旅行編 冬の旅行と言えば!
実家への帰省も無事すんだ。吸血鬼の体は体力も抜群なのは間違いないけど、気疲れとかはあるものなので、一日で行って帰ってするのはちょっと疲れた。
その疲れも癒した二月頭。私たちはついに待ちに待った旅行に来ている。もちろん夜は配信もするように、最初に配信していたノートパソコンを持ってきている。
旅慣れていないシロに楽しんでもらう為、行程はゆっくりめに組んでいる。折角の冬なので、冬を堪能するため雪山に来ている。
「しかし、凄い雪じゃの。ここまで積もっておるのはなかなか見んぞ」
「山の上だし、スキー場だから雪が足りない場合は人工雪使うらしいよ」
「人工雪!? 雪ってつくれるのか!? えぇ……人間って、こわいのぉ」
謎にひかれてしまった。別に私、人間代表ではないのだけど。今吸血鬼だし。
荷物も宿に置いたし、さっそくスキー場にやってきた。服装も含めてレンタル済なので浮くこともない。もちろんシロには猫耳と尻尾はなしにしてもらっている。
二人で話し合いながら決めたので、もちろん内容はシロも知ってるけど、初体験ではあるんだから楽しんでほしい。
服装はもちろんめちゃくちゃ厚着だし、顔や首、手までしっかりめちゃくちゃ強い日焼け止めをがっつり塗っている。ちょっと雪の照り返しは眩しいけど、熱いというほどではないのでスキーを楽しむくらいは大丈夫そうだ。
「まずは雪になれる為に、雪だるまからつくろっか。このあたりなら作ってもいいみたいだし」
「雪だるまのぉ。スキーはスポーツと聞いたが、雪だるまなぞ子供の遊びじゃろ?」
「まあそう言わずに」
「ふむ、む? 思ったよりさらさらしておって、ふわっと、手触りがいいの」
「でしょ。怪しまれるからスキーするときは手袋つけるし、今のうちに堪能しよ」
この辺りは日陰なので手袋も外している。ひんやりした雪の手触りは人だった時はすぐに冷たくなったけど、今は触ってても冷たいけど心地よい冷たさ以上にならないので純粋に触っていて楽しい。
「まず雪玉つくってー、こうやって転がして大きくして、胴体と頭をつくるんだよ」
「ふむ。こうか」
シロと一緒に雪だるまをつくった。ちょっと張り切りすぎて大きくなってしまったけど、ぎりぎりセーフ。折角なのでちゃんとマフラーとかも装着させてそれらしくして一緒に写真をとった。
年恰好はいつもどおりなのでツブヤイターに投稿しておく。猫のシロは? と言う質問には猫のシロは吸血鬼のシロの変身した姿だから今も一緒だけど、念のために言うと私にも実家があります、と答えておいた。設定を守りつつ、猫一人家に置いてきたわけじゃないアピールだ。
私はちゃんと世界観も常識も守れる吸血鬼なのだ。
「シロ、すご! ほんとにスキー初めてなの!?」
「ふふん。わらわにできぬことなど、あるはずなかろう?」
スキーをするとシロはあんなにリフトにまごついてびびってたのに、スキー自体は一発目からめちゃくちゃ上手だったし、上級者向けに行ったらジャンプまでしてしまった。
すご。吸血鬼ってそんなことまでできるの? いやまあ、私もできたけど、言っても私は元々普通にスキー滑れたからね?
「折角のシロの雄姿だし、動画もとっとこうよ!」
「よかろう、順番な」
「え、シロ撮影できるの?」
「何をねぼけたことを。ボタンを押して、画面に映るようにするだけじゃろ、わらわをなめるでない」
撮影した。シロの動画は別に手ぶれもないし普通にとれてたけど、私に近すぎて今一ジャンプしてる感なかった。見直して比較して悔しがっていたのが可愛かった。尻尾があったら振ってそう。
お昼を食べてもうひと滑りしてから、ちょっと早めに宿に向かう。スキーで冷えた体を温める、温泉宿! 晩御飯には早いのでさっそく温泉に入る。
狙い通り貸し切り状態だ。みんながっつり滑ってるのもあるけど、そもそも連休でもないド平日だもんね。
「あー、最高」
ちょっと奮発した甲斐があった。雪山をみながらの露天風呂、最高すぎる。空気がひんやりしていて、辛くはないけど体が冷えていたのがじわじわあったまっていく感覚が気持ちいい。
「確かに、これが露天風呂か……悪くないの」
「でしょー」
家ではないのでもちろんシロを抱っこはしていない。さすがに恋愛脳になった私でも、お風呂に入る時はお風呂モードになっているので変に意識してエッチな気分になったりはしていない。さすがにそこまでひどくはなかった、よかったよかった。
「んー……ほう、ふふ。すっかり、茜に染められてしまったの」
「え、なに?」
のんびり和んでいたらシロが急にそんなことを言った。その内容の唐突さにびっくりしながら顔を見ると、シロは温泉で温まってちょっと赤くなった頬で妖艶に微笑んでいた。
そして目が合ってゆっくりと空を仰ぎながら口を開いた。
「わらわはずっと、一人で生きておった。お風呂なんて興味もなかった。毎日のんびり平和に暮らしておればそれでよかった。じゃが……茜といると、毎日楽しい。もはやお風呂にはいらんなぞ、考えられん」
「……えへへ」
シロの言葉がじんわり私に染みこむ。強引に私の生活に引き込んだからこそ、楽しんでほしかったし、年越しの時もそう言う生活が楽しいって言ってくれてたから、ちゃんとシロが楽しんでくれているのもわかってた。
だけどこうやって言葉にして、明確に前より今がいいって、こんな風に言われると、本当に嬉しい。シロの事幸せにできてるんだ。
「喜んでくれてよかった。ちょっと強引にお風呂いれたしね。猫でもあるけど、人でもあるんだし、より楽しく快適に生きるにこしたことないんだしね。もっと、いっぱい楽しいことしようね」
「うむ……こうやって、茜と生きるのは、悪くないの」
「っ……うん」
私はシロとの生活を、シロと一緒にいることを全力で楽しんで堪能していた。
そうだ。シロと一緒に生きるのは、すっごく楽しい。猫だからとかじゃなくて、シロとだから、前よりずっと楽しくて、幸せだ。だからこそ、最初にずっと一緒がいいって軽く思った以上に、今もっともっと、ずっと一緒がいいって感じてる。
シロも今、きっと私と同じように期限とかなくずっと一緒にいる前提でいてくれていると思う。それは嬉しい。でも、なんでかな。何か、ちょっとだけ不安になるな。本当に一緒にいられるのかな、なんて風に。なんでだろう。
「ん? どうした?」
「んーん。シロと一緒だと、楽しいなって思って」
「そうか。そろそろあがるか。人来るしの」
「ん? え、そう言う気配的なのもわかるの?」
「気配って、単純に更衣室から声が聞こえておるだけじゃ」
「あー、なるほど」
言われてみれば聞こえる。聴力も吸血鬼力を鍛えるとよりよくなるのかな? それとも単に、私がぼーっとしてるだけなのかな?
