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第30話「白姫達の演出」

いつも読んで下さる方々に感謝しております。

 工場の跡地は大きく改修されて、コンサートステージの様な舞台を増設。更に周囲には音を遮断する魔法結界が構築されていた。

 そんな場所に集まった人物達は、全員統一された黒いコートを着ている。

 背丈と体付きから推測するに、老若男女と幅広い年齢の人達だと思われる。

 しかも、その数は500人近い。

 なんでも今回は全国から集まれる者達が来ているらしく、ライブ動画で見ている団の人達も含めると、その総数は実に1万人以上いるとの事。

 それって、とてもすごい事なのでは。

 1万人ということは学校の生徒達の10倍以上の人数?

 その人達の前に団長の代わりに立って話しをしている紅蘭は、全く動じた様子もなく淡々と幹部が集めた皆の報告書を見ながら進めている。

 今回の議題は、主に『日本に潜入している敵対している魔王の配下』だ。

 前線を抜けてきた工作員が何体かいるらしく、以前に僕達が倒した『大怨鬼』が発生したのも、そいつらの一体が仕組んだものだったらしい。

 その狙いは人工ダンジョンを廃止させ、日本の戦力を弱体化させた後に、潜入した悪魔の配下が内部分裂を先導するというシナリオ。

 メディアに知られる前に内密に『大怨鬼』を僕達が倒し、スパイとして入り込んでいた悪魔を紅蘭と幹部達が討伐した事で何事も起きなかったが、一歩間違えると大惨事だった。


 うわぁ、倒せてよかった。


 その内容を聞いて、僕は額にびっしり汗を浮かべる。

 龍二も隣で知らなかったと顔を青ざめて絶句していた。

 ちなみにアリスは知っていたらしく「無事に成功してよかったのじゃ」と満足そうな顔をしている。

 君、せめて僕には知らせるべきじゃないの?

 そう思うが、既に終わったことなので今更追求はしない。

 ただ今後アリスや紅蘭から頼まれ事する時は気をつけよう、と心に留めて置くことにする。

 次に僕は紅蘭から「合図があるまで絶対に出ないように」と言われた舞台の裏からチラリと頭を少しだけ出して周囲を見回すと。


「ほんと、皆静かに聞いてるね」

「……誰も騒いだりしないのはすごい事なの」


 500人もいるのに雑音が一切しない事に驚かされる。

 しかも全員ピシッと立っており、綺麗に整列している。

 そんな『白の騎士団』の立派な姿に、感心する僕と真奈の反応を見て、アリスは得意そうに説明した。


「紅蘭は人望はあるからの。昔は『決闘者』の大会で随分とヤンチャしておったらしいが、蒼様と会ってから大分まるくなったのじゃ」

「そうなんだ。ていうかアリスやけに詳しいね」

「妾は魔法で時々変装して会合に紛れ込んでおるからの。色んな団の人達の内部情報や個人の昔話しを聞くのは楽しいのじゃ」


 ふふん、と胸を張る青髪少女。

 その話しを聞いた真奈は僕の隣で「……暇人なの」と呟き、アリスの急所を的確に抉る一撃をお見舞いした。

 これには流石の彼女も吐血。堪らずその場に片膝をついた。


「ぐふ……ま、まだこれくらいで倒れたりはしないのじゃ」


 と言いながらも、その両足は小刻みに震えている。

 後一撃か二撃くらいもらったら倒れるのではなかろうか。そんな様子だ。

 でも情報を色んな所から集めるというのは悪いことではない。

 特に今の情勢ならば、価千金の情報を入手したりもするだろう。

 だから僕は、落ち込むアリスの頭を軽く撫でると褒めてあげた。


「アリスは勤勉で、すごいね」

「あ、ありがたき幸せなのじゃ」

「むぅ」


 嬉しそうに撫でられるのを受け入れるアリス。

 その隣で真奈が羨ましそうな顔をして頬を膨らませている。

 ちなみに龍二は呆れ顔だ。

 アリスと真奈に対して僕は可愛いな、と思いながら再びステージに視線を向ける。

 すると、紅蘭が右手を高く上げた。

 ああ、僕達の出番が来たのか。

 合図を貰った僕はフードを目深に被り完全に顔を隠すと、他の3人を見る。

 僕の視線を受け止めると、彼らは小さく頷く。

 皆にはこれからやることは事前に話してある。そして同意もしてもらった。

 よし、覚悟は良いな!

