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第25話「白姫と喫茶店の少年」

いつも読んで下さる方々に感謝しております

 真奈の勧めで入った喫茶店の中は不思議な雰囲気で、どこか懐かしさを感じた。

 中は広い。入ると左側にカウンターがあって、椅子はその前にある7つのみ。

 スペースはあるのに、他にテーブルや椅子などは一切ない。

 客入りを気にしてないのだろうか。それとも稼がなくても良いと思っているのか。

 僕が入ると、カウンターの向こう側にいるスーツを着た黒髪金眼の少年は少しばかり驚いた顔をした。


「いらっしゃいませ。これは驚きました。まさか貴方様が此処に来られるとは」


 年齢は見たところ中学生か小学高学年くらいか。

 最初は両親のお手伝いをしている息子さんだと思ったが、彼の落ち着いた喋り方から僕は直ぐに考えを改める。

 カウンターの向こう側に立つその佇まいに違和感がない。そこに立つのが自然なのだと、彼の纏う空気が物語っている。

 それに加え、少年は驚くほどの美貌を兼ね備えていた。

 髪は短く切りそろえており、切れ長の金色の瞳は神秘的な印象を相手に与える。

 それに端正な顔立ちが合わさり、どこかの芸能事務所にいたとしても可笑しくはない。

 将来は絶対にイケメンになる。

 そう思わせる程の美形だった。

 不思議な雰囲気の小さな店のカウンターに立つ幼い美少年。

 これだけの材料が揃っていると、流石に怪しすぎて疑いたくなる。

 テーブルトークRPGというゲームに出てくる登場人物で例えるならば「こいつ絶対に人間じゃないだろ」という感じだろうか。

 現に僕は、少年を見ていると“不気味な何か”を感じた。

 しかもその感覚を、僕はどこかで一度だけ体感した事がある。

 はて、一体どこだっただろうか。

 僕は忘れてしまった記憶を思い出そうと、もっと注意深く少年を見てみる。

 すると急に意図せず発動した僕の洞察アビリティが、少年の底にある何かを見ようとして──


「ああ、すみませんがそれで“見る”のはご遠慮願います」

「っ!?」


 唐突に弾かれた。

 衝撃に少々びっくりして、僕は後ろに倒れそうになるも、同じく驚いた顔をした真奈が咄嗟に手を伸ばして支えてくれる。

 僕は左手で右目を押さえる。

 ダメージは受けていない。本当にただアビリティの効果を弾かれただけだ。

 そんな普通ではない事を目の前でやった少年は、申し訳なさそうな顔をした。


「すみません、まさか防壁を抜けて見てくるのは思いもしなかったので、ちょっと出力を上げ過ぎてしまいました」

「いや、こちらこそごめんなさい。君を見たらアビリティが勝手に発動してしまったみたいで……」


 お互いに謝罪しながらも、蒼は呆然とする。

 なんだ、今のは。

 一瞬だけ見えてしまった。

 『大怨鬼だいえんき』なんて小アリだと思えるような、暗くて底が見えない何かが。

 そんな僕の様子を見て、少年はおもむろに口を開いた。


「少しだけ、見えてしまったみたいですね」

「君は一体……」

「すみませんが内密にお願いします。今のを見た賢者さんも。でないとソラ様以外の人間を抹殺しないといけなくなるので」

「ま、抹殺……!?」

「もちろん、冗談です。ぼくみたいな普通の人間にはそんな事をするだけの力はありませんから」


 全く持って冗談に聞こえない。

 少年は笑ってみせるが、その目は全く笑っていない。

 その気になれば、できるのだろう。

 そう確信させるだけの、異質な力を感じさせた。


「君は、何者なんだ。それに僕の事をソラ様って呼んだけど、その名前を知っているのはソウルワールドのプレイヤーだけだ」

「ぼくはこの喫茶店の店主です。ソラ様の事は、そこにいる賢者さんから良く聞かされているので、耳にタコができそうなくらいには知ってるんです」


 チラリと僕は真奈を見る。

 彼女はグッと親指を立てて深く頷いた。

 どうやら嘘ではないらしい。

 ……上手くかわされた。

 そう思うが、これ以上の追求はできない。

 また、追求した場合に何が起きるかも分からない。

 やぶをつついて蛇が出てくるならまだしも、どうやら相手はそんな可愛い化物じゃなさそうだ。

 でもこのまま引き下がるのは悔しいので真奈と一緒にカウンターに近づき、荷物を床に置いて椅子に腰を下ろすと、ソウルワールドのプレイヤーとして一つだけ彼にアドバイスをした。


