祝、免許取得
バレンタインの告白は大失敗で傷心の私だったけど、シロとのラブラブな生活は続いている。まあ、告白する前から私のすることなすこと全部受け入れてはもらえてるもんね。気持ち以外は。
でもこれ以上無理に告白しても、シロを困らせるだけだもんね。シロを独り占めはできてるし、無理に焦ることもない。じっくりと私なしで生きられないようにすればいい。そう思うようになった。
ヘタれてるわけではない。さすがにあれだけわかりやすくスルーされたら、シロからしても触れるなってことだもんね。けしてビビってるとか、傷つくのが恐いとかじゃない。
……、いや、まあ、そりゃ、びびるでしょ。あんだけ見事にスルーされて何にも気にしないで何回も告白するとか、無理でしょ。さすがの私も、失恋の耐性はないからさ。ははは。
「……はぁ」
「なんじゃ? ため息なんぞついて」
シロは私の膝の上に可愛い猫ちゃんの姿でごろごろ転がっていて、ぺろぺろ前足をなめながら不思議そうに聞いてきた。
毛づくろい可愛い。でもほんと、末期だと思うんだけど、シロの猫の姿にも以前と違うときめきを覚えている自分がいる。
大好きなシロが大好きな猫の姿で私の膝にいて可愛いことしてるんだから、幸せでしかないんだけど、ため息が出てしまう。だって、こんなに幸せな状態だからこそ、なのに私の恋心だけは却下されてることを意識させられちゃうんだもん。
「なーんでもなーい。バレンタインも終わったし、何しよっかなって思って」
あんまり露骨にシロの前で出さないようにしてたのにあんまり可愛いからため息になってしまった。気を付けないと。誤魔化す為に話題をふると、シロは顎に肉球をあててぷにぷにさせて尻尾をゆらす。
「ふーむ。そうじゃな。次はひなまつりがあるのではないか?」
「それもいいけど、まだ来週だし。あ、そうだ。折角シロも免許取ったんだし、原付レンタルしてツーリングでもする?」
「んっ!? え、じ、実際に乗ると言うことか?」
「そんなびっくりしなくても。免許取った時に講習受けたんでしょ?」
バレンタインのちょっと前に試験を受けて合格したばかりだ。もちろんお祝い動画もとったけど、いまだに半信半疑な黒子さんたちもいるみたいなので、一回くらいそういうのもいいかも。
と言うなかなかナイスアイデアな思い付きなのに、何故かシロは嘘でしょ? みたいに驚いた顔をしている。ただ乗るだけだよ?
「ていうか私なんか原付乗ったことないし」
車の免許取った時は原付の講習なんかなかったし、家にもなかったからのったことない。講習で乗ったことあるだけシロの方が先輩なくらいだ。
だから大丈夫だよ、という意味だったのだけど、シロはますます目を見開いて起き上がり、尻尾をぴんとさせて身を乗り出してきた。
「え、えぇ? ど、どうしてそれで乗ってみようと思うんじゃ?」
「えー? 言われても、免許はあるし、自転車みたいなものらしいし行けるでしょ」
「汝のその度胸、どこから来るんじゃ…?」
尻尾をおろして下から睨み付ける様に訝しそうにされてしまった。
いや、そんな驚くこと? 言うて吸血鬼だし死なないし事故っても平気なのに? まあ別に原付くらいは練習すれば普通に乗れると思うけど。
「ていうか考えたらシロって自転車のれないのに原付のったんだよね? その方が凄いね」
「一応乗れたが、あれで公道を走るのは不安しかないのじゃが」
「なんで不安なのかわからないんだけど、事故っても死なないじゃん」
「………いや、普通に痛いじゃろ。引くんじゃが」
シロは言葉通り一歩引いて私の膝からおりてしまう。前足だけ残してくれてるのは情なの?