 蒼は意を決すると、隠れていた場所から跳び出てステージに上がった。





◆  ◆  ◆





 少年は今日の会合も特に進展がない事に、どこかつまらなさを感じていた。

 白の少女、通称白姫がリアルに存在していた事を知った時は確かにテンションが上がったけど、この騎士団は白姫には触れない事を規律としている。

 故に見かけても遠巻きに見ているだけで、話しかけることは許されない。

 もしもそんな事をしたら、以前に学校で接触した2人みたいに腹筋1000回、腕立て伏せ1000回、背筋1000回の筋トレ3セットを課せられる。

 ソウルワールドが現実化して、身体能力が向上した今の自分達なら十分にクリア可能な回数だ。

 しかし大半がゲーマーで引き篭もりでもある自分達には、この罰は精神的にキツい。

 身体は大丈夫なのだが、やっていると心が先にヤラれる。最終的には煩悩を捨て、ただ筋トレをする機械と化してしまう。

 実に恐ろしい。あの2人も最終的には筋トレ最高!とか言いながら恍惚な表情をしていて周りがドン引きしたものだ。

 姫に関する規制が厳しすぎて、抜けた者も数多くいる。

 そういった人達が集まった団では、どうやって彼女に振り向いてもらうか日夜研究しているらしい。

 自分も抜けてそちらに入るのが懸命か。


「ふん、姫に災いが降りかかる前に排除する、か」


 意識を切り替え、少年は副団長のホムラの話に耳を傾ける。

 今回の議題は海の向こう、太平洋のど真ん中に出現した『混沌の地』を支配する『暴食の魔王』ベルゼブブの配下が前線を抜けて日本に潜入している事。

 白の騎士団としては、白姫が奴らの標的にならないようにこれを事前に排除する方針だ。

 敵のレベルは大体60から65。

 団体ではなく能力を過信した単体なので、レベル60の団員でも3人以上のチームで挑めば先ず負けることはない。

 これまでに倒した数は、全団員のを合計すると大体100を越える。

 どんだけ国境の警備がザルなんだよ。3桁以上の敵が本土に入り込んでいるじゃないか。

 『龍王』の区切りも万能ではない。管理されていない危険地域の国境は結界で封鎖しているが、流石に魔王が支配する地域までは力が及ばない。

 かと言って人間の国の国境を結界で封鎖してしまうと、今度は物流などに影響が出てくる。

 故に上陸する敵を未然に防ぐ為には、結局のところ人力に頼らなければいけないのだが。


「その配備されている人員のレベルが40から50では、レベル60を越える悪魔を見つけるのは至難だろうなぁ」


 呟き、少年はうんざりする。

 姫を守ることには全面的に賛成だが、自分はホムラの駒ではない。

 ザルな警備のせいで時間を削って悪魔狩りをするくらいなら、一秒でも姫の事を考えたい。

 幸いにも自分のレベルは65。

 ダンジョンに潜ってレベルを上げることを優先して、姫を守れるような冒険者になるのも良いだろう。

 やはり明日退団するか。

 そう思った矢先の事だった。


「それでは、これより僕らと同盟を組んでくれる最強の仲間を紹介しようと思います」


 副団長のホムラが右手を上げる。

 すると、4人の『白の騎士団』の黒いコートを羽織った人間がステージに上がってきた。

 それに今まで黙って聞いていた周りの団員達が、ざわめき立つ。

 少年は、逆に熱が冷めた。

 このタイミングで同盟?

 戦力の増強ならば丁度良い。自分が抜ける口実にも利用できる。

 そんな事を考えていると、ホムラに促されて一番身長の高い人物がコートを脱いで己の武器を召喚した。

 虚空こくうから地面に突き刺さるは、人の丈ほどある大剣。

 人間が振るうには、あまりにも大きすぎるそれを、コートを脱いだ人物は手に取り軽々と振り回す。

 そして、上段から下段に一閃。

 放たれたのは初級剣技、ガードブレイク。

 会場の中間にいる自分にまで届く衝撃波に、会場は沸き立つ。


「な……あれは『豪剣の鬼』リュウ!?」


 殆どのプレイヤーが使用を諦めた巨大な剣『ティターンの大剣』を手にしたオッドアイの少年。

 それは前衛を担当する剣士なら誰もが理想とする『七色の頂剣』の1人だった。

 彼のファンもそれなりに多い。

 周りの女子の団員達が黄色い声を張り上げる。

 そして次にコートを脱いで姿を現したのは、青い髪の少女だった。

 身に纏っているのは、黒い魔法使いのローブ。

 まさか、と少年が思うと青髪の少女は右手に持つ杖を天にかざして、巨大な魔法陣を展開させた。

 でかい。こんな魔法陣みたことない。

 オマケに魔法陣に込められた魔力量、まさか極限魔法?