「君は知ってるかな」

「……何をですか」

「実はソウルワールドでは洞察等のアビリティを弾くには“レベル10以上の差”がないといけないんだ。そして僕のレベルはこの前69に上がった。つまり君のレベルは、少なくとも79以上あるということになるね」

「…………」


 その言葉に、流石に少年は黙る。

 僕はしたり顔をすると、真奈を見て言った。


「あー、初めて来た店だから何を頼んだら良いのかわからないや。真奈、悪いけど同じのにしても良いかな?」

「う、うん。わかったなの」


 僕から急に話を振られた真奈は頷くと、これがお気に入りと言って珈琲とパンケーキのセットを2つ頼む。

 注文を黙って聞いた少年は小さなため息を吐くと、僕を見てこう呟いた。


「流石は曲者揃いの『七色の頂剣』を束ねた白姫ですね。ぼくを相手にここまで踏み込んできたのは、貴方が初めてですよ」

「褒め言葉として受け取っておくよ」


 僕は相手の目を見据えると、不敵な笑みを浮かべる。

 今日のところは引き分けといったところだろうか。

 そう思っていると、僕と真奈の前に珈琲が入ったカップが2つ置かれる。

 鼻孔をくすぐる深くて濃厚な挽きたての珈琲の香り。どうやら喫茶店の店主としての腕前の方も確かなようだ。

 手に取り、一口飲む。

 これは美味い。

 そう思った直後の事だった。

 背後の扉が開き、中に入ってきた青髪の少女が僕達を見ると、今まで聞いたことがない叫び声を上げた。





◆  ◆  ◆





 気軽に入った、妾のお気に入りの喫茶店。

 そこで大好きな人を見つけたと思ったら、その隣に大嫌いな奴もいた。

 桃色の髪を両サイドだけ伸ばして、後ろは肩辺りでバッサリ切っている特徴的な髪型。

 いつも眠たそうな目で、此方を見る忌々しくも妾に勝るとも劣らない美しい顔立ち。

 しかも着ているのは神威高等学校の制服。

 つまりは壱之蒼と同じ学校に通っている事になる。

 そんな情報は知らない。初耳だ。

 というか、前に会ったときは皇帝高等学校の制服を着ていなかったか。

 まさか転校したというのか。

 蒼様と同じ学校に通う為に?

 つい目の前の信じられない光景に叫び声を上げてしまったので、店主と2人の少女の視線は此方を向いている。

 アリスは宿敵と定めた賢者の少女を睨みつけると、振り絞るように名前を口にした。


「真奈、お主……っ!?」

「アリス、お久しぶりなの」


 スッと右手を上げて余裕の挨拶をする真奈。

 アリスは挨拶をする余裕もなく、ただ疑問を彼女にぶつけた。


「な、なぜ故に蒼様がお主の隣にいるのじゃ」

「ふふーん、それは今日からわたしが姫様の護衛になったからなの」

「な、なんじゃと!?」


 キラリと光るカードをポケットから取り出して見せつける真奈。

 そこに刻まれている文字を読んで、アリスは驚きのあまり言葉を失った。

 護衛許可証、対象『壱之蒼』。


 ほ、本物じゃと……!?


