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第11話 “幼馴染”の協力

 由弦と愛理沙が携帯で楽しく会話をした日の放課後。

 由弦は亜夜香と千春の二人に屋上へと呼び出された。


「何の用だ? 亜夜香ちゃん、千春ちゃん」


 何か、おふざけでも思いついたのだろうか?

 と、割と失礼なことを考えながら由弦は二人に尋ねた。


「単刀直入に聞いて良い? ゆづるん」

「別に構わないが……」

「ゆづるん、結局愛理沙ちゃんのこと好きなの?」


 亜夜香にそう尋ねられ、由弦はわずかに自分の顔が熱くなるのを感じた。

 照れ隠しで頬を掻き、目を逸らしながら返答する。


「まあ……それは見ての通りだが」


 客観的に見て、由弦が愛理沙のことをそれなりに好いていることは明白だ。

 それくらいは当然、由弦も自覚している。

 

「じゃあ、愛理沙さんが由弦さんのことが好きなのも分かってます?」

「……まあ、両想いだと思っているよ」


 千春の問いに対して由弦は答えた。

 先日、寝言ではあるが愛理沙は確かに由弦に対して「好き」と言ってくれたのだ。

 両想いなのは間違いない。


「ふーん」

「へぇ……」


 由弦の回答を聞いた亜夜香と千春は……


「水臭いじゃん、ゆづるん!」

「私たち、幼馴染なんですし、相談してくださいよぉー」


 にやにやと笑いながら、亜夜香と千春は小突いてきた。

 揶揄う気満々だ。

 だから二人には伏せたかったのだ。


「いつから? やっぱり誕生日プレゼントは愛理沙ちゃん? その時から好きだったの?」

「それともプール辺りからですか? クリスマスは一緒に過ごしたりしたんですか?」

「ええい! やめろ!!」


 由弦は寄ってくる亜夜香と千春を強引に引きはがす。

 そしてため息をついた。


「君たちはそうやって……揶揄うだろ? ……だから言いたくなかったんだ」

「その割には隠す気が感じられなかったけど?」

「恥ずかしいならもう少し、人目を気にされては如何ですか?」

「はいはい……俺が悪かったよ……」


 由弦が不機嫌そうに答えると、二人は苦笑した。


「まあまあ、そんなに拗ねないで」

「宗一郎さんと良善寺さんにはもう話したんですか?」

「話したよ……あとは、まあ、君たちに言っておいて凪梨さんに隠すのも悪いから、言っても良いよ。……他に話すのはやめてくれ」


 由弦がそういうと、二人は大きく頷いた。


「当然だよ。私たち、口は堅いから」

「言って良いことと言っちゃいけないことの区別はついていますから」


 口は堅い……が真実かはともかくとして、二人が由弦の信用を裏切ったことがないのは事実だ。

 だからここは信じても良いだろう。


「それでさ、どうして告白しないの?」

「踏ん切りが付かないとか、そういう情けない理由ですか? それとも、もう実質恋人同士だから良いかなみたいな理由ですか?」


 由弦は首を左右に振った。


「告白する予定だよ。……然るべき時に、然るべき方法で。ほら、前、愛理沙は言ってただろ……ロマンティックな展開が良いって」


 忘れたとは言わせないぞ。

 と、由弦は亜夜香と千春に言った。


 何しろ、その愛理沙の気持ちを知ることができたのは、亜夜香が“王様ゲーム”で妙な命令をしたからだ。


「なるほど、さすがゆづるん。……どこかの誰かと違うね」

「……」

「……」


 どこかの誰かが誰なのか、一瞬で察した由弦と千春はノーコメントを貫いた。

 一方、亜夜香の方も変な空気になったことに気付いたのか、誤魔化すように話題を進めた。


「じゃあ私たちが手伝えることはない感じかぁー」


「まあ……そうだね。強いて言えば、愛理沙に対して……俺が告白しない理由が好意がないからとか、優柔不断だからとか、そういうわけではないことを伝えてくれれば……きっと、焦れているだろうし」


 由弦が愛理沙の立場ならば、どうして告白してくれないのか、と不安に思うだろう。

 もしかしたらイライラしているかもしれない。

 

 由弦は自分から思いを伝えたいと思っているので、愛理沙の方から思いを伝えられるのは本意ではない。


 それに愛理沙に情けない男だと思われるのも嫌だ。


「そうですね。由弦さんはやる時はやる男だと伝えておきます」


 千春はそう答えた。 

 それから、先ほどから何かを考えこんでいた様子の亜夜香が口を開く。


「あのさ、もしゆづるんと愛理沙ちゃんが恋仲になったらさ。学校ではどうするの?」

「うん? いや……まあ、今まで通りに隠す方針かな。愛理沙は知られたくないらしいし……」


 愛理沙は好きな人もいないし、恋愛には興味がないということになっている。

 にも関わらず、由弦と唐突に恋仲になれば、彼女の“友人”から不興を買うだろう。

 愛理沙はそれを危惧している。


「でもさ、デートとかしてたらいつかは見つかっちゃうじゃん?」

「恋仲になってしまった後なら、無理に隠す必要もないんじゃないですか?」

「いや……まあ、そうだけど。けどなぁ、今まで俺と愛理沙には何もなかったのに、唐突に恋人になりましたってのは……」


 それは愛理沙が意図的に隠していたことを意味する。(事実として意図的に隠していたのだが……)

