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第84話「二人の秘策」

いつも読んで下さる方々に感謝しております。

 一ヶ月前と比較すると、今の自分は格段に強くなったと思う。

 それでも従姉に未だに勝てないでいるのは、それだけ彼女が強いという事。

 しかし悠長にしている暇はもうない。

 ヤツヒメと自分の婚約を破棄する期限は、遂に残り一週間だ。

 何が彼女をそこまで駆り立てたのかは分からないが、流石にこの年齢で結婚とかは全く考えられないし、なによりヤツヒメと一緒になるのは色々と大変そうなので勘弁してほしい。

 そんな危機が迫る一方で、マーリンとの〈オリハルコン〉を上位の物質に変換する試行も全く進んでいない。

 だがこちらの期限は特にないので、今は後回しにするのが賢明か。

 とりあえず今日中にヤツヒメを攻略する事を念頭に置いて、白の少女こと壱之蒼は適度にランニングを始めた。

 すると走っていて、しばらくすると一つだけ気づいたことがあった。

 いつも見かけていた、白の騎士団の団員だと思われる方々を1人も見かけない。

 この時間帯なら20人くらいはいたのに、実に珍しいものだと蒼は思う。

 一体どうしたのだろうかと紅蘭くれないに尋ねると、赤髪の少年は苦々しい顔をして答えた。


「あー、全員ヤツヒメ様に捕まってボコボコにされたんですよ」

「なんで?」


 流石に走ってるだけなのに、捕まった上にボコボコにされるのは可哀想ではなかろうか。

 そう疑問に思うと、紅蘭は首を横に振って否定した。


「姫、それが違うんですよ」

「? 紅蘭、何が違うんだい?」

「お優しい貴方には、彼等がただ走ってただけにしか見えなかったと思います。でも、実際にはただ走ってたわけじゃないんですよ」

「……つまり、何か目的があったって事かな」


 僕が尋ねると、紅蘭は深く頷く。

 それから、何やら身内の恥を白状するみたいな申し訳なさそうな顔をして言った。


「ええ、実は彼等の目的はトレーニングではなく、姫が走り抜けた後ろを追走する事で“姫で満たされた空気で呼吸する事”を目的としていたんです」

「うん、……うん?」


 紅蘭が語ってくれた内容が余りにも難解すぎて、一瞬思考がフリーズしかけた。

 つまり分かりやすく言うのならば、団員達の目的はトレーニングではなかった。

 そして目的は完全に意味不明なのだが、僕が走った後の道を走る事。

 僕で満たされた空気とは一体なんだろうか。

 〈天使〉の特殊能力で癒やしの効果的な何かでも分泌されているのか。

 うーむ、わからん。

 首を傾げていると、近くを走っている優達がこれ以上ないくらい優しい顔をして言った。


「蒼は理解しちゃダメよ」


「蒼様が汚れてしまうので、それ以上は考えないで良いのじゃ」


「……姫様はそのままでいて欲しいの」


「蒼、世の中には知らなくて良い事があるんだぞ。おまえは大人しくヤツヒメ姉さんの攻略に専念しとけ」


 優の発言を皮切りに、アリスと真奈と龍二までもが僕にこれ以上の詮索をするなと言う。

 そんなに難しい問題なのだろうか。

 悔しいが自分の持っている知識では、どう頑張っても優達みたいに正解を出せそうにない。

 今日中にはヒメ姉を攻略しようと思っているので、ここは大人しく皆の忠告を聞いておくべきか。

 仕方ないので、意識を切り替える。

 走りながらふと一つだけ思い出した蒼は、龍二の隣を並走すると優達には聞こえないように小さな声で尋ねた。


(龍二、黒炎との修行はどうだい?)

(おう、それなら聖獣になってから大分改善した。今なら5分くらいは安定して維持できるぞ)

(それなら良かった。僕も奥の手が用意できそうだから、今日で決めに行かないか?)

(まさか、今日ヤツヒメ姉さんを倒すのか)


 僕の提案に目を丸くする龍二。

 それに頷いてみせると、蒼は不敵な笑みを浮かべた。


(そのまさかだよ。でもヒメ姉は僕達の新技の存在を知ってるから、使う時はタイミングが大事だ。たぶん一回目で決めれなかったら、次からは警戒して対応してくると思う)

(なるほど、わかった。タイミングはおまえに任せる)

(ふふふ……僕達でみんなをあっと驚かせてやろうか)

(流石、分かってるな。俺としては、本当はおまえも驚かせてやりたかったんだけど……)


 少しばかり嘆くオッドアイの少年。

 なんだ、そんな事か。

 走りながら蒼は彼との距離を詰めると、脇を肘で軽く小突いてそっと囁いた。


(なら、驚かせたら良いじゃないか。僕は龍二のアレの完成形をまだ見てないんだから)


 挑戦的に言うと、少し間を置いてから龍二は苦笑した。


(ほんと、昔からおまえは人を乗せるのが上手いよな)

(どういたしまして。でも楽しみにしているのは本当だよ?)

(ああ、おまえも含めて全員をしっかり驚かせてやるよ。俺の新しい力〈限界突破オーバードライブ〉でな)

(おお、良い技名だね。名付けたのは君と黒炎のどっちだい?)

(……黒炎だよ。俺はスーパー龍二スペシャルって提案したんだが、全力で却下された)


 この男は頭は良いというのに、相変わらずこういうネーミングセンスだけは壊滅的に悪いご様子。

 少しばかり引いていると、みんなには見えないように黒猫となった黒炎が龍二の手のひらから顔を出してウンザリするように呟いた。


(本当に、この男のネーミングセンスは酷かった……)

(ご苦労さま、よく〈限界突破オーバードライブ〉で落ち着いたね)


 龍二は簡単に譲るような性格ではないので、絶対に激しい戦いが繰り広げられたはずだ。

 その予想は的中して、黒炎は明後日の方角を見ると長く苦しい議論の末に〈限界突破オーバードライブ〉で落ち着いたと語った。

 続いて龍二に視線を向けると、彼は「ドラゴンセカンドエクスプロージョンも良いと思ったんだけどなぁ」と何やらボヤいていた。

 まだ自分の考えた技名に関して未練があるようだ。

 呆れてしまう蒼。

 咳払いを一つして場の空気を入れ替えると、改めて親友に言った。  


(と、とりあえず期待してるよ、2人共)

(おう、任せてくれ)

(この身体を与えてくれた天使様に、必ずや勝利をもたらそう)


 話が終わると同時に本日の4周目が終わる。

 先行していた僕と龍二から少しだけ遅れてゴールした優達は此方に歩み寄ると、何やら気になる様子で尋ねてきた。


「蒼と龍二、2人で何を話してたの?」

「うーん、今日のヒメ姉との〈決闘デュエル〉までみんなには内緒かな」

「き、気になるのじゃ!」

「あはは、ダメだよ。その時を楽しみにしててよ」


 詰め寄るアリスに蒼は悪戯っぽい笑みを浮かべて背を向けると、その場から逃げるように歩き出す。

 その後も紅蘭や真奈から聞かれたが、蒼は口にチャックをして絶対に話す事は無かった。

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