから。
はー、それにしても、本当、吸血鬼って最高。
○
こうして、私とシロはずーっと、吸血鬼として毎日楽しく幸せに暮らすのでした。めでたしめでたし。




