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第四十一話 minaのマンション

 鎌倉のminaの実家を訪問してから数日後。


 minaと一緒に作曲をする場所を電話で聞いて、オレはビックリした。


「えっ! minaのマンションでするの?」

「うん、私の部屋なら、ある程度機材は揃ってるし、岡安さんもそれでいいって」

 minaは電話でうれしそうに語った。


「minaのマンションって……もしマスコミに嗅ぎつけられたら、うるさくない?」

「大丈夫、ちゃんと考えがあるから。真由ちゃんと、雨宮さんも協力してくれるから。ライブまで日にちがないから、早速明日から二泊三日、泊まり込みでね」


「えっ! 泊まりって、それまずくない?」

「まずくなんかないよ。そんなに私の部屋に来るのがイヤ?」

 minaは電話口で、ちょっと拗ねたような声をだした。


「い、いや。そんなことないけど。仕事もあるし、大丈夫かな……」

「仕事の方は、雨宮さんがなんとかしてくれるみたい」


「わ、わかった。えーと、着替えとか、それくらい用意していけばいいかな?」


「うん、カズくんと曲を作るの、楽しみにしてるよ。チュッ」

 minaは電話越しに、オレに口づけをしてくれた。


「あ、ありがとう、mina」

「カズくんからのキスは?」


「わ、わかった。楽しみにしてるよ、mina……チュッ」

 オレは、生まれて初めて、電話越しにキスの音を出した。

 相手が目の前にいないのに、顔から火が出るほど恥ずかしい。



 そして、翌日。


 マスコミが常時minaのマンションの前に張り付いているとかそういう訳ではなさそうだが、一応念のためということで、岡安さんが銀行まで車で迎えに来てくれて、カモフラージュのため真由ちゃんと、オレが、minaのマンションまで行くとのこと。


 明日は、雨宮さんが、真由ちゃんの役をやってくれるらしい。


 真由ちゃんも一緒に泊まるわけか。

 がっかり? いや、そんなことない……。

 minaのマンションは、何回も建物の前まで送っていったことはある。

 C社からも程近い、高層マンションだ。

 

 minaはすでに帰宅しているとのこと。

 掃除をして、待っていてくれるらしい。


 マンションの部屋のドアを開けると、minaが出迎えてくれた。

 minaはゆったりとした淡いピンク色のワンピースを着ていた。ルームウェア……かな? 化粧っ気が少なく、なんか芸能人の裏側を覗いた気がして、オレはそれだけでドキドキした。


「いらっしゃい、カズくん。真由ちゃんも、どうぞ」


「なんか、久し振りかもこの部屋に来るの」

 真由ちゃんはそう言って微笑んだ。


「あれ!? 真由ちゃん来たことあるの?」


「ふふっ、一応、わたし、minaちゃんの親友ですから」


 確かにこの二人、仲いいもんな。


「佐伯さん、来たことないんですか? 彼氏なのに……」

「私は夜遅くでもいいから来てって言ってるんだけど、カズくんが……」

 minaは少し不満そうに言っていた。


「いいなあ、minaちゃん、大事にされてるみたいで」

 真由ちゃんが羨ましそうにつぶやいた。


「そ、そんなことないよ。なんかごめんね、真由ちゃん」

 なんで謝ってるんだ? minaは?


 minaの部屋は2LDK。ゆったりとしたリビング。ダイニングも4人掛けのテーブルがあってかなり広い。

 窓からは、都会の夜景が綺麗に見渡せた。

 遠くには、夜の闇に浮かび上がる東京タワーが見える。

 芸能人が住むような部屋。そんな感じだ。


「ごめんね。私、料理ニガテだし、時間もなくて……ご飯は宅配ピザなんだ」

 minaが申し訳なさそうに言った。

「そんな、時間もないだろうし、気にしてないよ」


 リビングも慌てて片付けたのか、さすがに床の上には置かれてなかったが、テーブルの上や、棚の上に書類が少し乱雑に積んである。たぶん、楽譜、とかかな?

 minaの部屋って、普段はもしかして、結構散らかってる?