 それは対外的にあまり良くないこと……らしい。愛理沙にとっては。


「じゃあ、唐突じゃなければ良いんじゃない? ゆづるんがいつ頃告白するつもりなのか……は正直、見当がついているけど、その時までに学校でのゆづるんと愛理沙ちゃんの距離が近づいていれば良いんだよ」


「それは確かにそうだけど……具体的にはどうするんだ? ……今まで俺と愛理沙には付き合いがなかったわけだし、やっぱり急に距離を詰めるのは唐突じゃないか?」


 何かしらの自然な切っ掛けが必要だ。

 由弦がそう言うと、亜夜香が満面の笑みを浮かべて、その大きな胸を張った。


「そこは任せて! 私には名案があるから」

「名案? どういう案ですか?」

「それはね……」

「なるほど! さすが亜夜香さん!」


 由弦を放っておいて、勝手に盛り上がる亜夜香と千春。

 さすがに当事者である由弦としては、その“名案”とやらを聞かないわけにはいかない。


「どういう案だ?」

「それはね……明日分かるよ」

「大船に乗ったつもりでいてください」


 年の割に大きな胸を自信満々に張る二人の幼馴染。

 本当に大丈夫かなぁ……

 と由弦は不安に駆られた。






 さて、翌朝。


「おはようございます、由弦さん。これ、どうぞ」

「ああ、愛理沙。おはよう……ありがとう」


 今日も愛理沙は由弦のマンションまで、弁当を届けに来てくれた。

 由弦は愛理沙にお礼を言って、弁当を受け取る。

 いつもならばここで洗った弁当箱を、味の感想と共に愛理沙に渡すのだが……


「無理はしていないか? 今日も休んでくれても……というのは、何か変な表現だけど」


 病み上がりということもあり、昨日の分の弁当は遠慮したのだ。

 だから今日は愛理沙に返却する弁当箱はない。


 一方、愛理沙は目を細めて、微笑んだ。


「大丈夫ですよ。本当は昨日も作りたかったくらいです。……私、結構楽しんで作ってるんですよ? 由弦さんのお弁当」


「……そうか? まあ、それならば良いけど」


 愛理沙の親切を無理に断ったり、否定するのは失礼だ。

 そう考えた由弦は素直に引き下がる……前に一言、伝えて置くことにして。


「ともかく、君に無理をさせるのは、俺の本意ではないから」

「はい、分かっています。無理のない範囲でやりますよ。……面倒だなと、そういう気分になったら、メールでお伝えしますね」


 冗談めかした雰囲気で愛理沙はそう言った。

 由弦も思わず笑みを浮かべる。


「……では、私は一足先に学校に向かいます」

 

 愛理沙はそういうと踵を返した。 

 少しだけ名残惜しそうだ。


 そしてそれは由弦も同じ気持ちだ。


「あのさ、愛理沙」

「何ですか?」


 愛理沙は立ち止まり、振り返った。

 亜麻色の髪がふんわりと、揺れ動く。


「……一緒に登校するのは、難しいかな?」

「朝は夕方とは違って、人目がありますから……」


 夕方、放課後はそれぞれ生徒たちは帰る時間帯がバラバラなので、クラスメイトに目撃される可能性は意外に低い。

 だが朝の登校時間は(部活の朝練等がある生徒は別として)被りやすいので、どうしても人目に付く。


「そう、か……」

「はい……すみません」

「いや、良いんだ。こちらこそ、変なことを言ってすまないな」


 由弦は立ち去る愛理沙の後ろ姿を見ながら……

 少しだけ、亜夜香と千春の“名案”に期待した。




 そしてその日の昼休み。

 今日も宗一郎や聖たちと昼食を食べようと、由弦は席を立った。

 教室を出て、彼らと合流しようとすると……


「ゆづるん、今日は私たちも混ぜてよ」


 教室の前で、亜夜香が由弦にそう言った。

 そして亜夜香の背後では千春が教室の中の人に手を振り……そして言った。


「せっかくだし、愛理沙さんも一緒に。どうですか?」


つまり友達の友達は友達作戦である。





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― 新着の感想 ―
[良い点] いいアシストするじゃない!
[一言] 番外編で結弦の男だけとか見てみたいw
[一言] やるな亜夜香、千春コンビ
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