ていうか、いや、まあそりゃあそうだけど。私もね、車に轢かれた経験あるからわかるよ。車に轢かれるのめっちゃ痛いよ。あれは確かにもう一回しろって言われたらいやだけど。でもまあそれはあくまで万が一の時であって、基本大丈夫だろうし。
「自転車から練習する? って思ったけど、レンタル自転車でこけたら問題だよね。原付の方が勝手にスピード出る分安全だと思うんだよね」
「スピード出る方がどう考えても危ないじゃろ」
「転倒した場合はそうだけど、自転車でバランスとれなくて一番こけやすいのはスピードが出る前だから、スピードは絶対出る原付の方がのりやすいと思うのよ。実際講習でこけなかったんでしょ?」
「それはそうじゃけど……うーむ、まあ、そうまで言うなら、してみても良いが」
シロは自分の口元を隠して悩むそぶりを見せながらそう頷いた。思わず説得したけど、無理強いしたいわけじゃない。私は慌ててシロの顔を撫でながら顔を寄せる。
「ごめんごめん、そんなに嫌ならやめよう。思い付きだし」
「……いや、しようではないか」
「え?」
急にきりっとした凛々しい顔で意見を変えたシロ。あっけにとられながらとりあえず親指をシロの耳につっこんでもふさふさしながら首をかしげる。
「勧めちゃった私が言うのもあれだけど、無理はしなくていいよ?」
「いや。茜と過ごしているとの、毎日楽しいんじゃ」
「ん?」
え、何急に? 告白? そんなわけないとわかっているけど、ときめくよ?
「それはきっと、汝が何にでも挑戦してみるからじゃろう。じゃから……わらわも挑戦してみる」
「シロ……」
そんな大層な挑戦ではない気がするし、多分難易度はさらっと受けてくれた原付免許取得挑戦の方が高かったと思うけど、でも、その気持ちが嬉しい!
そんで私といると毎日楽しいと思ってくれてるんだね! これは真面目にほぼ両思い! 恋愛感情ではなくても、シロも私との生活を望んでくれてるんだよね! それはわかってたけど嬉しい!
「ありがとう、シロ! 一緒に幸せになろうね!」
「お、大げさなやつじゃの」
抱っこして胸に抱きしめると、シロは気恥ずかしそうにしながらも笑ってくれた。
はー、シロかーわーいーいー!! もう、もう、ときめきすぎて辛い!!
○
さすがに生放送で事故ったら放送事故どころではないし、そもそも快晴真昼間には走れない。ツーリングに関しては普通に撮影して編集して、生放送中に画面にうつしながら中継スタイルでいくことにした。
と言う訳で今日は撮影会。原付をレンタルして、あまり人も来ない裏道まで押して行く。
あんまり家の近くだと特定されても困るので、ちょっと遠くてレンタル屋があってかつ近くに人気のない道のあるあたりを夜にシロと一緒に出掛けて探しておいた。
工場とかの多い地域の川の横で、車がぎりぎり通れるくらいの道幅しかないし、横は工場の壁が続いているので、これなら昼間でも人が飛び出してくることはない。
今日は雨はふらないけど一日曇りと言う、絶好の外出日和。最高のロケーションだ。念のためヘルメットもUVカットのカバーが付いているやつにしたけど、夜は気付かなかったけどもし太陽がでても工場が影になるやつだった。
「思った以上に昼間もいい感じに誰もいないね。ここならぶつかる心配もないし、安全に練習できるね」
「まあ、そうじゃな」
「こわい? 一回猫で私と一緒に乗って、スピード感になれてみる?」
「……いや、遠慮しよう。普通に、その方がちょっと、いや別に、そもそも恐いわけではないが」
シロがおっかなびっくりしながらついにバイクにまたがる。
「あ、ちょっと待って。動画とるから、まず挨拶からしよっか」
「先に練習した方がよいのではないか?」
「練習するのも動画にした方がいいって。シロのピアノ練習動画、結構見てもらえてるでしょ?」