 そう思った矢先の事だった、


「極限雷魔法『天雷』」


 小さな口から呟かれたのは、魔法の名。

 それを合図として魔法陣から極大の雷が天に放たれ、廃工場の天井を貫く。

 余りの衝撃に地面は揺れ、団員達から悲鳴が上がる。

 一体何のつもりだ。こんな事をしたら街の人達にこの会合がバレるだろ。

 天井を見上げると、そこには満天の星々が広がっていた。

 …………あ。

 レベルの高い少年は、一目で理解した。

 魔法部隊が作った結界は消滅している。

 だがそれよりも更に強力な対物理と魔法防御、認識阻害、音声遮断等の複合結界が張られていた。

 こんな芸当ができるのは間違いない。


「『荒野の魔女』アリス……」


 先程までの喧騒は彼女の雷によって消し飛んだ。

 静寂の中で、3人目がコートを脱ぐ。

 姿を現したのは、桃色の髪の少女。

 彼女はその場で軽く地面を蹴る。

 バシッと彼女を中心に広がる廃工場に対する干渉。

 ボロボロだった廃工場は、少年達が見ている目の前で一瞬にして真新しい建物に生まれ変わり、天井に穿たれた大穴は整えられて透明なガラスで覆われていた。

 これは、錬金術。

 だが、こんな大規模なモノは見たことがない。

 そこまで考えて、少年はハッと息を飲む。

 『豪剣の鬼』。

 『荒野の魔女』。

 2人も七色の頂剣が姿を現した。

 ということは、この普通の錬金術の領域を超越した技ができるのは『万能の賢者』ケルスしかいない。


「七色の頂剣が3人とか、マジかよ……」


「副団長を入れたら4人だ。あの人達が集まるとこなんて、魔王ディザスター戦の時にしか見たことがないぞ」


「俺なんて始めた時に噂しか聞いてなかったけど、感動したわ。次元が違いすぎる」


「やっば、鳥肌やばいわ……」


「嘘でしょ、あの人達がうちらと同盟組むの? そんなの世界最強じゃん!?」


 周りが騒ぎ出す。

 だが騒いでいるのは下位と中位の団員達だ。

 古参の上位勢は、ステージの上で起きている異常事態を見て察していた。

 おまえらは理解していないのか、あの『天災』で有名な『荒野の魔女』と『万能の賢者』が喧嘩をしていないんだぞ?

 出会えば喧嘩。相手が倒れるまで繰り広げられる死闘。

 場所構わず問答無用で決闘申請を受諾して、周囲を巻き込んでマップの森林を一部荒野に変えてしまった犬猿の仲である2人が、肩を並べて立っている。

 そしてソウルワールドの古参は、彼女達がそうなる理由は一つしかないと結論を出していた。

 コートで顔を隠した最後の1人。

 まさか、彼女なのか。

 少年が思うと、その人は『紅蓮の双剣士』『豪剣の鬼』『荒野の魔女』『万能の賢者』の4人より前に出た。

 副団長が指を鳴らす。会場の全てのスポットライトは、コートで顔を隠す1人の人物に集められる。

 手でコートを握ると、その人は脱ぎ捨てて自身の正体を見ている者達に現した。

 その姿に、目を奪われる。

 光に照らされて輝く純白の長い髪。

 宝石のように美しい金色の瞳。

 人形のように精巧な顔立ち。

 見間違えるなんてあり得ない。

 一度見たら二度と忘れることはできない、この世のモノとは思えない美貌を持つ少女。

 ソウルワールドのプレイヤーでその名を知らない者はいない。

 彼女の名は『しろ戦乙女いくさおとめ』ソラ。

 映像で見ても衝撃を受けたが、直に生で見るとその美しい姿から完全に目が離せない。

 静まり返った世界の中で、自分と彼女しかいないのではないかという錯覚すら覚える。

 可愛い。美しい。

 頭の中が真っ白になり、そんな平凡な感想しか抱けない。

 退団しようとしていた気持ちも全て、白の少女の存在に塗りつぶされる。

 少年は、絞り出すように彼女の愛称を呟いた。


「……姫様ひめさま


 

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