第65話「豪剣と黒炎」
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蒼達が走って帰る一方で、1人自宅に帰ったオッドアイの少年は無力感に苛まれていた。
誰も扱いきれない大剣を振るう事を続けて、いつしか〈豪剣の鬼〉と呼ばれるようになっていた事に、自分は心のどこかで慢心していたのかも知れない。
VRゲーム、ソウルワールドで〈七色の頂剣〉の前衛を担当した時は、相対した全ての敵を切り捨てて来た。
だがいざソウルワールドが現実になって、この一ヶ月の間に俺は何ができた。
何も成し遂げていないではないか。
大怨鬼には〈騎士王の一撃〉を使って勝利間際までいったものの、ライフを削りきっても死なない敵に驚いた油断をつかれて負けた。
〈怠惰の魔王〉ベルフェゴールには圧倒的な力と速度についていけず、基本的には後衛の護衛というポジション。優のサポートが無ければ、魔王に対して何もできなかっただろう。
そんな中で最後にいつも戦いに決着をつけるのは、親友でありライバルでもある壱之蒼だ。
アイツはいつも全力を尽くして、戦いを勝利に導く。
脳裏に浮かぶのは、白髪の少女となった幼馴染の少年の後ろ姿。
拳を、ギュッと握りしめる。
俺には、何もかも足りない。
特に圧倒的に速さが足りない。
でも今更ステータスを振り直すなんて事はできない。
オッドアイの少年は自分のステータス画面を開くと、そこに映る数値を睨みつけた。
土宮龍二
レベル、75
性別、男性
第一職業、聖剣士
第二職業、格闘士
右手装備、ティターンの大剣
左手装備、装備不可
ステータス。
攻撃、10+300
防御、10+250
速度、10+20
技術、10+150
知能、10+0
魔力、10+20
スキル『聖剣技』『剣技』『格闘技』『大剣技』
アビリティ『感知』『重量軽減』『聖騎士の誓い』
ゲームのソウルワールドでは大活躍できたこのステータス、しかしリアルでこれ程までに通じないとは。
暗くした部屋の中で〈ティターンの大剣〉を呼び出すと、龍二は眉をひそめた。
およそ2メートル以上の長大な剣。威力は折り紙付きだが、重いため動作で剣線が読まれやすいのが対人では致命的とされている。
これからの事を考えると、もっと使い勝手の良い武器に変えたほうが良いのか。
例えば〈柔剣〉みたいに一回り小さい〈ギガースの大剣〉とかに。
「くそ、ゲームのNPCとはやっぱり勝手が違うよな……ッ」
ソウルワールドではボスクラスは基本的には大型ばかりで、人型と当たることなんて滅多にない。
足の早い小型のモンスターは、感知アビリティで事前の動きを予測すれば簡単に対処できていたので、苦労はしなかった。
ボスもパターンを見極めれば、相手が例え人型でも大抵の事には対処できていたのだ。
だから圧倒的なステータス差で此方の動きに対応されると、こんなにも無力だとは想像もしなかった。
ソウルワールド内で蒼と互角以上の戦いができていたのも、あれは2人の間にステータスの差が無かった上に、一部のステータスはこっちが勝っていたからだ。
騙し騙しやってきたが、もう限界が見えてきている。しかも蒼は魔法剣技を応用して、伊集院アリスとの合体技まで編み出した。
……強くなりたい。
でも〈ティターンの大剣〉ではこれ以上は望めないかもしれない。
3ヶ月間、握り続けた相棒を手放すか心が揺らぐ。
龍二が、そう思った直後の事だった。
『力が、欲しいのか』
何かが、自分に語りかけてきた。
首をかしげて周囲を見るが、今日は執事の山田は休みなので不在だ。
悩みすぎて幻聴でも聞こえたのか。
疑問に思う龍二に、ソレはもう一度語りかけた。
『力が欲しいのなら、くれてやろう』