 いや、芸能人だし、忙しいからしょうがないのだろう。


 minaと真由ちゃんと三人でピザを食べながら、しばし語らった。

 共通の知人、友人。草橋支店長、雨宮さん、岡安さん、田中の話題とかそんな感じだ。

 

「minaちゃん、四月に事務所を移籍してから、どんな感じ? やっぱりお仕事がたくさん来て、忙しい?」

 真由ちゃんがシーフードピザを可愛らしい口に頬張りながら、聞いた。


「うん、そうだね。岡安さんも頑張ってたくさんお仕事を入れてくれて。映画の撮影とか、こないだカズくんと一緒にやった男性ファッション誌のお仕事も楽しかったな」

 思い出すような仕草をしながら、楽しそうに語る、mina。


「すごーい、新しい世界にどんどんチャレンジしてるもんね。ほんと芸能人って感じ! 社長さんはどう? 結婚式でお見かけしたけどできる男って感じ。職場でもシブいの?」


 あれ? 社長ってイジワルで嫌味なやつだと思ってたけど、そういう評価なの?


「そうだね、社長さんは仕事には厳しいけど。陰では見守ってくれている気がする……お父さんみたい、とは言わないけど、親戚の叔父さんって、感じかな」

 minaが微笑みながら、そう言った。


 そうなのか……まあ、minaは大事な稼ぎ頭だから、社長もさすがに直接イジワルはしない……のかな。オレにはかなりキツイが。何でなんだろうな……?


 ちなにに田中は、半ば雨宮さんに強引に脅されてオレの仕事を引き受けてくれていた。

 すまん、田中……。


「じゃあ、わたしは部屋でテレビでも見てますので、あとはごゆっくり」

 真由ちゃんはそう言って、自分があてがわれた部屋に引っ込んでいった。


 あれ? てことは、minaと二人っきり?


「やっと二人っきりになれたね、カズくん」

 minaが少し照れながら微笑んで、オレに近づいてきた。


 長い光沢のある髪が揺れて、柔らかいminaの香りがする。

 淡いピンク色のゆったりとしたワンピース。

 本当に何を着ても似合うよな。


「う、うん」

 そのまま、minaを抱きしめたい衝動に駆られるけど、奥の部屋には真由ちゃんもいるし、minaをギュッとして、その先の事までしてしまっては、オレも押さえが効かなくなってしまう。


「大丈夫だよ。この部屋、防音しっかりしてるから。私たちが、どんなことしてても、聴こえないよ」

 オレの不安を見透かすような、mina。


「で、でもさ。今日は、曲を作りに来たわけだし……」

 しどろもどろになる、オレ。


「わかってるよ。じゃあ、これだけ」

 minaはそう言って、背伸びをして、オレのくちびるに軽く口付けをしてくれた。

 それだけでオレの頭はジーンとしびれた。

 甘美な……ひととき。


「そ、そうだね。えーと何からしようか?」


「そうね、ちなみにカズくんは、私の曲の中で、どの曲が一番好き?」


 うーん、これは簡単そうに見えて結構難しい質問だ。

「もちろん、全部!」とか言ってしまえば、

「ちゃんと聴いてるの?」とか言われるかもしれないし。

 でも、正直に言うのが、一番だよな。


「やっぱり、『大切な人達へ』かな。オレにとっても思い出の曲だし。minaにとっても、紅白に出場した思い出の曲だし」


「うんうん、あとは?」


「あとは、『ノンフィクション』ハヤトとの決闘前によく聴いてた。何かにチャレンジする時に、背中を押してくれるような、そんな曲だよね」


「やっぱり! 私もそういう想いで作ったの。あとはライブで盛り上がるようにって」


「そうだよな」


「でもね、去年の今頃はね……『過去の自分にウジウジして、嘆いている人には、理想の未来は来ない!』って、そんな気持ちでライブとかで歌っていたんだ」


 去年の今頃って、ウジウジしている奴って

 うーん、どっかにそんな奴いたような……

 あれっ! もしかして……オレのこと?


 minaはニヤニヤした笑みを浮かべながら、こちらを見ていた。


 これは、もしかしたら、浮気なんてしたら、とんでもない歌を作られるかもしれない。いや、しないよ。浮気なんて。mina一筋だから。


 目の前で笑う愛しい彼女を見ながら、オレの背筋は少し寒くなった。

minaの曲について


『大切な人達へ』

minaの佐伯や仲間たちへの想いを歌ったバラード調の曲

「私も、夢に向かって進んでいるよ」

「だからあなたも、自分の信じた道を、どこまでも駆けて行って」


『ノンフィクション』

ライブで盛り上がる、minaのエレキギターのサウンドが響くアップテンポな曲。

「人生の主役は、いつだって自分自身」

「だから、自分の可能性、全て信じて、もう一回やってみようよ」


そんな感じの歌詞です。

作詞 詩野紫苑(照れ)

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