 要人を護衛する事を国際的に認められた者にのみ与えられる特別なカード。

 公の場、例えば国際的な行事に壱之蒼が出席した場合、例え本人が容認したとしても護衛許可証を持っていないと基本的には同伴は許されない。

 公式の場でも常に彼女を側で守れる。

 それが護衛許可証の力だ。

 しかも世界七剣の名家から護衛許可証を貰える事は基本的にはない。

 何故ならばどの名家も、護衛者を募ると何千万という希望者が出てくるのだ。

 そんなの一つ一つ審査していたらキリがないし、決定するまでに時間が掛かり過ぎる。

 故に基本的には高レベルに条件付きで募集をするのだが、この半月の内に壱之家が護衛者を募ったという話しは聞いていない。

 どういう経緯でアレを手にしたのかは分からないが、一つだけ言える事がある。


「う、羨ましいのじゃっ!」


 久しぶりの完全敗北に、アリスは床に両手をついてがっくりする。

 真奈は歩み寄るとその前に仁王立ちして、ドヤッと大きな胸を張った。

 その光景を微笑ましく見ている壱之蒼と喫茶店の店主。

 しかし負けてばかりではいられない、アリスは即座に立ち上がると真奈と相対して切り札を出した。


「護衛の件は羨ましいが、妾は蒼様とデートする約束をしているのじゃ、羨ましいじゃろ!」

「で、デートなの……!?」


 本当なの?と白の少女を見る真奈。

 彼女が苦笑して「色々あってね」と頷くと、狙い通りライバルはショックを受けたらしくわなわなと身体を震わせた。


「む、むー、羨ましくなんかないもん」


 涙目で強がる真奈。

 これで1勝1敗か。

 ずっと護衛をしていられるという点では真奈に圧倒的にリードされてる感は否めないが、これでまだ戦える。

 更にアリスは畳み掛けるために、もう一つの切り札を使った。


「しかも妾達はこの前ダンジョンに行っての、中々に楽しい冒険をしたのじゃ」

「…………………………………………………ッ」


 ピキッと何かがキレるような音がした。

 俯いた真奈の双眸が、殺意を宿して光る。

 彼女は右手をこちらに向けると、巨大な五芒星の魔法陣を展開。

 そこに込められた魔力の強さに、真奈がどれだけ本気になったのかが察する事ができる。

 かなりヤバいのを召喚する気だ。

 それもこの周辺くらいなら、一瞬で灰燼に帰す事ができる程度のヤツを。


 受けてやろうではないか!


 その殺意に応え、アリスも後ろに跳んで詠唱を始めた。

 最上位召喚術と極限魔法。

 ぶつかればこの周辺は間違いなく消し飛ぶ。

 ヒートアップしてしまった2人は、そんな事を全く考えずにただ目の前の敵を排除するべく行動する。

 前と同じ展開になったことに、店主がため息をついて立ち上がろうとする。

 それを右手で制して白の少女が立ち上がると、周りが見えなくなっている2人の間に割り込んだ。


「はいストップストップ。君たち決闘申請も済ませてないのに、ただ無闇にここら辺の建物消し飛ばすつもりなの?」

「ゔ、あ、蒼様……」

「そ、そんなつもりは……ない、の……」


 蒼が間に入る、たったそれだけで2人の殺意が霧散した。

 他の者では無視されて巻き込まれるだけなので、これには店主の少年も驚かされる。

 しかも、それだけではない。

 2人は戦闘行為を中断すると、怒られた子供のようにしゅんと大人しくなった。

 蒼は歩いて2人の首根っこを掴むと、少年の所まで連れて行く。


「それじゃすぐに仲直りして、それと店主さんに迷惑をかけた謝罪もするんだ。じゃないと一ヶ月くらい僕と会うのを禁止しちゃうぞ」

「ごめんなさいなのじゃ!」

「わ、わたしも、ごめんなさいなの!」


 絶対に仲良くしない2人が握手をして、その場で店主の少年に謝罪する。

 その有り得ない光景に、流石に少年も感動してしまった。


「2人のそんな姿初めて見ました」

「そう? 僕の前だといつもこんな感じだけど」

「ああ、あの人が言っていた言葉の意味が、今ならぼくにもわかる気がします」

「?」


 少年の意味深な発言に首を傾げる蒼。

 その一方で、この上ない恐怖を与えられたアリスと真奈は、涙目で抱き合ってガタガタ震えていた。


 い、一ヶ月も会えないなんて寂しくて死んでしまうのじゃ!


 それはアリスと真奈が心の底から共通した感想だった。



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