お風呂をあがって部屋に戻る。食事は部屋まで持ってきてくれる方式だ。ゆっくり温泉につかったことでなんだかお腹が空いてきた気がする。
吸血鬼になったから実際はそんなに急激にお腹空くことはないんだけど、人間の時と感覚はかわってないから、疲れたりあんまり食べてないって思うとお腹空いた気になるんだよね。
「シロ、ご飯食べたら生配信の予定だったけど、その前に腹ごなしに散歩にでも出かけない?」
「ん? わらわは構わんが。明日行くのではなかったか?」
「そうだけど、まあいいじゃん?」
「よいが」
夜だけのライトアップももちろんあるので、近くの公園にも行く予定だったけど、思ったより温泉で気疲れも解消したしね。単純に夜の雪を堪能するのもいいしー、地元のお土産屋とかもいいしね。わくわくしてきた!
近隣の街歩きマップを見ながらどう散歩しようかなーと話し合ってると、仲居さんがご飯を持ってきてくれた。
「お、おお。これはさすがに、絵でみるよりも圧巻じゃな」
卓上に並べられたたくさんのお皿や小さいお鍋を乗せてる、なんだろ、五徳? も実物見ると迫力あるんだよね。家だとこんな風に一つずつ小皿にいれることもないし、お上品な雰囲気って言うか、とにかく全然違うよね。テンションが上がる。
シロもそれは同じようだ。事前に写真で見ていたけど、その期待をやすやすと超えてくれる。これはいい!
「でしょー! めっちゃ美味しそう! あ、折角だし猫耳尻尾で写真撮ろうよ」
「汝は本当に、猫が好きじゃよな」
「えへへ。シロが好きなんだよ」
料理が冷めないうちにぱしゃぱしゃっと写真をとって、早速ご飯を食べる。
お刺身も、こんな山の中なのに新鮮なのが食べれる。現代の技術ってすごーい。やっぱ時代は現代よ。吸血鬼もいて猫もいて温泉も食事もスキーも楽しめる現代が一番。
小さなお鍋のすき焼きも、めちゃくちゃ美味しい。お肉やわらかーい。炊き込みご飯も、あっ! お漬物めちゃくちゃ美味しい! 帰りにお土産で買おう。
全部美味しくて私たちははしゃぎながらご飯を全部綺麗に平らげた。
「美味しかったー。やっぱプロのご飯は違うよね」
「ふむ。まあそうじゃな。作った物が違えば味付けも雰囲気も変わるからの。素材の差も大きいじゃろうな」
「だよねー」
まんぷくまんぷく、とお腹をなでる。その気になれば消化はできるけど、胃の容量は決まってるので満腹にはなる。シロのぷっくり膨らんだお腹は可愛いけど、自分だとただ太ってるなーとしか思わない。まあ消化したらなくなるんだけど。
お腹いっぱいで食後のお茶を飲んでいると、お皿を回収してくれた。
「いよし! そろそろ散歩に行こっか!」
「そうじゃな、お! 見るがよい、茜」
「なになに?」
立ち上がって振り向いて提案する私に、シロも立ち上がってから、窓に近寄った。ちょっとだけあったカーテンの隙間に手をかけて開くシロに寄りながら私も窓の外を見る。
「雪じゃ」
「おお!」
雪が降ってる! 雪山に近いしこのあたりでも高度あるから全然珍しい事象じゃないけど、今この瞬間に降り出すとかめっちゃテンション上がる!
「雪だー! 私たちの旅行を歓迎してるようじゃないか、シロ君!」
「ふふ、誰なんじゃ、汝は」
「茜でーす」
「知っておるわ。まあ、わらわも雪降る中での散歩は滅多にないからの。わらわも、気持ちはわかるぞ」
「うんうん、だよね。さ、散歩に行こう!」
こうして私たちは揚々と、スマホと財布だけもって、大雪原へと旅立つのだった。