不意に龍二のポケットの中から、勢いよく何かが飛び出す。
それは大怨鬼から入手した、黒炎を宿した宝石だった。
ただのアイテムに過ぎない物が、所有者の意思に関係なく勝手に動き出す。
余りにも異常な光景に、大剣を手に警戒する龍二。
宝石は黒炎を纏うと、そんな彼に対して続けてこう言った。
『アイテムが喋るのはおかしいと思うか、その時点でおまえは物理的な法則に未だに囚われている』
「なんだと?」
『量産型のモンスターと違い、ネームドモンスターには意思がある。そしてそういったモンスターから出るアイテムには、ごく稀にソウルが宿ることがあるのだ』
「アイテムに、ソウルが……」
『この意味が分かるか? ソウルには無限の可能性がある。仲間の錬金術士を思い出してみろ、アレこそ今の貴様が求める殻を破るヒントの一つだ』
「……〈召喚武装〉か」
召喚獣のソウルを、錬金術をもって己の武装に変換する魔王すら驚かせた技。
脳裏に思い浮かぶのは、その力を持って魔王と対等に戦っていた桃色の髪の少女の姿。
確かに外部から力を得る事が可能なら、今の状態でも飛躍的に強くなれるかもしれない。
だがこの状況は、どう考えても胡散臭かった。
展開的に宝石に込められた大怨鬼の黒炎が、自分を利用して復活しようとしているありきたりなパターンにしか見えない。
だから龍二は、こう答えた。
「ヒントをありがとよ。でもおまえの力は借りないわ」
『……ソウルを持つアイテムは稀有だと言ったはずだが、強くなりたくないのか?』
「いや、だっておまえ俺を利用する気まんまんじゃねぇか。コンプレックス抱く親友が悪落ちなんて、ベタベタすぎて蒼から怒られちまうよ」
そう言って葉月真奈から貰ったアイテムボックスを取り出す龍二、仕舞うのが面倒だったのでポケットに入れていたが、こうなると何をされるのか分からない。
永久にボックスに閉じ込めておこう。
龍二がそれを手に近寄ると、宝石の黒炎は何やらしょんぼりした。
『いや、私はただお主に使ってもらいたいだけなのだ』
「は?」
何を言い出すんだこいつは。
呆れた顔をすると、黒炎はテーブルの上で荒ぶりながら龍二に何やら抗議を始めた。
『この意思を持って喋る私の姿を見たら、貴様に何が言いたいのかはわかるだろ』
「つまりおまえは、アイテムになってずっと俺達を見てたって事か?」
『ああ、そうだ。お前達に完敗して私は満足してアイテムとなったが、まさか一回も使われずに放置されるとは思いもしなかったぞ』
「お、おう……」
これは驚いた。
まさかのアイテムからのクレームだ。
この場に蒼達がいたら、メチャクチャ驚くこと間違いなしである。
しかしいくら文句を言われても、これまでを振り返ると中々に使う場面は見当たらない。
なんせこいつは、黒炎を纏うことによって回復効果を得られるのだ。つまりはダメージを受けなければ、使うことはない。
龍二はため息混じりに、目の前の黒炎に言った。
「いやだって俺、おまえと戦った後ほとんど接戦なんてしてないし、魔王に至っては前線に立ててないからなぁ……」
『だから私は、私の新しい使い方を提供したいと思ったのだ』
「新しい使い方だと?」
なんて事だ、まさかのアイテムが自己アピールまでしてきた。
そこまでして使って欲しいとは、何か聞いていると非常に切なくなってくる。
でもおまえ、回復アイテムなんだよな。
回復アイテムの力を使えたとしても、果たして今悩んでいる問題の解決になるのだろうか。
疑問に思うが、何らかのきっかけになるかも知れない。
そう判断すると、龍二は後ろ髪を掻いて唸った。
「背に腹は代えられないか。変な事したらすぐにおまえを、葉月に頼んで分解して貰うからな」
『承知した』
こうして、土宮龍二と黒炎の奇妙な関係の特訓が始まった。