「確かに。ちょっとうまくいくたびに茜が褒めるから、その度にスパチが来るのちょっと申し訳ないんじゃが」
「私って実は有能なのかもしれないね」
狙ったわけじゃないけど、スパチポイント自分で指定してるみたいなもんだもんね。同じように撮影動画でもそう言うのあった方が明らかに視聴数に比べてスパチもらえてるし。
いったん降りてもらって撮影する。挨拶をしてレンタルした原付も紹介する。両足を乗せるタイプで大き目のライトが可愛いタイプ。それからヘルメットをかぶった姿も撮影してから、ようやく出発。
「うむ、それでは行くぞ!」
「シロがんばれー!」
シロがぶろろ、と走らせるのを私は普通に走りながら撮影する。今まで試したことなかったけど、最新の手ぶれ機能すごい。
さすがに走りながらシロに声をかけたりしてると息はきれたけど、思った以上に早く走れて自分でちょっとびびった。吸血鬼になってすごくなったって自覚はあったけど、具体的に測定とか一切してなかったけど普通にめっちゃ足が速くなってた。
普段も小走りくらいで簡単に息切れなくなったなーとか、スキーの時も前より思った通りに体動くなーとは思ってたけど、普通に原付と並走できると自分でびびるな。
端まで行ったところで停止して、通りに何もないことを確認してからシロは原付を降りて押して向きを変えようとする。
「シロ、それだと練習にならないんじゃない? 一回右折して、そこで止まって向きを変えてから左折で戻った方がいいんじゃないかな?」
「む、それはそうじゃな。では一旦持ち上げてもどるかの」
シロは一度エンジンを落としてからよいしょ、と原付のハンドルとお尻の荷台を掴んで軽く地面から浮かすように持ち上げて、右折できるよう向きを戻してちょっと戻った。
持ち上げなくてもそのままバックすればいいのでは? と思ったけど、なんか法令あったかもしれない。最近取得したシロの方が絶対法律に詳しいから、そこは任せよう。放送するから、絶対違反なことできないからね。
そうしてシロがウインカーを出して確認してから右折して、しっかり端に停車してから向きを直して、またちゃんと左折して戻ってきてそのまま元の場所に行くまで撮影した。
「シロ、よかったよ。完璧だったんじゃない?」
「そう、じゃな。講習の時よりはなれたからか、普通に乗れたの。ただこのヘルメット、ちょっと見にくいが」
「安全の為だよ。じゃあ私ものろっかな。シロ、撮影お願いね」
「それはよいが、本当に大丈夫か? 乗ったことないんじゃろ?」
「大丈夫大丈夫」
内心ちょっとどきどきしたけど、さっき走った時とスピード変わらないからか、思ったより簡単にスピードは出たけど、特に驚きもなく普通に運転できた。
「はーい、できました!」
「なんというか、汝って意外となんでもそつなくこなすの」
「意外とか言わなくてもいいんだけど。うーん、でもツーリングしようって言ったけど、考えたらここからどこに行くかを全然考えてなかったね」
「乗れたとはいえ、あまり大通りはの。危険ではないか? 二段階右折とかややこしいじゃろ」
「そうだねぇ。じゃあ、近くのコンビニまで行って、お菓子買って食べたら成功ってことにしようか」
と言う訳でそこから原付でコンビニに行った。移動中はスマホカメラの撮影になるし、二人とも乗ってたら会話も難しいので普通に静かに行った。
後日いい感じに編集したのを投稿したところ、シロが本当に免許取れる年齢なのは認めるけど成人かはわからない! と言う謎の勢力によってシロは美少女JKと言う称号を手に入れた。
あと手に持って並走してるやつ、思ったより全然手ぶれないんだけど、やっぱ走ってるので多少は揺れたのと、普通に走るの速すぎるの突っ込まれた。
もっとスポーツ企画が見たいみたいなリクエストがきてネタにもなったし、シロの成人証明はできなかったけど、とりあえず大成功のツーリング回だった。




